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【三言目 このクソったれな世界へようこそ】

 火をおこすののになぜかガスもないせいで手間取ったが、炭を使ったおかげもあってミソスープと焼ミソは好評のようだった。


 さすがは日本の伝統食だ。



 ミソスープを飲み干したななが話しかけてきた。


「確かうちに帰してくれると……」


「うん考えた。無理。警察に任せる」


 即答する。


「え」


 絶句。



「酷い、外道!」


 非難した。


「大人になるって悲しいことなのさ、綺麗事ばかりじゃ世の中は回らない。ななも大きくなれば判るよ」


 甘んじて受けとめよう。仕方がないことだ。


「わからないよ! ななって誰かなのもわからないよ!」


 さらに口調が激しくなる。


「子供はみんなそういうのさ」


 俺はそう呟いた。


「子供じゃない」


 ななは不満たらたらだ。


「子供はすぐに大人になりたがるがな、大人っていいことばかりじゃないぞ」


 そういうと、ななの頭を撫でて機嫌を取ろうとしたが、ななはその手を振り払った。



 次の朝挨拶をすると、ニュアンスでもっと人が多い場所に馬車(昨日のあれはただの荷台ではなかったのだ)が出発するらしいと分かった。

 乗せてくれるように頼むと了解してくれた。


 馬車の揺れは相変わらず酷かった。


 藁を持ち込んで敷いて置いたのでケツは無事だったが、ななは酔ったらしい。馬車が目的地に付き、止まると、即座に門の脇の茂みに駆け込んでいった。今も調子が悪そうだ。背中をさすってやる。


「もうやだ、お家に帰りたよぅ」


 弱弱しい。


「すぐに警察に行って迷子の届けをしてやる。そうすれば保護者がななを迎えに飛んで来るさ」


 ななを励ます。この子を置きざりにするなんてなんて、親はまったく何を考えているんだ。まだ子供じゃないか。



「このクソったれな世界へようこそ」


 日本語だった。振り向くと壁に背中を預けた、麦わら帽をかぶった伊達男がいた。


「どうも、小鳥遊ジョージです。どういう意味だ?」


 問いかける。


「日本語を話してるのを聞いたんでね。あんたら日本人だろ」


 質問を質問で帰してきた。軽く頷く。


 男は帽子の庇を上げてこちらを見た。口に微笑みが浮かんでいた。


 すっと頭を指さす


「まあ難しいことをなにやら脳味噌ここの中に詰め込んでるらしいが」


 指を下して腹部を指す。


「この世界ではもっと単純なここに詰めこめる今日の飯と」


 手首を返して心臓を指した。


「月が変わっても心臓ここが動いてることの方が重要だぜ]


 大仰な物言いだ。



「厳しい世界なのだな」


 相槌を打つ。


「どこの世界も優しいよ。残酷なまでに人間じんかんに無関心なだけでね」


 男は空を見上げた。一拍おいて何かに気付いたようにこちらに振り返る。


「おっとそちらは名乗ったのに俺は名乗り忘れていたな。といっても名乗るほどの名があるわけじゃない。日本から来たならムサシとでも呼んでくれ」



 明らかに偽名だろう、だがそんなところを詮索しても仕方ない。あからさまな偽名を使うからには何か事情があるのだろう。知らぬがブッダ。そういうこともあるのだ。



「ところで、そんな装備のままで大丈夫か?」


 ムサシは話を逸らした。


「大丈夫だろう、とくに問題ない」


 言っている意味が解らない。


「それはどうだろ、何か起こってからでは遅いぜ?装備を軽視するなんてどんな判断だよ。命をどぶに投げ捨てる気かな」


 にやりと笑う。それほど治安は悪いのだろうか。


「そこまでいうならじゃあ、一番いい装備をくれ」

 

 俺は頼んだ。ムサシは楽しそうにかぶりを振る。


「おいおい俺は武器屋じゃないぜ?」


 自慢そうに一振りの細身の剣を見せびらかした。


「刺貫剣つらタン。こいつはいい剣だが譲れないな」


 ふっと笑う。


「まあ武器屋だったとしてもギルドの証明書がなければ十分な武器は売ってやれないがね」

 

 楽しそうだ。



「ギルド?」

 

 聞き返す。


「カネとコネと情報を握って権力者とうまいことやってるところさ。俺らが何かするにはそいつのご機嫌をうかがう必要があるって寸法よ」


 全米ライフル協会のようなものだろうか。



「案内してやってもいいぜ、なに下心も裏もない。そこのななちゃんと手を繋がせてもらえればお礼も要らん」


 爽やかな笑顔だった。


 なながおびえたように俺の背に隠れる。


「おやおや、どうやらいい恋敵ライバルになりそうだな」

 

 笑みの質のがほんの少し変わったかのように感じた。


強敵ライバルか、少年漫画みたいだな」


 なかなか面白い言い回しをする男だ。


「ちがうよ、なんかキーパーのいない言葉のフリーキックだよ」


 ななはなぜか震えている。



 ムサシはこちらに来いと示し、ゆっくりと歩き出す。その背中を見ながら震えるななの肩に手を置いた。


「一つようやく気付いたことがある」


 誰に言うともなく呟く。


 うすうす解っていた、ここは日本じゃない。外国だ。



登場人物紹介


ムサシ


 とてもあやしい剣士。童貞。ストライクゾーンは初潮が来るまでの女の子。股間の魔剣は鞘付で封印中。

つらぬき○ことつらタンは最近流行っていたようですね。眼鏡は一応次に出ます。ヒロインです。

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