第一話 【3】
何日ぶりでしょうかね。
翌日。放課後。職員室より。
今日も雑用という名のおつかい……訂正、おつかいという名の雑用が担任である南原先生より命令されるのだろう。
「昨日はまぁ、お疲れね」
南原先生は同情しているのか、嘲笑しているのか、優しい声でそう告げた。どうか前者の方であって欲しい。
「あそこへはあまり行った事がないですからね」
「あなたがまさか私の顧問する部へ入部するとはね」
「先生が顧問なんですか。自分でもなぜ入部しようとしたのかわかりませんけどね」
「大変ねえ。それはさておき、今日も手伝ってもらいたい仕事があるのよ」
さも、いつもの事と言わんばかりに、南原先生は雑用を押し付けようとする。もうなんでもいいや。
「わかってましたけどね。で、何ですか。また書類運びですか?」
「仕事っぽい仕事じゃなくてね。今日は……」
なんでだろう、ものすごく違和感がした。
違和感の正体はこれだった。
「部長は私で、副部長は吉田くんでいいよねっ」
「まあ、部員が二人だけじゃあ、必然的にそうなるが」
「決まりだねー。さて、お次は……」
本日のおつかい。部活に出席すること。
別におつかいで出されなくとも、出席はする予定だった。そう予定だ。予定なら外れる事だってある。俺が呼び止められたのは、下駄箱で靴を履き替えてる時だった。
その結果、現在に至る。
「それで、どうしようかな、吉田くん」
「え? ああごめん、考え事してた。何の話だっけ」
「話には加わらないといけないよ。今は廃部になる話だよ」
「どうしてそうなった!?」
突然の廃部宣言に思わず即答する。
「廃部というのもね。今この部は私が入ったときは部員が一人もいなかったの。数年前に最後の三年生が卒業してから部員はゼロ」
「って事は莉緒が入部して再結成したと」
「そう! でも私の他には部員がいないってわけなの。ちなみに、私は掛け持ちで友達のいる文芸部に入ってるよ」
「掛け持ち……まあそうなるよな」
「でもね、部活ってのはこの学校では四人以上で部として認められるの。つまり、部員がゼロになった年には自動的に廃部になる。けど、何故か存続されていたのよ」
うーん、そのまんま話を受け止めると、とてもじゃないがどうでもいい話だと思う。
しかし、どうも納得いかない、理解できない点が一つだけある。
「なあ。同じ志を持った人間が四人以上集まれば部として認められるんだよな?」
「ん? そういうことだね?」
「どうして疑問形なのかわからないが、つまり、部が作ればこっちのもんだ」
「何か面白い事をするの?」
「ああ、少なくとも俺にとってはな。おれは今日、『帰宅部』を作る!」
言い切った。言い切ってやった。視聴者は一人しかいないが。
俺が勝ち誇ったようにはははと笑っていると、たった一人の視聴者が口を開いた。たった一言だった。
「いやー、認められないでしょうね」
あまりにも短く、かつ、優しげな声音であった。
結局この後、単なる雑談で終わった。
帰りに生徒会室前の掲示板を見ると、部活創設申請条件の欄に、『明確な活動内容があること』という悪魔の雄叫びが記されたあるのを見た。
次回は数日後又は数年後になると思います。気長に。