後日譚
―――――
後日譚
―――――
文継の親族より謝辞の手紙が届いた。差出人は古臭いが饒舌な言葉づかいで彼への親愛と、手並み鮮やかな解決劇を称えた。
その文面をさっと流し読んでゆくと、ある部分で文継の視線がピタリと止まる。
恐怖に震え上がった永作は、すぐに恩赦と平穏を求めて自供を始めた。伊代子夫人との共犯関係もあっさり認め、彼女もまた同じ所内で尋問を受けることになった。
手紙の主旨はその自供で得られた真実を、親愛なる功労者に捧げるものだった。
竹中永作、彼には戸籍が存在しない。戸籍登録されないまま、捨て子として育てられた。しかし、どうやら孤児では無かったらしい。
あの指輪を所持していたことから、おおよそ彼の正体はわかっている。上苑の血を引く関係者であることは容易に想像出来た。でなければ、指輪にあそこまで執着などしない。
ニヤリと文継は笑う。予想通りだと。
松次郎氏は家の長男。だが彼にには兄がいた。それが竹中永作という庶子だ。
そのことに薄々、松次郎も気付いていたのだろう。だから彼の高慢な態度に、兄に釘を刺すことが出来なかったのだ。
永作は古くより伊代子夫人と不倫関係にあった。その子供も、松次郎氏の子で無かった可能性が高い。
夫人は千冬の母を追い出すために彼を利用した。
二人は深い寵愛を受ける彼女が、この上なく目障りだったのだ。
ただれて歪んだ男女関係は、千冬母の毒殺を介してさらに深く結び付き、愛のかけらも無い一心同体となった。
後は長男を失脚に追い込み、次男の桐継が跡取りになれば莫大な遺産が流れ込む。夫人もまた、桐継さえ家を継げるなら何だって良かった。
あとほんの数年の辛抱だった。
なのに……。
なのにそんな彼らの下に、古宮千冬が現れてしまったのだ。
彼女は過去からの追跡者だ。彼女の存在そのものが、いずれ許されざる罪を暴くだろう。だからどうしても、古宮千冬は死ななければならなかった。
文継は顔色一つ変えず手紙を破き捨てた。
古宮千冬は生きていた。今はこの騒がしいハッピーエンドを受け入れよう。
消えることも生きることも出来ない不器用な亡霊は、冷め切った茶をすすり、本日六冊目の新聞に目を通し始めた。
以上で完結です。最後までありがとうございました。




