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第一話 交差する不思議系

 放課後の静寂が包む特別教室棟を歩く。

 手には何百枚あろうかというプリントの束があるが、特別重いわけではないので足取りは軽い。

 うちの学校は地盤こそ緩いものの一応四階まであり、普通教室棟・特別教室棟・共通棟がある。また駅から近く、毎年入試志願者数が数百人の入学定員数を大幅に上回っているほどだ。

 並大抵の点数じゃ入れないところから、進学校と言われる。

 その入試を、昨年二月、三位の成績で合格したせいで、こうして先生からお使いを頼まれることも多々ある。ありがた迷惑な話だ。

 窓から見えるグラウンドからは『カキーン』という効果音が時折聞こえ、そのグラウンド近くの体育館からは、ここからはさすがに小さく聞こえるが、絶え間ない掛け声が聴こえてくる。

 まさに放課後らしい放課後である。

 そして俺がいるのは各教科の準備室、資料室その他もろもろが並ぶ特別教室棟の二階だ。

 基本的に人気が全くない。三階に上がれば文化部の部室があるから、少しは人がいると思うが。

 放課後と言えば部活。しかし俺の場合、とある理由から無所属である。

「あなたも成績は良いんだから、部活も頑張ってもいいんじゃない?」

などとさっき職員室で担任より言われたが、丁重に断っておいた。それに何も高二の五月に好んで部に入ろうとする者はいないだろう。

 同じクラスのサッカー部の知り合いに、高校に入学したての頃にサッカー部に誘われた時。運動神経の鈍さを見せつけたところ、信じられない物を見るような目をされ、

「なんか、その……ごめんな?」

と言われたのである。

 当時の俺にとっては泣きたくなるような思いだった。今頃あいつは相手側のゴールに入れてるだろう。

 知り合いといえば、中学の頃にも知り合い以上友達未満な間柄は多かった。当時ガリ勉だった俺でも、それなりには話せる仲ではあった。

 ただある日、

「お前ってさ、話すときやけに可笑しな事言うよな?」

 と言うから別に普通だろ? と答えると、

「普通の高校生は何でもない会話に確率論や心理学なんて入れないよ」

 と言われた。なので、

「普通だろ?」

と返してやった。今では、なんだただの黒歴史か。と思ってる。

 そんなかつてのトラウマを思い出しながら最後の角を曲がり、一番奥の教室へと足を進ませる。多分この教室だと思うが、何故だか電気がついている。プレートが無名の教室だ。

 担任は数学教師だ。だから数学準備室なのだろう。

 誰もいないはずなんだが、なんかの手違いだろうか。

 両手が塞がっているので、不躾だが少し開いたドアの隙間に足を引っ掛け、そのまま左にずらす。

 開けた視線の先には、教室の半分程の空間に一人の生徒がいるだけだった。

 見渡してもその他の物品は何一つ見当たらず、壁にも張り紙一枚貼られていない。準備室としては異様で、どこか殺風景な雰囲気を醸し出している。

 その教室の窓際に立つ生徒はどこか空を見つめており、ここからでは顔が見えないが、髪の長さ・制服のスカートから女生徒である。

 俺と同じように、何かしらの仕事を任されたんだろうか。でなければ、放課後に一人で、こんな名前プレートなしの殺風景教室にいないだろう。

 足を踏み入れ、窓側に少しだけ近づく。

「えっと、書類を置きに来たんだが」

 話しかけられて初めて気づいたのか、彼女は窓からこちらへ顔を向ける。

 瞬間、何か懐かしいものを感じた。どうしてだろうか。初対面の雰囲気はなく、代わりに違和感が俺の思考を支配する。

 しかし知らない人だし、向こうもこちらを知らない様子で、何か? といった表情をしている。

 同時に、初めて彼女をはっきり見ることができた。

 肩よりも少し下まで伸びる黒髪のショートヘアで、ヘアピンやリボンなどの装飾はない。身長は窓の高さを通して比べると、俺の肩くらいだろうか。一つ一つのパーツが整っている顔は、誰が見ても美少女だと認めるだろう。

 そしてなにより目を引くのは、彼女の周囲のオーラだ。表情を見た時に感じたあのデジャヴは、恐らくそのオーラから感じ取ったものだろう。

 彼女には普通の人間とは違う、何でもない会話に数学論や思考学をねじ込ましちゃうような、なに可笑しなこと考えてるんだよと思うような、そんなオーラが溢れ出ていた。

 そしてこれが、俺と彼女の世界が重なった瞬間だった。


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