第一話 【4】
翌日、珍しく先生からの雑用には呼び出されず(まあ、それが普通だけど)、俺は下駄箱へ直行し、現在、部室の椅子へ腰掛けている。
「なんでそんなに帰ろうとするのさ!」
莉緒が両手を腰に当て、長机の向かいに立っている。
「家でやることがたくさんあるんだよ。授業の復習と予習、宿題だってある」
「そんなの部活中に出来るでしょう、何もやることがないからね」
「言っちゃった! 自分で言っちゃたよ!?」
「実際、本当にやることがなけどねー。それに関してはどうしようもないよ」
「おい設立者。何他人事みたいな言い方してるんだ」
呆れながら、ふと、部室内を見渡す。
今座っている椅子が二脚、長机がひとつ、あとは掃除のロッカーくらいしか置物はなかった。それに、莉緒が昨日言っていたが、部員は最低四人で部としてみなされる。今は二人しかいないために同好会扱いされている。
まずはあと二人、部員を集め、顧問も決め、できれば部室内ももっと家具などを取り入れて殺風景さを消したい。
「なあ莉緒、部員は集まりそうか?」
「ううん」
莉緒が首を横に振る。
「友達とかクラスの人とか声をかけたんだけどね、みんな忙しいみたいだね。無理みたい」
「そうか」
にしてもサラッと友達って単語が出てきたな、しかも友達じゃない奴にも声をかけれるとか、コミュニケーション力高いな。いや、それが普通なのか?。
「吉田くんの方はどう?」
「聞かないでくれ」
「え、どうして?」
純粋に、わからないという無垢な表情を見せる。
実はこういうのが俺にとってはぐっとくる。
「俺にはこう、いろいろあるんだ」
「ふんふん、わかったよ」
なんとなく理解したようで、それ以上は何も聞いては来なかった。
「まあ、部員はまた今度話すとして、次は部室だ」
「部室がどうしたの? 実は吉田くんの実家だったとか?」
「意味分かんねぇよ! そうじゃなく、なんかこう、殺風景だろう? だからさ、ほかに何か置かないか? 家具とか」
「家具かー、とりあえず、バスルームとか欲しいよね、キッチンも」
「アパートかよ。ってか、部室を私物化しようとしてんじゃねぇか。莉緒は莉緒の部屋があるだろう泉莉緒の部屋が」
そこまで言うと、理緒は手を顎にかけて考え事をするような姿勢になる。
「どうした?」
「うーん、吉田くんは私を名前で呼んでくれているけど、私は吉田くんって苗字で呼んでいるのは不公平かなって」
「ん? 別に気にしてはないが」
「私も名前で呼ぶべきだよね。うん」
「そうか、じゃあ普通にたつ――」
「つきちゃんって呼んでいいかな」
一瞬、部室内が凍りついたような気がした。
え、誰? 『ちゃん』ってことは女の子だよな。けど、今は俺と理緒のふたりの話のはず。ってことは……。
「俺のことか、つきちゃんって」
「うん、たつきを縮めてつき、それにちゃんを付けたんだけど」
「うん、分かる。いや分からん。どうしてちゃんなんだ? 女みたいだが」
「くんよりちゃんのほうが呼びやすいと思うよ? なによりかわいい」
男に対して何が可愛いのだろう。
「ということで、これからもよろしくね、つきちゃん」
「ああ、よろしく……」
ちゃん付けは決まりらしい。いっそ気にしないでおこう。
「ということでつきちゃん、部室内に置く家具の事だね。部室棟のなかは、基本的に部として認められれば、部室は自由に使えるんだよ」
「そうか。なら、まずは必要なものから置きたいな」
「でも、まだ同好会だから、部費は出てないから、自費になるんあけどね」
「あえて気にしないでおこうかと思ったのに!」
「それはそれで悲しいことだと思うよ」
「うぐっ……しょうがない、最優先すべきは部員と顧問の確保だ!」
「あ、顧問はもう決めて――」
「明日、俺の数少ない知り合いに頼んで見る。これからが俺の見せ所だ!」
莉緒は何か言いたげだが、やがて、
「まあ、つきちゃんがそう言うなら」
そう呟いた。