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【八言目 あのおじさん、魔王について何か知りませんか?】

 軍資金を得るのにジェーンがギルドに支払票を換金しに行く間、俺とななは王都の様子を見るため別行動を取ることにした。

 

 ν11は町の外で待機していてもらう。

 


 なながしきりにせがむので、町の中心に見える巨大な建造物に向かうとする。この世界の神を祀ろう神殿らしい。


 道すがら町の様子や建物を観察する。朝早くだというのに、皆あわただしく動き回っている。文字は読めないが人が殺到しているところが店だというのはなんとなくわかった。

 

 乱雑な人込みをかき分ける。満員電車に比べれば空いてはいるが人の流れが複雑で進むのが大変だ。はぐれないように繋いだななの手に引っ張られている。不意になぜかぽっかりと人がいない空間に出た。


 

 一帯が影になっている。向こうに大理石の階段が見え、階段の最上段に並んだ白い石柱の間に放たれた大きな扉があった。


 出入りしている人の長い列ができている。列は階段下のずっと向こうへ続いていて終わりが見えない。


 太陽を遮って影を作っているものが気になり見上げると巨大な像があった。女性のようで、太陽の逆光によって表情は見えないが微笑んでいるようだ。


「あの女神像は私だよ」


 ななが女神像を指さして言った。俺は女神像を上から下まで眺め、それからななを見つめた。


「ないな」


 ななは視線を逸らした。


「ちょっとくらい盛ったっていいじゃない、信仰だもの」


 俺は呟いた。


「埼玉にも神社はあるよ。これと同じくらいの大きな神社がね」


「お国自慢してる時じゃないよ?」

 

 ななは突っ込んだ。



 周囲の群衆のうち十数人余りがある一点を見つめていることに気付いた。


 そちらを見て、なぜ空間ができているのかわかった。男の身長ほどもある大剣を立てて抱えた少女が石段に座っていた。大剣は威圧するように鈍く輝き他者を寄せ付けようとしない。

 

 憂いを帯びた表情の少女を見ておやと思った。日本の学生服で、それも見たことのあるものだ。



「どうも、小鳥遊ジョージです。はじめまして」


 俺は挨拶した。少女ははっとしたように顔を上げた。


 「あ、あの。その、はじめまして」


 たどたどしい。しばらくして何かに気付いたかのように少女は目を見開いた。


 「あの私、豊春あやめっていいます。もしかしてこの間トラックから助けてくれたおじさんじゃないですか? 覚えていませんか?」


 おじさん。俺は聞き返した。


「それはどこかのかっこいいお兄さんじゃないかな?」


 彼女ははっきりと答えた。


「いえ、間違いなくおじさんです」


 俺はかぶりを振った。


「他人の空似だろう」


 埼玉じゃよくあることだ。世間には自分とよく似た人間が1人につき30人はいると言う。



「それでどうしてここへ来たんだ?」


 話を逸らした。彼女は少しためらったあと、こちらをじっと見つめた。


 「あの、信じてもらえないかもしれませんが、おじさんにだけはお話します」


 重い口を開く。


「麦わらをかぶったお兄さんに、魔王を倒してこの世界を救ってくれないかと頼まれたんです。わかりました、いいですよと言ったらこの聖剣とこの世界のお金を渡されてここに送られました」


 何やってんだあいつは。


「あのおじさん、魔王について何か知りませんか? 出来ればどこにいるとか」


 俺は空を仰いだ。


「多分あの世かな」



ふと気付くとなながいなかった。見渡すと神殿の近くにいる。


「おおい。割り込みはよくないぞ」


 俺は声を投げた。ななは駆け寄ってきた。


「駄目。あの宇宙の意思とかいうやつのせいで時空が不安定になっていて創世力マグナ・エーテルを使っても元の座に戻れそうもない」


 さっぱりわからん。とにかくあの野郎が悪いのか。


「それは大変だな。こちらは豊春あやめさん、勇者をやってるらしい」


 おれはななにあやめを紹介した。


「初めまして、女神ツキヨミです。神様です」


 あやめは首をかしげた。


「豊春あやめといいます。あの、ごめんなさい。お話がよくわからないです」



 あやめはこの王都の近くで剣の実践訓練をしていたとのことだ。


 装備を整え仲間を集う予定だったが、王都の混乱が突然昨日発生した。


 あらかたの施設の機能が麻痺してしまって困っていたらしい。同郷の縁である。

 

 一緒に来ないかと誘ってみると、目を輝かせてうなずいた。



 ジェーンは換金が終わったろうか、ついでにギルドで情報も聞いてくるようにと話したが、不安だ。


 そろそろ待ち合わせ場所のν11のところまで戻ることにする。


 

 ななとあやめと一緒に帰る途中、俺は考えた。

 

 大問題になってしまったようだ。こんなに混乱していては、まともな食事にありつけそうにない。腹が減った。

 

 車内で口にしたスシバーから何も食べていない。合流したら食料の確保は最優先だ。さいわい、ななに尋ねたらミソとダシのモトはあるようだ。



 されどミソのみにて人は生きるに非ず。それにしても腹が減った。横から「くぅ」とちいさな音が聞こえてきた。



登場人物紹介


豊春あやめ


 一話のHello.World!でツキヨミのために、トラックに撥ねられそうになって小鳥遊が助けた女子高生。

 

 聖剣に選ばれた勇者。かわいいから魔王ムサシの方も誘ってこの世界に連れて来た。


 黒幕は意外な人物だったというのをやりたかったらしい。難儀な話だ。処女。裸眼。

すこし加筆しました。勇者です。

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