【二言目 私はここにいますよ】
詳しいことまではわからないが、どうやら彼女らは不良から助けてくれたと俺に感謝しているらしい。なにか御馳走してくれると自宅へ招待してくれるようだ。
俺は考えた。気を付けよう、うまい話にハニートラップ。とはいえここで立ち往生していてもらちが明かない。毒皿を食わぬは男の恥ともいう。俺は案内してくれるように頼んだ。
ケツが痛い。彼女らは荷台の布の中にしつらえた長椅子に俺を腰かけさせると馬に鞭を走らせた。そのまま人里まで奔ってきた。もう日が落ちかけている。
舗装されていない道の酷い揺れで、俺のケツはが度も長椅子と情熱的なキスをした。彼女らは慣れたものでなんともない。こんなに俺と地方人で経験の差があるとは思わなかった……!
ともあれ、しばらく動けそうにない。そのことを伝えると夕食ができるまで休んでいていいらしいので厚意に甘えて藁の上に寝転んだ。携帯を出すがまだ圏外だ。こんなに田舎では明日も仕事を休むことになりそうだ。
この一日が慣れないことの連続で疲れがたまっていたのか、急に眠気がおそってきた。あくびをすると目を閉じる。心地よく寝入る寸前で強い光が目に入ってきた。夕飯ができたのだろう。
そうおもって目を開けると光輪の中に見知らぬ少女がいた。栗色のショートカットがきらめく。東武鉄道の姫宮ななに似ている。彼女は口を開いて日本語を紡いだ。
「わたしは女神ツキヨミ。この世界を統べる神です」
「どうも、小鳥遊ジョージです。社畜に神も仏もいはしない」
挨拶を返す。
「私はここにいますよ」
そういうと彼女幸薄げな笑みをうかべた。どことなく寂しげだ。
「そうですよね。私はお姉ちゃんや姉より優れた弟のせいで印象薄い駄目な子ですよね」
ため息をつく。
「私だって高名な経済学者のケインズとかを世界恐慌のとき転生させたりもしたんですが効果がありませんでした。あの世界はもう手の施しようが……。もともとあま姉ちゃんの担当だし」
「ケインズは当時まだ健在だ。そんなのWikipediaにだって載ってるぞ。検索ですぐ調べられるだろ」
最近の中学生は携帯をみんな持ってると思っていたが。
「当時そんなの見れませんでした!」
なんとかさんは両手でその話を横に置いた。こほんと咳をしてトーンを変える。
「本当はトラック転生でこの世界に魔王を倒す勇者を呼びたかったんですが、こちらの手違いであなたを巻き込んでしまいました。元の世界に帰りたいですか?」
すまなそうに尋ねる。
「当然だ。早く帰らないとボーナスに響くし深夜アニメがみられない。とくに無法少女のリリカル損美の次回は幼なじみキャラのターンだしな」
軽くうなずく。
「その娘死にますよ。ターンと撃たれて」
俺は無言でななを光輪の中から引きずり出した。
「なんでななでんでなんで? 次元位相がそもそも違うのになんで? ニンジャ?」
ななは悲鳴を上げた。
「よくわからんが次元の一つくらい越えるのは簡単だろう。幕張メッセとかビックサイトとかで毎年やってる」
俺はななを睨みつけた。
「話をそらすな。アニメのネタバレをするとはこのジョージ容赦せん、たとえ神様とて土下座で謝れ。本当にすまないと思っているならどこであっても土下座が出来るはずだ。そこらのうんこを混ぜて干している藁の上で謝れ」
「それは、私にも少し残っている女神として大切なものがポッキリなくなりそうなのでホント勘弁してください」
ななは泣きそうだ。
「おまえに分かるか、サービス残業で深夜に帰ってきて、シャワーを浴びでビール引っかけてうとうとしながら深夜アニメを楽しむという、独身恋人なしの名目管理職薄給社畜の数少ない生き甲斐の大切さが」
ななは表情を曇らせて首を横に振った。
「分かりませんが、それは悲しい人生ですね」
「アニメは人の命より重いんだ。ファンは大金と時間をかけて特に何もない聖地を巡礼し、著作権法的にギリギリな鉄骨渡〈ブレイブロード〉りで社会生命をかけて性書を発行して、大変な時間と手間と体力をかけて購買する。もちろん初回限定盤とBoxの購入は必須だ」
ふう。
「そこまでしてもクールジャパンではアニメーターが命を削って<残酷な表現のため自主規制>な生活で作品を作ってる。現実のクソガキの安全より非実在青少年の健全。これは世界の常識」
俺は言い切った。
「私はこっち側の世界の担当でよかった。本当によかった」
彼女はしみじみとつぶやいた。
「ともかく、私を元の場所に返してください。それからあなたも元の世界に返しますから」
ななは深呼吸するとそう言った。
「元の場所なんて知らない。それより早く帰り道を教えろ」
俺はきっぱりと答えた。
「えっ」
ななは絶句した。
「帰して、私をおうちに帰して、何でもするから帰してよ!」
「だから知らないと言っている。そんなことよりいい匂いがする。食事ができたようだ。話は飯を食った後にしよう。腹が減ってはミッションインポッシブル」
俺は泣きじゃくるななを引きずって匂いの方に連れて行った。
ちょうど呼びにくるところだったようで、席に着くように示されたのでななといっしょに椅子に座った。見知らぬ子供がいるので、不思議そうな顔をされた。
だが、ただでさえ言葉が通じないのに自分すら状況がよく呑み込めていないのだから説明できない。
一同がそろうとパンとスープが配られた。皆が見たことのない仕草をする。おそらくは食事の前のお祈りのようなものだろう。おれはななに一緒に真似をするように言った。郷に入ればgo.
パンをかじる。固い。スープを飲む、薄い。
俺はななに話しかけた。
「さっき何でもするといったな? もし持っていれば、この人たちにあたたかいミソスープを振る舞えるようにミソとダシのモトをよこせ。そうすれば考えてやってもいい」
「おうちに帰してくれるの? それならいくらでもどうぞ!」
Woo! 手前味噌。とダシのモト。ぽんと煙を立てて目の前にミソとダシのモトが山積みになった大皿が現れる。皆が目を丸くして驚いた。この娘、地味なようでいて意外に派手好きである。
食材と調理場を利用する許可が取れたので、遠慮なく使わせてもらおう。キル、食材をキル、ひたすらよくわからないものでもキルlaキル。そしてダシのモトとミソと一緒に鍋にぶち込む。串に刺してダシのモトとミソを混ぜたものをつけて焼けるようにする。
ミソは大切だ。トクガワ幕府を開いた将軍イエヤスも軍神シンゲンに攻められたときには部下に焼きミソを振る舞って志気を高めたという。
登場人物紹介
アニメ界にニュー感覚、少々喪系武闘派アイドル、無法少女リリカル損美惨状!
『尽忠報国、七生報国、憎しみの聖火を決して絶やすな。闇市で暴れる不逞朝鮮台湾人はgo to hell。斃せ鬼畜英米、レッドチャイナをセンメツせよ。逆らう者はシベリア派兵。うごめく悪のネオコミンテルン。めざすは大宇宙共栄圏』
超日本攘夷維新結社サンライト団 テーマ曲より。
『あなたを併合したい』 第9話より抜粋。
『対東京オリンピック作戦に一億と3000万人から本土決戦。8000万人を切ったころからもう組織的抵抗はできなくなった。僕の地獄に悲鳴は絶えない』 第11話より抜粋。
尾久姫子
主人公。平凡な僕ッ娘女子中学生だったが、あるとき謎の英霊と契約した。世界に危機が迫る度に、無法少女リリカル損美に変身する。
変身するだけで最初は特に能力がない。世界の危機に対して一人でどうにか出来るほどの力はないので、いつもは町内の掃除とかやれる範囲の仕事をしてる。
高花なずな
主人公の幼なじみで同級生。世話焼きな、おさげの眼鏡と朝顔が似合う少女。死ぬ。
最初に死んだ後、ラスボスのコアとして改造され復活。最終話では意識を取り戻して主人公達のために世界を滅ぼそうとするラスボスと一緒に自爆する。
幼なじみの中でも1クールで2度死んだ多くはいないキャラ。死亡フラグの回収も第2話と速い。
キャストやスタッフの時点で死亡フラグがたっていて、作中でも全力でフラグを建て続け、ちゃんと回収したけなげな眼鏡娘。
幼馴染は不遇職。
次は別視点神様転生最強チートSideです。眼鏡はもう少しお待ちください。