蝉
あなたはいつも ないていた。
おおきなものに すがりより、
およおよおよと ないていた。
あなたはいつも ないていた。
みんなのみみに とどくよう、
おおきなこえで ないていた。
あなたはいつも ないていた。
いつもだれかを よぶように、
どんなときでも ないていた。
あなたはいつも ないていた。
きらりとそらが かがやくひ、
あつさをよそに ないていた。
ある日。
あなたの声が聞こえなくなった。
あなたはただ倒れていた。
わたしの眼前で。
昨日まではあんなにないていたのに、もうその声は聞こえない。
あなたは何を伝えようとしたのか。
あなたは何を残そうとしたのか。
あなたは誰に向かってないていたのか。
あなたのこえが きえうせた。
ちいさいからだ ふるわせた、
もうそのこえは きこえない。
あなたのこえが きこえない。
なきごえひとつ あげないで、
ただしずしずと ねむりいる。
あなたのこえが きこえない。
なにもなかった かのように、
わたしのまえで ねむりいる。
あなたのこえが きこえない。
ついにひとこと そえようと、
わたしはいった さようなら。
わたしの夏は、終わった。
そのなき声と共に。