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【九言目 姫ちゃんはどこですか】

 王都に入るときにジェーンのギルドカードで作った通行許可書を使い正門を出る。

 

 しばらく街道をゆき並ぶ木々の中に、前もってつけておいた印を探す。

 

 印が見つかった場所から木々に分け入るとちょっとした空間が広がりν11があった。

 

 待ち合わせの場所だ。

 


 ジェーンを待つ。約束の時間に30分弱遅れてジェーンがやって来た。


「ただいま。待った?」


 俺はうなずく。


「結構な」


 そうだ。ジェーンにあやめの紹介をしておこう。


「ジェーン。こちらは豊春あやめさん。勇者さんだ」


 あやめは抱き抱えていた聖剣を地面に置いて慌ててお辞儀をした。


「どうも豊春あやめです。よろしくお願いします」


 ジェーンは無意味に胸を張った。


「私は大魔法使い☨魔戮美少女カラミティ・ジェーン☨。よろしく」


「だそうだ。まあ、ちょっとつきあってやってくれ」


 俺はあやめの方を向いて言った。



「それで、ギルドの方はどうだった?」


 尋ねる。


「もうしっちゃかめっちゃか。どこそこで魔物が現れただの、魔獣が暴れてるだの報告や依頼しに来にきたのがどんどんやってきて、冒険者も依頼を受けてあっちこっちに出発して、ギルド内は大騒ぎ。ずいぶん待たされてやっと換金してもらったと思ったら、そのままじゃ今の混乱した状況じゃ使えない通貨だって言われて、両替でとりあえず一部は金貨銀貨に替えたりして大変だったわ」


 ジェーンは大げさな手振りで大人の頭くらいの大きさの袋を取り出した。


 「そりゃご苦労様」


 とりあえずねぎらう。



「それで、これからどうする?」


 皆を見渡す。


「腹も空いたし、まずは食料の確保が必要だろう。街中は見る限りまともに営業している食堂もなさそうだし、食料店も人が殺到していて手に入りそうにない。だが一応はあたってみた方がいいだろう。ジェーン、王都は詳しいのか?」


 ジェーンに話を振る。ジェーンは自慢そうに答えた。


「当然。何度か来たことがあるし」


「じゃあ、食料の調達を頼む。あとできれば装備も頼む」


「まかせて。大丈夫、だって私は☨紅蓮美少女カラミティ・ジェーン☨だから!」


 期待はしないでおこう。まあ図太いしうまくやれるかもしれない。


 あやめも当然詳しいだろうが、あんな混乱の中に行かせるのは気が引ける。


「俺は近郊の農村で食料を買い出しに行こうと思うんだが、ななと豊春さんはどうする?出来ればここの言葉がわかる人が来てほしいんだが」


 ななとあやめを見た。



 ななはν11についた傷を触りながら言った。

「私ここでニューちゃんの修理をしてる」

 そういえば王都に出発する前にもν11をいじってたな。大したものだ。人は見かけによらない。


 あやめが口を開いた。

「私がご一緒します。言語翻訳能力は貰ってますから通じると思います」


 ほう。


「そうか、ななといい最近の中高生はすごいな」



 農家を十数軒ほどまわった。出し惜しみしている様子だ。

 

 たまに売ってくれるのであっても明らかに吹っかけてきていた。


 電子リーダーを見ながら手振り身振りで脅しすかしおだてて、なんとかジェーンに分けてもらった金貨銀貨で食料と調理器具と作業用手袋を必要なだけは調達できた。


 なんとなく高くついたような気がする。ビジネスマンとして悔しい。



 ふと、後ろについてきているあやめを見る。暗い表情でうつむいていた。


 聖剣は置いてきたのに足取りが重い。


「どうかした。どこか悪いのか」


 声をかけた。もいかすると、肉が手に入らなかったことがまずかったのだろうか。


 あやめはゆっくりと顔を上げた。唇を噛む。


「私は勇者だとか世界を救えるとかおだてられて、よく考えずにここにきてしまったのですけれど」


 視線を地に落とす。


「よく考えてみると、私なんかがそんな大それたことできるのか不安でたまらないんです。怖くて勇気が出ないんです」


「不安なのは当たり前だ。怖いのは当然だ」


 担いだ荷物を地面におろし、格好をつけてみる。


「よくわからないが」


 あやめを見つめた。


「恐怖や絶望や嫌悪は対象と相対して拒否する感情だ。恐怖も絶望も嫌悪もしないのは対象と向き合っていないからだ。恐怖や絶望や嫌悪に閉じこもっているのは、目を背けたまま都合のいい像を対象に押しつけて安心しているだけだ」


 あやめの肩に手を置く。


「まっすぐに対象を見て恐怖や絶望や嫌悪を、自分の悪しき心だと受け入れたうえで、今を変えようとするものを、勇気とも希望とも愛とも言うんじゃないかな」

 

 笑いかけた。


「こんなに不安に悩んで苦しんでもがいているんだ。大丈夫、たかが世界の一つや二つ、君ならいくらでも救えるさ」


 ここでボランティアでもするのだろう。あやめは顔を上げた。多少気安めになったろうか。



 待ち合わせ場所に戻ると、なながν11の上に腰かけて足をぶらつかせていた。



 調理の役割を決める。ななが火をおこして鍋に湯を沸かすと言った。体力がいると思うが大丈夫か。

 

 あやめは食器を用意して野菜や芋の皮をむく。


 俺はそばの川から水を汲んでくることになった。桶を両手に持って四往復したところでジェーンが帰ってきた。手に何か持っている。俺は尋ねた。


「なんだそれ」


「これはね、すごいのよ! 光魔法とか閃光を防げる魔法のサングラスなの! なんか特別に試作品を運よく貰えたのよ!」


 やけくそだ。つまり何の成果もなかったわけだ。いいから手伝うように言う。


 

 10往復ほどで水は事足りた。


 疲れた。手足を伸ばして深呼吸。額の汗をぬぐう。


 

 手を洗ってななにミソとダシのモトを出させておく。

 

 あやめが切っておいた芋や野菜などの食材を、鍋にぶち込んで茹で上げる。灰汁を念入りにとって、ミソとダシのモトを入れかき混ぜるといい匂いがしてきた。



「その聖剣は勇者様ですね」


 儚げな声がした。日本語だ。だれか匂いにつられてやって来たのだろうか。


 振り返る。どこかで見たことのある眼鏡の少女だ。


「ども、小鳥遊ジョージです。きみは誰なんだ」


「あの、あたし、別の世界から麦わらのお兄さんに連れられてきました。聖剣を持った勇者様に会えば何とかなるって」


 またあいつか。


「私の力なんてせいぜい世界を滅ぼす程度のことしかできませんけれど」


 彼女はあやめを見た。


「わたしは高花なずなといいます。姫ちゃんはどこですか」


 ななが気だるげに振り向いた。


「えっと、それってアニメの……、もういいや、全部全部、天の座に帰ってからで。もうめんどくさい」


登場人物紹介


高花なずな


 「私はここにいますよ」の登場人物紹介参照。


 最終回で爆死するところを魔王ムサシが連れて来た。幼馴染眼鏡の命は投げ捨てるものではない。


 細かいことは気にしないのが長生きの元。眼鏡の種類は不明。

クロスオーバーです。掛けない裸眼より掛ける伊達眼鏡。

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