【五言目 わたしは自立思考型人工無能式疑似人格No.ν11】
美形たちに挨拶してもう行ってもいいと言うと喜び勇んで駆けて行った。中には涙ぐんでいた奴もいる。
「まだ何もして無いし何もされてないのに! 私だって優しくされたかった! 罵られたかった! 冷たくされた後で温かいコーヒーを出されてウソだよ、愛してるよって肩を抱いて耳元でささやいてほしかった。ただそれだけなのに……」
ジェーンはうつむいた。ムサシが何か声をかけるとジェーンはぱっと顔を上げた。眼鏡が光る。
「一万人の奴隷のハーレムよりたった一人の真実の愛!」
この間およそ1秒強。この女ちょろい奴である。ヘリウムより軽いな、いろいろと。
「私これからギルドの攻略の仕事があるのに仲間がいないと困る……」
ジェーンはムサシを見つめた。
仲間? まあともかく、ノルマは大切だ。ギルドとやらの仕事を邪魔したということになるよりは、一緒に行って職場を見てきた方が良いのかも知れない。
ななはどうしよう。もう周りは暗くなっていた。暗い夜に女の子一人で歩かせるのもまずいし、ムサシと行かせるのはなぜか別の意味で危険な気がする。
「私もいっしょにいきます」
ななが先に言った。どちらかというと後者の方を意識したように見える。
ギルドの依頼は街の外の害獣退治のような仕事らしい。ジェーンの案内で門を出てしばらく歩くと丘についた。無意識に崖の下をのぞいておやと思った。戦車の乗り捨ては不法投棄にあたるのではないか?
皆に声をかけ、丘を降り戦車の傍によると扉が開いた。
「こんばんは、わたしは自立思考型人工無能式疑似人格No.ν11」
声が頭の中に直接響く。
「どうも、小鳥遊ジョージです。戦車自体が喋っているのか?」
まさかとは思ったが人影は見当たらない。
「戦車というより戦術統括システムのAIです。もっとも把握しているのはこの車体だけで、それも十分ではありませんが」
肯定されてしまった。だが朝霞基地には置いていないはずだ。
「そうか。よくわからないが、ここら辺で変な生き物を見なかったか?」
俺は依頼について尋ねた。
「あれではないでしょうか。強い生体反応が感じられます」
視覚が飛んで遠くの景色がくっきりと見えた。特撮? 動く山であった。クロサワ!
「えっと、アレを受注したのか? 誰もやるわけないとギルド側も思ってたアレを」
上からムサシの声が聞こえる。
「アレはただのダンジョンじゃない! 攻略ってのはアレに潜るんじゃない、アレ自体を倒すんだ。でっかく依頼書に注意書きが書いてあったろ!」
ずいぶん大きい声だ。
なんだか山の上を上をいろいろ飛んでる。おまけに山に生えている木々からちらちら蠢いていた。
「しかたない、とっておきを使うわ。たぶん大丈夫! 私は☨殲滅美少女☨だから。六天を統べる六神よ、汝らの畏名を持って我が業に求むるはただ刹那、七界に覇を唱える七柱の魔王よ、汝らの威名を持って……」
何か言い出した。放っておこう。さわらぬダイモンはノープロブレムだ。Let sleeping dogs lie.
「月は出ている?」
いつのまにか、ななが下りてきていた。
「見ればわかるだろ、綺麗な満月だ」
上がり始めた月を見ながら言う。もうこんな時間か。なな《こども》はもうそろそろ寝る時間だろうか。
「人工衛星がないなら弾道はそらで計算すればいいじゃない」
うん?
「データは、直接入力で、そこから電装戦術リンク組めない?」
何を言っているのだろう。
「120㎜互換140㎜砲塔、この発射速度のこの位置からなら徹甲弾零距離射撃いける!」
体を吹き飛ばす音の壁が向かってきた。崖に手をついて立て直す。
ななは大丈夫だろうか。いつの間にか閉じていた扉を開けて中に倒れこんむ。
頭が割れそうだ。視界もはっきりしない。扉が閉まる音が脳に堪えた。
「着弾確認。すべてが目標点から10m以内の範囲に収まっています」
声がまた響いた。だが、これは不思議と頭が痛くならない。
「当然、こっちとらおまえらが発生するずっと前から元祖天然衛星やってんだ。自然要素はすべて頭ン中入ってらあ。整備さえよければ全弾一点命中だって軽い軽い」
ヘッドセットの中からななは叫んだ。
「神様なめんな糞ガキ共、天地創造の力を思い知れ! 地対獣弾道弾もつけてやらあ、薙ぎ払われて地べたよく味わって死ね。死んで土塊になって穀物にでも生まれ変われ!」
激しく笑い出していた。なながこんなに楽しそうに笑うとは知らなかった。
「おい、なな。大丈夫か? 子供が実弾を撃つのは感心しないな」
俺は諭した。
「あたしを誰だと思ってんだ。神様が皆殺してるときには邪魔するなってママに教わらなかったのかよ? 殺しても殺しても殺しすぎても、いくらでも代わりはいるもの。なんなら他の世界から連れてきて……」
頬を叩く。
「女の子がそんなことを言うものじゃない。センシャドーは婦女子のたしなみとはいえ限度があるぞ。中学生の女の子はナギナタを使うべきだ」
「我らが滅し梵に還すは、還すは……あれ、どこ行ったの?」
外は灼熱の海だった。もはや山の姿など見当たらない。そこにあったのは溶岩の塊だ。ここまで伝わってくる熱でゆがんだ地形が今どうなっているかすら歪んだ光景、燻ぶる煙などでわからない。
「あれ、撃ちすぎちゃった? まあ、お仕事完了でよかったよかった」
よくわからないがよいということにしておこう。多分それが一番無難なのだろう。平凡が一番、平和は大切。
登場人物
自立思考型人工無能式疑似人格No.ν11
次世代多次元戦術地上戦術統括システム。長年の予算難と宇宙軍の
「星系封鎖して軌道上から精密爆撃すれば、コストの高い地海軍の新型大規模システムっていらなくね?っていうか仮想敵すら今は各大規模惑星政権じゃなくて非同盟衛星諸国だろ」
という意見でいらない子扱いされた。軍内部の統括システムの通し番号は11から始まるので、νタイプはこれが最初。
プロトタイプが旧世代の戦術装甲車両の無人運用試験中に時空間嵐に巻き込まれてMIA。その後計画そのものが凍結され、なかったことになった。
ν11搭載戦術装甲車両
120㎜/140mm互換砲 すごい威力ですごい速さですごく飛ぶ。よく当たる。反動はとても小さい。音もとても小さい。
対近接統合防衛システム すごいいっぱいいろんなのが出る。いろんなのを打ち落としたり撃破する。
装甲 すごく硬い。
乾燥重量 すごく軽い。総重量 とても軽い。
車高 すごく低い。ぺったんこ。
搭載裁量 すごく多い。おっきいものも重いものも運べる。人はいっぱい乗っても大丈夫。
踏破性能 とてもいい。どこでも行ける。
最大作戦距離 地球型惑星なら無補給で赤道三周くらい。とても長い。
最大接地圧 とても低い。地盤が緩いところでも安心。
情報統合システム すごくクール。
地対獣弾道弾
遠くからはるばるやってきた。やばい威力。再突入後もすごく速い。よく当たる。
アレ
でかい。
モンスターのみなさん
いっぱいいた。
タンク系はRPGでは大切ですね。眼鏡が少なくて残念でした。次はギルドです。眼鏡も増えます。