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妖精王女と一太刀の勇者様  作者: わたつみなん
2/3

勇者、王都に立つ

ご神託を受けたわたくし、リーラはベルム村というところでようやく勇者様を見つけ、

王都までお連れすることになったのですが、なんといいましょうか…。

いえ、とてもおやさしく、勇気もおありで…器用な方で…。

ご神託は神聖なもの…。

間違うことなどないものだと…。

王都に着くとフィンはすぐにリーラに王宮へ案内させた。

フィンの村から通常であれば5日程かかる行程をフィンは3日で来てしまった。

リーラはフィンのすごさは良くわかったのだがなんとなく釈然としない気持ちだった。

3日の間、道とはいえないところを猛烈な速さで進んでいたフィンだが

必ず夕刻には村や町にたどり着き宿泊や買い物をしていた。

その際に必ず値切り、何かの紙をもらっては荷物入れに入れていた。

「フィン様、それはお守りか何かでしょうか?」

リーラが聞くとフィンは笑った。

「うーん、リーラに言ってもたぶんわかんねぇだろうなぁ」

リーラは馬鹿にされたようでいささか不愉快になったがそれ以上言うのは失礼に当たると思い黙っていた。

フィンはこまめにその紙を丁寧にまとめ覚書を添えているようだった。

最後に泊まった宿ではその紙のほかの紙を添付して何かの計算をしているようだった。

リーラは『わかんねぇだろうな』と言われてしまったのでそれ以上聞くのははばかられた。


王宮の兵士はリーラの事が織り込み済みだったらしくすんなりと王宮の中に通された。

しばらく待たされた後、王のいる謁見の間に通された。

王はだいぶ上からフィンとリーラを見下ろして重々しく言葉を掛けようと最初の一言を唇にあげようとしていた。

「良くぞきてくれた勇者よ」

その割には台詞は形式セオリー通りのものだった。

「畏れながら王様、申し上げたいことがございます」

王に次の台詞を言わせまいとするかのようにフィンがすかさず言葉を重ねた。

「そ、それは何事か」

次の台詞を紡ごうとしていた王は虚を衝かれ首をやや後ろに引きながら何とか返事を返した。

「此処まできた、旅費と宿泊費、及び必要経費の明細です。

また、王都に呼び出されたということで出張費の申請書も作成いたしましたので早急にお支払いいただければ幸いです。

お支払いいただく財源が税金であることをかんがみできるだけ切り詰めてまいりましたが不備がないかご確認ください」

フィンは息継ぎなくよどみなく言いながらリーラが疑問に思っていた紙=領収書と収支報告書を王のお付の者に渡した。

「え、あ、リーラ!このお方はまっこと勇者であるのか?!」

王に問われてリーラは困惑した顔をした。

「ご神託ではそうでございますが…」

問われてリーラはなんと答えていいのかわからずとりあえず頭の中に浮かんだ答えを答えた。

「あ、その、勇者殿」

王は想定外の展開に思考がついていかないらしく何から問えばいいのか混乱しているようだった。

それに付け入るようにフィンが言葉を重ねた。

「王様、私が勇者であるとこのリーラが申しておるそうですが、それはあくまでも神託によるもの。

真の勇者はまだこの在野にいるやも知れません。

真の勇者を見定めるべく、いや、勇者に足りうる人物を聡明は王様ご自身でお確かめになるためにも

『われこそはこの国を憂い、救うことをいとわない』

という者を募るというのはいかがでしょうか」

フィンの先ほどの想定外の言葉に思考能力を奪われた王は小刻みに頷いた。

「そ、そうであるな。私もそのように思っておった。

今一度、国を背負いし勇者をわが目で確かめねばいかん。

私の思うところをよく代弁してくれた。

礼を言おう。

大臣!大臣!おるか?!

わが国を背負い立つ勇者たるものを募るのじゃ!」

リーラは事の展開に唖然としたまま王を見上げていたが、

ふとフィンに目を向けると頭を垂れているフィンの口角が大きく上に曲がっているのが見えた。


かくて、3日後には『王宮杯 勇者選抜大会』ののぼりが王都の門にはためき町中お祭りのような騒ぎとなっていた。

街頭には大会出場者とおぼしき筋骨隆盛な男達が闊歩し、町のいたるところで歓声が上がっていた。

「フィン様、何をされているのでしょうか?」

「ん?私設の投票所」

「?、私設の投票所とは?」

リーラはフィンの手元を覗くと大きな板には対戦表が書かれ

別の大きな板には

『①鋼鉄のランディス 10.58

 ②炎のフィデス    3.25

 ③閃光のカーヴ   2.15』

などと多数の名前らしきものとなぞの数字が書いてあった。

一番最後に

『神託の勇者フィン 1.22』

と書いてあった。

「フィン様のお名前ですよね」

「まぁ、王がオレも特別出場枠で出るようにいうからさ公平を期して書いとかねぇとな」

「???」

リーラが首をかしげている中、フィンは大きな板を競技場の壁に立てかけた。

「♪ふふふ~ん」

鼻歌を歌いながら準備をしている上機嫌のフィンにリーラがおそるおそる声を掛けた。

「フィン様…なにをされるおつもりですか…」

フィンが軽く首を左に傾けた。

「え、確率論による確率を出して賭けさせようとしてんだが、なんか問題あったか?

…あ、あの確率を出すためには前日にここの大臣とやらから参加者の実力スペックを聞きだしたから相当正しいと思うが」

リーラが目を白黒させているとフィンの板に目を留めた一人の男が寄ってきた。

「なんだい、坊主もやってんのかい」

「オレは店番だよ。オレの兄貴が王宮にツテがあるっていっててさ、

オレはにはコネとツテとかよく知んねぇんだけど確かな情報はなしだから

お前はそこでこずかいやるから受付やってろっていわれてさぁ」

「ぉお、そうかい、そうかい。じゃ、おじさんも坊主のこずかいの手伝いしてやるかな」

笑いながら男が③-①と書かれた紙に手を置いた。

「おじさん、一枚10レーンだぜ。間違うとオレがしかられちまう」

「わかった、わかった。じゃ、これとこれ。三枚買ってやるよ!」

「ありがてぇ!おじさん!ありがとな!」

「じゃ、俺も買ってやるよ」

周囲で聞いていた男達も次々に数字の書かれた紙にお金を払っていく。

やり取りを唖然と見ていたリーラが疑問を感じてフィンの方を向いた。

「フィン様、お兄様がいらっしゃたのですか?」

「いねぇよ」

「今、お兄様とおしゃられましたが…」

フィンは髪をかき上げながら上を見てふっと笑った。

「ぁあ、オレみたいに年端がいかねぇヤツが商売してても信用しねぇだろ。

あぁいっとけばガキのお使いってことで買ってくれるんだよ」

にこにこと邪気のない笑顔を振りまくフィンにリーラ恐ろしいものを見る眼差しを向けた。


大会は滞りなく進み、フィンの出した確率の正確さに賭けるきゃくが増え、捌くのにも一苦労となっていた。

そんな中、フィンが見逃した盗賊の男が人波の向こう側でうろうろしていたのにフィンが気づいた。

「おーい!お前!」

フィンの声に男が振り向いた。

「よくちゃんとたどりついたな!こっちこいよ!」

男はびくびくしながらフィンの横に立った。

「わりぃんだけど、オレの代わりにちょっと客さばいてくれねぇか?

思いのほか盛況でなぁ~

それにオレもうすぐ出番だからさ」

男の上に無数の疑問符が浮かんだのにリーラが気がついた。

「旦那ぁ、俺にはこの状況ことがわかんねぇんだが…

なにをしたらいいんだ?」

「状況把握が遅いヤツだなぁ…とりあえず客に言われたとおりに売ればいい。

こうなってくると客の方が状況を把握してるからな。

リーラいくぞ」

急に呼ばれてリーラがびくりと体を震わせた。

フィンに対する呼称がおかしいことに気づき指摘していいものなのか考えていた為である。

「あんた、名前、なんてんだ?」

フィンが足を競技場に向けながら男に振り向いた。

「俺…ですかい。俺はガッドって呼ばれてます」

「んじゃ、ガッド。オレの事はフィンでいいぜ」

フィンは言うだけ言うとリーラに目線を移して目だけでついてくるよう促した。

気づいているのかいないのかリーラの呼称問題はフィンの一言で解決していた。


競技場につくと観客席は満席で立ち見客までいる始末で熱気で包まれていた。

王は観覧席でそれを見ながら悦に浸っていた。

あの勇者とやらなかなかいい提案をするものである。

国を挙げての競技会であれば国民達も熱狂し、王への敬意も上がる。

王は一人ほくそ笑んでいた。

階下の控え室ではフィンが一人ため息をついていた。

情報データを基にした確率にも多少手を加え番狂わせを作っていたため

売り上げは思った以上にのび収益的には問題ないのだが、

あまり賭けてこないであろうと踏んだ自分にかけている客が思いのほか多かったのだ。

「うーん、こいつ弱いしなぁ」

小さくつぶやいたつもりが緊張のあまり静まった控え室に響いてしまった。

「なんだと!このチビ!」

「俺をなめてんのか?!」

怒号が控え室に響き渡る。

一人の男に襟首をつかまれたフィンは男の目の前で軽く手を振った。

「違いますよ。勘違い勘違い。

ほら、あの『神託の勇者』とかいうヤツ。

オレが聞いたところによるとすげぇ弱いのに神託が下ったとかいって登録されてる上に

王様が特別出場枠にしたらしいですよぉ」

「あ、そのことか」

フィンの襟首をつかんでいた男は簡単に離した。

「そんなにわか勇者様とやらは『暁のワイディーン』が叩き潰してやるわ!」

気骨隆々とした男が手をこぶしの形にしてもう片手にあてパンパンと乾いた音を立てた。

「気に入っていただけてなによりです。」

フィンがつけた二つ名を使っている男に向かってフィンがにっこりと笑った。


「右、『暁のワイディーン』。

左、『神託の勇者フィン』」


『うおおっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』


紹介をする声に反応して観客の声が競技場が揺れるほど響き渡る。


「フィン様、大丈夫でございますか?」

相手の体躯を見ながらリーラがフィンの耳元を飛びながらささやく。

「なにが?」

フィンがいつもの格好の荷物だけない状態で競技場の入場門に立つ。

「相手の方はかなり大柄でいらっしゃいますが…」

「クマにくらべりゃちいせぇよ…だがなぁ」

フィンは何かを気にしてるように観客席を見渡した。

「なにか気になることでもおありですか?」

「いんにゃ、別に…ま、しかたねぇか」

リーラの不安をよそにフィンは競技場に向かって確かな足取りで歩いていく。

だが、対峙している『暁のワイディーン』とかいう男はフィンの二倍ほどの背丈で

筋肉を見せびらかすかのように丈の短い衣服から見える二の腕は丸太のようだ。

観客も同じように感じたようで競技場の中がざわめき始めた。

フィンが剣を斜に構える。

「なんだ、さっきのことは自分の事だったのか。

チビ。

んじゃぁ、真の勇者ってのがどんなもんか教えてやるぜ!」

『暁のワイディーン』はフィンを見てせせら笑いながら言った。

今までだと軽口をたたくフィンが何も言わず『暁のワイディーン』を見据えているのを見てリーラの胸の中は不安でいっぱいになった。


「はじめ!!」


審判の声に、ワイディーンの大振りの剣がフィンの頭上に落ちた。


ガッ!!!!!


鈍い音がして、その剣をフィンの剣が受ける。

その重さにフィンの体が小刻みに震えるがかろうじて跳ね返し反動でワイディーンの体が後ろに下がった。

その隙を見て、フィンの剣が細かくワイディーンの胴の辺りを薙ぐ。

ワイディーンは体勢を立て直しフィンの剣を受け止め払う。

ワイディーンが大きく剣を横に振るのをフィンが後ろに跳び退る。

フィンを追い詰めようとワイディーンの剣が上から大きく振られるのをフィンは、

跳躍でかわしそのままワイディーンの頭上を跳び越しワイディーンの背後に回る。

体の割りに機敏な動きでワイディーンがすぐさま体勢を変えフィンの繰り出す剣をかわす。

フィンが軽く倒されると思っていた観客達も、思いのほか続くこの攻防に固唾を呑んで見守っていた。

入場口で見守っていたリーラは肩で息をするフィンを見て無意識に両手を硬く組み胸の前にあていた。

リーラの不安が的中し、後ろに下がったフィンの腰の辺りを下から掬い上げるようにワイディーンの剣が薙ぎフィンがそのまま背中から地面にたたきつけられた。

観客のどよめきが競技場内に響く。

「どうだ!わかったか!これが真の勇者の力だ!!」

「ちっちゃいにいちゃん!がんばるんだよ!!!」

ワイディーンの声に観客席おもわぬところから声が上がった。

「にいちゃん、あたしを盗賊から助けてくれたじゃないか!!

あんたこそほんとの勇者だよ!!!」

観客席からの女性の声にワイディーンが唖然として声の主の方を見た。

するとその女性の声に周囲から

「勇者!勇者!勇者!」

と、漣の様に声が広がる。

その声の大きさにワイディーンが立ちすくんでいるとフィンが自分の剣を支えの様にして

痛みをこらえるようにぎくしゃくと立ち上がった。


うぉぉおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおぉぉ!!!!


競技場が揺れるほどの観客の声が上がった。

フィンはどよめく観客の方ではなく、ワイディーンをひたと見据える。


「こんなところで、負けるわけにはいかないんだ!!!」


フィンは声で気合を入れるようにワイディーンに向かって叫んだ。

「な、なにぉ!!!その言葉後悔させてやる!」

ワイディーンがよろめいているフィンに向かって大きく剣を振った。

フィンは後ろに跳び退り自身の剣を頭上に掲げた。

その肩は大きく上下していたのでワイディーンは馬鹿にしたように口角を上げた。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


フィンはすべての力を使い果たすかのように大きく吸った息を上から振りかぶった剣にのせるようにはききった。


どぉぉぉぉぉぉぉぉん !!


ワイディーンの巨体が吹き飛びそのまま動かなくなった。


うぉぉおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおぉぉ!!!!


観客が興奮して叫ぶ中、フィンは力が尽きたように片膝をついたがしばらくすると息を吐きながら立ち上がる。


「勇者!勇者!勇者!」


その姿に観客達が声をそろえる。

フィンは周囲をゆっくり見回し、爽やかに微笑むと王の席に向かって頭を下げた。

フィンは観客の声を背に悠然と競技場を後にした。


控え室に戻ると自称勇者達は誰もおらず、リーラが顔を青ざめさせて待っていた。

フィンは自分の荷物入れから布を出して顔を拭くと椅子にどっかりと座り、

大きくため息をついた。

「フィン様!お怪我は?!」

リーラがフィンに寄り添うように飛んできた。

「怪我?してるわけねぇじゃん」

「?…しかし、先ほど…」

「あぁ、あれか」

フィンのこともなげな物言いにリーラは目をしばたかせた。

「いい芝居だったろ!

おまけに、この前のおばちゃんがいい仕事してくれたよなぁ!」

偶然とはいえ、とフィンはつぶやきながら水を飲む。

「え?え?お芝居って?!フィン様、苦戦されていたのではないのですか?!」

「そう見えたならしめたもんだな」

フィンはカラカラと笑った。

「え?な、何故、お芝居そのようなことをなさったのですか?!」

「?せっかく賭けてくれたんだから、いい試合見せねぇとな!

賭けた以上の感動?ってやつ?

そうすれば、賭けたかね以上に満足するだろ」

フィンは“よっと”と掛け声をかけて疲れも微塵も感じさせない動きで座っていた椅子から立ち上がった。

「どうした、リーラ。疲れたのか?」

爽やかな笑顔を向けられて、リーラは軽く気が遠くなった。


競技場を出るとフィンは人波に囲まれた。

「勇者!」

「勇者!」

口々に言う人達をフィンは見て急に青ざめた顔になった。

「みんなの声で勇気が…ゲホッ…でました…ありがとうございました」

しばらく咳き込むと周囲に空間ができた。

「勇者様はお疲れなんだ」

「申し訳ありません」

「ごゆっくりおやすみください」

いたわる声にフィンは弱弱しく笑って、

「お心遣い…ゴホッ…ありがとうございます」

と答えた。

リーラはフィンの頭上からそれを見て一瞬飛ぶのを忘れて落ちそうになった。

人波が途切れたのを見計らうとフィンは細い路地に入りリーラに目配せをして来るように示唆した。

「リーラわりぃんだが、ガットをここまでつれてきてくんねぇか?」

「ガット???」

リーラは誰だろうと思ったが元盗賊の男だと思い出して返事をするとガットを呼びに行った。

しばらくしてガットは興奮した面持ちでフィンの前に駆け込んできた。

「フィンさん!いや、勇者様!」

フィンは露骨に嫌そうな顔をした。

「お預かりしていた店の金はこちらです」

ガットは硬貨の入った袋をてらいなくフィンに渡した。

フィンは袋を受け取ると、その中から何枚かの硬貨を出してガットに手渡した。

「こ、この金は?!」

「店、手伝ってもらったから給料。あと、これが旅費と王都ここまで来てもらったから出張代」

更に、皮袋からいくらか出してガットに渡す。

「え?いただいていいですか?!」

「仕事したんなら、とうぜんだろ」

フィンが不思議そうに首をかしげる。

「残りの金は申し訳ないんだけど、オレの村の村長に渡してほしいんだがやってもらえるか?」

ガットはものすごい勢いで首を何度も縦に振った。

「その際の仕事代は村に着いたら村長がくれるように手配しといたから…」

「わかりやした!!!今すぐに勇者様の村に向かいます!!」

フィンが最後まで言うのを待たずしてガットは走り去っていった。

「ま、いいか。んじゃ、リーラ、王宮に行ったらすぐにこの町をでるぞ」

「この町で休息をおとりにならないのですか?」

フィンは“はぁ~”と大きくため息をついた。

勇者様にんきものなんかになっちまったからおちおち休んでもいらんねぇだろ」

半分は自分のせいなのでは…と、リーラは思ったが、懸命にも口には出さなかった。


王宮に着くと喜色満面の王が待っていたが、フィンが

「お話が…」

といった途端、

「では、活躍を期待しているぞ!勇者殿!」

と、片手を挙げそそくさと退室した。

「勇者様、お話はこちらでお伺いいたします」

大臣と思しき男がフィンを促し、

〔財務室〕

と書いている扉に案内した。

中に入ると広い部屋の中に机がところ狭しと並べてあり何人もの人がその中で書類に埋もれ紙をめくる音だけが響いていた。

「では、わたくしはこれで」

案内した男が扉を開いて出て行くと奥から男が歩いてきて

「室長のユージンです。勇者様のお話を伺うよう申し付かっております」

と、丁寧に礼をした。


「リーラ!終わったぞ」

わけのわからない単語の羅列にリーラの瞼が落ちそうになり

カクッっと膝がなった頃ようやくフィンから声を掛けられた。

慌てて目をしばたかせるとフィンは室長のユージンに丁寧に礼を言って皮袋と書類を受け取ると、リーラを見た。

「フィン様、お話はおすみになられましたか」

扉からでて、王宮の廊下を歩きながらリーラはフィンに問いかけた。

「おぉ!終わった、終わった!いろいろ教えてもらって勉強にもなったしな!

ほんと、最初からここにつれてきてっくれりゃぁいいのに」

「そうでしょうか…」

勇者が王に挨拶もなくいきなり賃金の話を財務室に言いに行くのだろうか。

リーラは額に手を当てた。

「そうだ、リーラ。オレは勇者として契約をしたからこれから魔王とやらを探しにいくがお前はそんな契約もしてねぇし、あぶねぇから王都ここで待ってろよ」

「そ、そんなわけにはまいりません!

私は導きの巫女で勇者様を大いなる悪の元にお連れする義務があります!」

「…無給ボランティアでか?」

「もちろんです!それが私の使命ですから!」

フィンは上を向いてしばらく黙ってから

「ちょっと、戻るぞ」

リーラを肩に乗るように指示してから先ほど後にした〔財務室〕の扉を叩いた。


「勇者様はスジがいい!

このまま、こちらでお仕事していただきたいほどです!」

〔財務室〕室長のユージンの賛辞を受けながらまたも丁重に礼をしてフィンとリーラは

〔財務室〕の扉を閉めた。

「フィン様…」

いささか疲れ気味にリーラがフィンに声を掛けた。

「なんだ?」

リーラと対照的にフィンは元気いっぱいの返事をした。

「これで、私はフィン様に同行させていただけるのでしょうか」

「おう!契約書を追加して、リーラにも日当が出るようにしたからな!

やっぱ、ただ働きさせるのはオレとしても心苦しいからな!」

「そうでございますか…」

リーラは生まれて初めて神託の信憑性を疑っていた。


おぉ!俺は今、幸せという言葉を初めて噛み締めている。

フィンさん、いや、勇者様はすばらしいお方だ!

風のうわさで王都を離れ、魔王退治に行かれたと聞く。

きっと、行く先々で皆を幸福にしてくださるに違いない!

勇者様!

俺は勇者様の村でお帰りをお待ちしております!!

次回『勇者、森に』

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