【十言目 ただ危険物を処理するのに何の感慨もない】
芋のたっぷり入った具だくさんのミソスープは、なずなに振る舞ってもまだ十分量はあった。
最後の食事になるかも知れないから味付けには凝った。ジェーンが持ってきたカチカチの堅いパンをちぎって、つけながらふやかして食べる。
ミソとパンはあまり会わないようだ。手を合わせてごちそう様を言い、食器と調理器具と手を洗う。皆が食べ終わるのを待って、俺は口を開いた。
「ここに来る途中でなんとかさんが世界を滅ぼすとかほざいていて、俺はそいつに同じ飯を食った奴のなんだ、借りみたいなのがあってけじめをつけないといけない」
ななとジェーンとν11に視線を向け、それからあやめとなずなに向き直った。
「詳しい説明はななとジェーンとそこの戦車に尋ねてくれればいい。それと高花さんにはそれぞれ自己紹介をしておいてくれ。俺は食器と鍋などを返しに行くから、その間に各自今後の予定を決めておいてほしい」
荷物をまとめた袋を担ぐと茂みから街道に出た。一式を貸してもらった農家に感謝の意を伝え、挨拶をして別れる。
集合場所に戻ってくると皆難しい顔をしていた。
ν11の車内で湯を沸かしお茶を入れて振る舞う。いただきますの前に貯蓄があるって知ってれば、わざわざ川まで行かなくて済んだのだが。
まあ準備運動になったと思えばいいか。
「私は戦います」
あやめが真っ先に口を開いた。視線をそらさずこちらを見つめる。
「怖いけれど、私がやらなきゃならないことだと思います」
真剣だ。
「力を抜いてリラックス。今からそんなに緊張していると疲れてしまうぞ」
俺は言った。
「私もやります」
なずなも続く。
「世界を滅ぼすとか人類絶滅とか、よくないと思います。それはとっても悲しいことなの。姫ちゃんにも会えなくなってしまうし」
目を伏せる。
「無茶はしないようにな。なにきっと会えるさ。世界は狭い」
俺は励ました。
「シミュレーション完了。かの敵対存在への自衛防御特殊行動は倫理規定に接触せず。 惑星間内安全保障条項301条第13項により知性体保護条件は登録搭乗者ならびに確認しうる他の人類が優先します」
ν11の音声が脳に響く。
「よくわからないがついてきてくれるのか」
尋ねた。
「了解。そういうことです。排除しましょう」
ジェーンがポーズをとる。
「私も戦ってあけるわ。大丈夫、だって私は☨断罪美少女☨だから」
まあ、いいや。
俺はななを見た。
「人ん世界でみんなみんな好き勝手しやがって。あいつは潰す。消し去る」
「まあ、穏便にな」
俺はななをなだめた。
作戦はシンプル。どうせ複雑なものは集まったばかりのチームでは実行できない。
ν11を中心とする火力と伝達能力の連携を使った奇襲でやられる前にやる。
失敗したら無理をせず撤退する。作戦決行は00:00きっかり。なな以外と念のため腕時計をあわせておく。通信はν11と乗っているななが随時行うが、何かやっていた方が気休めにはなる。
ただ何もしないというのは存外精神をすり減らすものだから。
通信傍受の可能性について聞いてみたが不明ということだった。まあ情報が不足しすぎているから仕方ない。目標は一気に倒せられればいいが、それができない場合、威力偵察として情報を集めることも大切だ。
攻撃を仕掛ける順番は要であるν11を除きくじ引きで決めた。俺が殿だ。
対閃光サングラスは一応皆携帯しておく。
月の明るい夜だった。奇襲は難しいかもしれない。茂みに隠れて匍匐前進する。いた。前に見たときより心なし大きくなっている。
ν11のところに通信を使わずにあえて戻って報告した。気付かれる可能性は減らしておきたい。
時間はあと五分ばかり。ジェーンはこんな時でもなにかぶつぶつと詠っている。ななはν11に乗って照準を合わせていると答えた。
00:00。始まった。
「姫ちゃんごめん、もう会えないかもしれない!」
歪んだ力場が奴を巻き込みあたり一体を削る。
「異界の滅星か。だが、未完成だ」
不快な嘲笑が脳裏に響く。
「なずなちゃん、下がって。私はこの世界も自分の世界もみんなを救う!」
まばゆい光が周囲を薙ぎ払う。
「魔王を討つ聖剣か。甘く見られたものだな、我とたかが魔王一柱ごときと一緒にするとはな」
嘲笑は続く。
「コマンド実行。支援射撃を開始します。接近している両名は後退してください。当機の周囲の方も距離をとってください」
ν11のアナウンスが脳に通る。戦車から放たれた光がやつを貫き続ける。
「両名の離脱を確認しました。当機の周囲からも影響範囲にメンバーは存在しません。システムオールグリーン。ターゲット捕捉、補正完了。これより全火力を集中します。実行許可をお願いします」
ν11がななに告げる。ななは言った。
「たかが垓京年単位の宇宙の寿命でガタガタ鬱陶しく他神の世界荒らしてんじゃねえよ」
戦車から光り輝く力の矢が絶え間なくやつのところに突き刺さり、空から流星が降り注ぎ、矢の着弾地点付近で炸裂する。溶岩が吹き上がり飛び散る。爆音は思ったよりも遥かに小さい。むしろ地面の揺れの方が経験したことのないほどのものだった。
「梵に還すはかの混沌!六世を統べる魔王よ、我が問いに示せ汝の覇を!」
ジェーンが人差し指と中指を立てやつを指し示して叫ぶ。
やつの周りですべてが止まった。
飛び散り落下する約熱がそのまま停止し、世界の色が消えていきすべてが黒色になって一帯が闇に閉ざされた。
再び、色彩が戻った時、やつは半透明の結晶に閉じ込めらえていた。
その中で白い豪炎が暴れ狂う。結界内で黒光の軌道が不規則ではあるが鮮やかに舞う。
不意に結界内のすべてが潰れ落ちた。やつが立ち上がた直後、結界内が凍結する。こちらまで冷気が伝わってきそうだ。
「またあったな。刺貫剣つらタンの最後の一撃だ。魔王穿突改」
何かが結界を打ち砕いた。何かはわからない。ただ純粋な力とだけしかわからない。
打ち砕いた以上存在が「あったこと」は「理解」できるが、存在「していた」時点での「認識」することはできなかった。
溢れでた冷気が急速に周囲の熱を奪い地面を固める。
”宇宙よ、芋の力見るがいい!”
なにか聞こえた。
「で、」
鼓動の3,4泊ほど間をおいて、
「どうした? 次は何かな? それで打ち止めかな?」
嘲笑はやまない。
「おや、あの男はいったいどこに消えたのかな?」
嘲りはまだ続いた。
「上だ」
俺は奴の上に立ったまま、そう答えた。刹那奴の動きが止まる。俺は腿を持ち上げ頭部へ振り下ろした。奴が沈む。
よっと、地に着くと腰の回転のみの左蹴りを当てる。起き上がるところに右膝を入れた。右肘を打ち込む。奴がうめいた。
「お前は誰だ! 何を考えている!」
「ども、小鳥遊ジョージです」
高速で左から突き出される螺旋になった帯を、左足を引いて半身をそらしてかわしながら前半の問いに答える。
確か挨拶はしたはずだが。
伸びきった突きを作業用手袋を付けた右手で根元を抑え、左肘で叩き折る。折れた螺旋の先は発散した。動きが鈍る。右の貫手を放つ。やつの内部に何か特に強い存在を感じる。そこが心臓部だろう。
正拳を極める。外殻がはじけ塊が見えた。
「別に何も」
右から突き出される螺旋を引き、崩し倒しながら問の後半に答える。
「ただ危険物を処理するのに何の感慨もない」
右足を振り上げ塊に振り下ろす。ガシャリと砕ける感触がして集まっていた悪意が霧散する。終わったか。腹が減った。
「知性体とか知能とか……今更だけど人の話はちゃんと聞こうよ」
遠くでななの声が聞こえた。
登場人物紹介
宇宙の意思(以下略)
相手の思考を読み取って、それぞれに適した防御をしていた。チート。笑い過ぎ。
実は極平凡な一般人の1万円以下のビジネスシューズでも倒せた。実際倒せた。最強魔法の制御増幅のための触手の出てくる伝説の剣か呪符は別になくても倒せた。
今回は魔王ムサシと女神ツキヨミの本来重なるはずのない存在次元が重なったことで、宇宙の滅びの可能性を潰すために現れた。
今回は女神と魔王の同次元での存在による反動として発現した。そのため、魔王ムサシが死んだ時点で、本来の現存理由がなくなって弱体化していた。
六世を統べる六柱の魔王
異世界の魔王達。全七柱のうち1柱は完全に消滅させられて、3柱は肉体滅ぼされて肉体構成中。
与野月光の求めに応じて異世界から5柱も来てくれて頑張った。
何かと眩しいので描写がないけれどサングラスは使っています。次回最終話です。エピローグです。残念ながら魔王は出てきません。今回で出番は終了です。
魔王たちの戦いはこれからだ!魔王の非道が世界を支配すると信じて…!(1柱は最近人間の彼女ができるかも)




