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六話

「見つからないな」


 ゴブリン達を倒してから一時間程魔物を探して森の中を歩いているのだが、見つかる気配がない。

 だが、これは当たり前のことだ。いくら奥の方まで入ってきているとはいえここは街道沿いの森、旅人や商人に被害が出ないよう常にギルドが魔物の討伐依頼を出している。魔物の方も街道に近づけば人に狙われるのはわかっているため森の浅い所に出てくることはあまり無い。

 さっきのゴブリン達はリーダーとなる上位種がいたからここまで来ていたのだろう。


「でも上位種が一匹だけってのはおかしいよな。この森の中にゴブリンの集落でもあるのか?」


 基本的に上位種が出現するのはその魔物の数がかなり増えた時だけだ。ゴブリンは繁殖力が高いため上位種が出現し易い魔物だがさっき出て来たのは二十匹程、いくらゴブリンと言ってもその数で上位種は出現しないはずだ。ということはもっと大きな集団から出て来た可能性が高い。部隊を作って動かすような知能となるとゴブリンリーダーがいると思われる。そうなると小さな集落ぐらいは作っているだろう。


「集落があるならもっと奥か?戻る時間も考えると探せるのは一時間ぐらいだな」


 一応、空間転移魔法を使えば一瞬で戻れる。だが、アイテムボックス以外の空間魔法は扱える者が少ない上に長距離転移まで出来るのはごく一部なのでバレれば確実に面倒事になる。街から少し離れた場所に転移できればいいんだが基本的に空間転移は発動者がしっかりイメージできる目印になるものがないと転移できない。街の周辺で人に見られない場所に目印になるものは無かったので時間は掛かるが歩いて帰るしかないというわけだ。

 ゴブリンの集落を探すとなると森の中からでは時間が掛かるので上から探すことにする。


「『フライ』」


 名前の通り空を飛ぶ下級風魔法だ。

 木々よりもかなり高い位置まで上り、辺りを確認する。


「あれか」


 距離までは分からないが離れた所に木の生えておらず、小さな家らしきものが建っている場所がある。空を飛んだまま一気に加速して近づき様子を探る。

 見た感じその村にいるのは二百匹ほどだろうか、ゴブリンの繁殖力を考えるとそこまで多くない。そのせいか村としてはあまり出来上がっておらず、木が切られている場所の半分ほどが手付かずの状態だ。


「作っている途中か。上位種も結構いるな」


 普通のゴブリンよりも体格が大きく、粗末ではあるが剣や弓を持ったゴブリンが何匹か見ることができる。

 確認できる限りでは剣を持ったゴブリンソルジャーと弓を持ったゴブリンアーチャーが各十匹にメイジとクレリックの区別ができないが杖を持ったゴブリンが十匹程。それと狼らしき動物に乗ってるゴブリンライダーが五匹だ。


 「ゴブリンリーダーが確認できないな。この規模なら確実にいるはずだが」


 ゴブリンリーダーはその名の通りゴブリンのリーダーだ。普通のゴブリンより二回り程体格が大きく知能も高い。そのため、こいつが出現するとゴブリンが統率の取れた動きをするようになるので一気に数が増える。戦闘能力も割と高くランクにすればDになる。他の上位種は大体ランクEだ。

 そのゴブリンリーダーだが何処かの建物の中にいるらしく確認できない。


「仕方ないな、取り敢えずこいつらを殲滅する方法を考えるか」


 こちらは一人なので逃さないようするには一撃で殲滅するのが手っ取り早い。そのためにはゴブリンの集落全体を吹き飛ばせる魔法を使うのが一番いいんだがそんなことすると周りの森にかなりの被害が出る。

 それに武器を持っているということは商人や旅人を襲っているだろう。それで手に入れたものがあるはずなので出来れば回収したい。金に余裕はあるがいくらあっても損はないからな。


「……結界で集落全体を囲って逃げられないようにした後、殲滅するか『移動制限結界』」


 その言葉と同時にゴブリンの集落と森の境目に沿って一筋の魔力光が走る。何体かのゴブリンは魔力光に気付いているようだがやはりそれが何なのかはわからないようだ。

 結界魔法は魔力光で効果範囲を指定して発動する。発動するまでに時間がかかる、発動するまでは指定した範囲が丸分かり、指定した範囲は発動後に動かせないとデメリットは多いが広い範囲に様々な効果を発生させるため基本的にはトラップとして事前に設置したり自陣の拠点に設置する魔法だ。当然、敵を囲うように発動するものではない。

 今はゴブリン相手に使っているから逃げられていないが結界魔法が何なのか理解している相手なら魔力光を見られた時点で範囲外に逃げられているだろう。

 三十秒程経って結界の範囲指定が終わり効果が発揮される。森に出ようとしたゴブリンが見えない壁に阻まれて首を傾げている。


「問題ないな。さて、殺りますか」


 フライを解除しゴブリンの集落中心に着地。それに気付いたゴブリン数匹が襲い掛かって来るが横薙ぎの一閃で全て斬り飛ばし、少し離れている者は『ウィンドアロー』や『アースランス』を撃ち込んでいく。

 数は多いが単なるゴブリン、完全に作業だ。剣閃と魔法の嵐が吹き荒れ、近づく者は刀で両断され、逃げるものは魔法で撃ち抜かれる。

 結界の範囲内を移動しながら二百匹ほど倒した所で動いているゴブリンはいなくなった。周囲を見回すとゴブリンの死体がそこら中に散乱している。

 それを確認した直後頭の中に声が響く。


《規定された魂の収集を完了しました。身体強化Ⅰを開放します。これにより身体能力が10%増加します》


 追加効果の二つ目か。今回は普通にステータス強化のようだ。


「それよりゴブリンの処理をしないとな。結界内に生命反応はないしリーダーも殺したはずだがいつ殺したのかわからないな」


 最初の方は殺した相手が何なのか確認していたが途中から面倒臭くなって殺した数しか確認してなかった。と言ってもゴブリンは上位種でも素材になる部位が殆どないのであまり問題にならない。

 

 「後は建物内の確認と死体の処理か……集めて焼くしか無いよな」


 数匹の死体を放置する程度なら何の問題もないがこの数だと他の魔物が餌にして大繁殖しかねない。という訳でゴブリンの死体を集落の中心に集めながら建物内を確認していく。


「ここか」


 ゴブリンの死体を大体集め終わり確認していない建物も後数件といった所でゴブリン達が旅人や商人を襲って手に入れたであろう物を置いてある倉庫を見つけた。一通り倉庫の中を確認して手に入ったのは金貨六枚、銀貨十一枚、銅貨十五枚に安物だろう剣、槍、弓矢がそれなりの量だ。


「金はいいんだが武器はどうするかな……エリクに買い取れるか聞くか」


 別に武器は必要じゃないがこのままここに置いておくと盗賊やゴブリンのような魔物が利用するかもしれない。なので、回収しておく必要がある。

 倉庫の中の物を粗方アイテムボックスに入れ、ゴブリンの死体を焼却し空を飛んで森を出る。


「ギルドにゴブリンの集落があったことを報告し……ないわけにもいかないな。まあ、試験の件が広まってるようだから実力を隠しても仕方ないか」


 アレルドへ帰ってきて、集落のことを報告するか考えていたが報告しなかった場合、別の冒険者がゴブリンの集落跡に行くと怪しまれる可能性がある。そっちのほうが面倒な事になるだろう。それに、襲撃時村にいなかったゴブリンが戻ってきているかもしれないのでその掃討もしてもらわないといけない。

 そのことを考えている内にギルドへ到着、中へ入る。


「おっハルト、初依頼はどうだった?」


 受付まで近づくとその近くにいたジュードが声を掛けてきた。


「問題なく終わったよ。取り敢えず依頼の報告をさせてくれ」

「おお、済まないな」


 受付の前で話し込む訳にはいかないのでジュードには後にしてもらい受付嬢にギルドカードを渡す。


「依頼の達成報告をしたいんだが」

「はい、ゴブリンの討伐ですね。では、この板に手のひらを当ててください。これでゴブリンの討伐数がわかります」


 さて、上位種も含めるなら二百体以上殺しているが大丈夫か?


「え!?」


 受付の人はかなり驚いている。そりゃそうだ、昨日登録したばかりの新人がこんなに討伐してきたら驚く。と言うかジュードも覗きこんで見てるな。まあ、ジュードはギルド職員だから問題ないか。


「お前これどうしたんだ?」

「その討伐数についてだが北の街道沿いにある森でゴブリンを討伐中、ゴブリンの集落を発見したので殲滅した」

「殲滅って、この数だと上位種もいただろ。それを一人でか?」

「そういうことだ。それで殲滅時、集落の外にいたゴブリンがまだ残っているだろうから森の中を探った方がいい」

「周辺の掃討については上に上げておく。それよりもお前のことだ。試験を担当したは俺だから強いのは知ってたがここまでだとは……」

「ジュードもゴブリン程度ならこのぐらい倒せるだろ」


 ゴブリンは上位種を含めてもF、Eランクだ。二百体となるとCランクじゃ難しいかもしれないがBランクなら倒せるだろう。


「そりゃ倒せるが一人じゃキツイ。それにお前、自分が新人だってわかってるか?」

「昨日の試験、一撃で倒したことが広まってるらしいから問題ないんじゃないか?」


 戻ってきてからもチラチラ見られてる。


「……まあ、ギルドの戦力が増えるならいいか。ただ、これから色々巻き込まれると思っとけよ」

「わかってるさ。それで報酬なんだが」

「はい、討伐数が238体でしたので銅貨714枚になります。両替しますか?」


 ジュードと話してる間に受付嬢も元に戻ったな。若干笑顔がひきつってるが。


「ああ、頼む」


 一旦ギルドの奥に行ったに受付嬢が金貨七枚、銀貨一枚、銅貨四枚を持ってきたので受け取る。受け取る時目線が怪しい奴等もいたがエリクの工房へ向かう途中に襲って来ることはなかった。王都だから下手に喧嘩を起こせないのだろう。

 工房へ入るとすぐにエリクが声を掛けてきた。


「遅かったじゃねえか、腕輪なら出来てるぜ」


 魔石が埋め込まれた銀色の腕輪を三つ重ねた形の腕輪を渡してきた。


「名前はトリニティブレスレット。取り敢えずはめてみてくれ、サイズの確認をしないとな」


 そう言われたので左腕に腕輪をはめる。サイズは問題ないようだ。


「大丈夫だな。他にも何かいるなら言ってくれよ、安くしとくぜ」

「ああ、何かあったら頼むよ」


 その後は何もなく宿に戻り冒険者としての一日目は終わった。

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