2―2.使用人
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2―2.使用人
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「お邪魔いたします。昼にお電話をした、菱道文継の使いの者です」
くだんの上苑家はそれはもう立派なお屋敷だった。
それは古びてはいるがよく管理された洋館で、旧華族の邸宅ということもあり、確かにいつ殺人事件が起きてもおかしくない、荘厳な雰囲気をかもし出している。
「ようこそおいで下さいました。私は当家のメイド、葦花愛海と申します」
「主人がお待ちしております、さあどうぞ中へ」
インターホンを鳴らすと、すぐに屋敷の使用人が出迎えてくれた。
零夏が想像していたものよりずっと、若くてかわいらしい人だ。
洋風のお仕着せを着込んだ彼女は、どう見ても大学生くらいにしか見えない。
「はい、お手数ですが取り次ぎをお願いいたします」
高い塀に囲まれた玄関をくぐると、この屋敷がずいぶん広い庭を持っていることを確認することになった。
防犯設備はもちろんあるだろうけど、外部犯が機会を探って潜伏することも可能な広さと茂りようだった。
「永作さん、菱道様の使いをお連れしました」
「…………」
「あの、永作さん?」
敷地を抜けて、洋館の玄関を押し開くと、屋敷の執事らしき男が待ちかまえていた。
彼は気むずかしそうに顔をしかめ、客人に対して不歓迎とも思われる一瞥を向ける。
「聞こえている。ご苦労、後は任せて仕事に戻りなさい」
「は、はい…………それではお客様、失礼いたします」
愛海はこの男が苦手なようだった。
「お取り次ぎ感謝します。また後ほど」
「……!」
「はいっ、お客様っ!」
その姿から、彼女は零夏に親しみを覚えていた。
若い同業者に『また』と言われては、喜びを慎み切れないようだ。
「早く行きなさい、お前が手抜きをした分だけ、私が苦労することになるのだ」
「は、はい……っ、失礼いたします……」
不機嫌に急かされて、愛海は何とも名残惜しそうに立ち去っていった。
(私もこの手の人間は苦手ですね…………あまり良い印象は覚えません……)
明らかに歓迎されていない。それだけはわかった。
老執事は不遜な態度で零夏を見下ろし、丁重だが不歓迎のお辞儀をした。
「ようこそおいで下さいました、私は当家を任されています竹中永作と申します。以後お見知り置きを」
「綾宮零夏です、よろしくお願いいたします」
大人げないその態度に、零夏は礼儀を込めて丁重な謝辞を送った。
「さ、こちらへ。主人がお待ちです」
「しかしたまたま在宅中とはいえ、多忙なお方です」
「余計なことは喋らず、用件は簡潔にお願いしますよ」
その上品で潔癖な執事服からは、どうにも古くさい趣味のコロンが立ちこめていた。
その嫌味な人柄のせいで、とても好きにはなれない香りだ。
「存じております。お手間をおかけします」
しかし、邪険な態度も致し方無いといえば、致し方無い。
当主が応じたとはいえ、菱道文継という馴染みの無い人物が、事件を独自に再調査しようと言うのだ。
怪しまれて当然、邪険な態度は家のことを思ってのことだろう。
(…………)
(つまりこの老紳士は…………私を……)
(しいては文継様を、客人として認めていないということですね……)
そうなると先ほどの、葦花愛海さんに手助けを願った方が確実だ。
(刺すようなイヤな匂い……)
早くもすっかり、この匂いが嫌いになってしまっていた。
一つの香りそのものを冒涜されたに等しい。
彼女はうんざりとため息を吐きかけたが、とっさにそれを押し隠した。
本日の投稿遅れました・・・すみません!
作業していたら時間が6時間ほど飛んでました・・・