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1ー9.真夜中のお茶会(中編

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 1ー9.真夜中のお茶会(中編

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「わかった。でも初めに言っておきたいことがあるの」

「私は亡霊でも、キミ、でもない」

 文継の姿勢は、目を擦りたくなるほど誠実なものへと変わっていた。

 それに触発されて、彼女もまた真剣な面持ちでたたずまいを整え直す。

 無意識に千冬は自らの胸元を握り締め、ひたすら真摯に彼を見つめ返すのだった。

「私は古宮こみや千冬ちふゆ。いいえ、上苑かみぞの千冬と名乗るべきなのかもしれない」

(…………上苑……?)

 彼女が不快そうにその苗字を名乗ると、彼の目線は記憶を探るように真横へとそらされる。どこかで聞き覚えのある響きだった。

「私は殺された。大丈夫、もう取り乱したりなんかしないから」

「…………」

 遠い昔、読書会で出会った少年が、そんな名前だったかもしれない。

「まさかあんな暴挙に出るなんて、思いもしなかったの」

 もはや少年の顔立ちはおぼろげだが……。

 千冬と似ているかといえば……どこか雰囲気に共通点があるかもしれない。

「それだけ落ち着いているようなら大丈夫そうだね」

「ならキミは、一体誰に殺されたっていうんだい?」

 それは重要な質問だ。場合によっては、あっさりと事態が解決する見込みもある。既に刑罰や、報いや報復を受けて、鬼籍に入っている可能性だってあるだろう。

「……………………」

「それは…………」

「………………あ、れ……?」

 ところが世の中そう簡単じゃない。

 彼女はその質問に黙り込み、ついには答えることが出来なかった。

「…………ま、待って……あれ……なんで……?」

「わたし…………犯人の顔……見たはずなのに…………」

 焦るように、千冬は頭を抱え込む。

 絶対忘れてはいけない、大切な真実なのに。

「……………………」

「思い……出せない…………わたしを殺したアイツの……姿だけが……」

 彼女の記憶からは、犯人の姿形だけ消し飛んでいた。

 それはいくら思い返しても、糸口すら見いだせない完全なる忘却だった。

「思念体となったショックで、記憶があいまいになっているのでしょう」

「思い出せないのは、よっぽど強烈なトラウマを受けたからではないでしょうか」

 無理はしなくても良いと、零夏は千冬の傍らに立って肩を抱く素振りを見せた。千冬の表情は苦しげで、困ったことに思い出そうとすると辛い鈍痛が走るようだった。

「おいキミ、無理をするな」

「でも……わたしは……どうしても……うっっ、ううっっ……」

 それでも彼女は記憶の探索を止めなかった。甘んじで苦痛を受け入れてでも、上苑千冬は想いを遂げなくてはならなかった。

「止めろ、茶が不味くなるじゃないか」

「で、でも……でも……わたしはぁ……っっ」

「落ち着いて下さい、千冬さん。焦っても何にもなりませんよ?」

「はぁっ、はぁっ……うっ、くっ……んぅぅぅっ……」

 顔面は蒼白へと変わり、脂汗が額へと浮かぶ。

 そんなに苦しいのならば止めればいいのに、その執念は凄まじかった。

「わかった、そこまでにしておこう」

「そうだな……代わりに上苑千冬よ。お前の話をしてくれ」

 見ていて面白いものではない。彼は思考の矛先を変えるようにうながした。

 たちまちそれは特効薬となって、少女の顔色を回復させる。

「わたし……?」

「そう、キミだ。キミ自身の情報も、事件を知る上で重要だとは思わないか?」

「……………………」

「ん……それは……そうかも……」

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……ありがとう……一気に楽になった……」

「いいさ。苦しむ姿なんて見ても仕方ない」

「ふふふ…………正直じゃないのね……あなたって……」

 何度か深呼吸を繰り返してゆくうちに、千冬は落ち着きと健康を取り戻していった。

 それから今度はしくじらないようにと、集中のため手のひらを口元に当てて、じっくり記憶を整理する。


 やがて頷き、これならば問題無いと彼女本人の事情を語り出した。

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