57.6人悪魔
Side:ミナ
魔獣は魔族の手下ではなかった。
魔族が偽っているんだ、人と仲よくするふりをして、裏では人を襲わせているんだ、そう言う人もいる。けど、ミナは魔族と共闘して魔獣を倒したこともある。こうして魔獣に襲われる魔族もいるって知ってる。
魔獣は魔族の手下である。
魔獣は人を襲う。
魔族は間接的に人を襲っている。
魔族は敵だ。
魔族は殺さなければならない。
始まりは何だったか知らないし、宗教もまじってはいるけど、これが魔族に対する嫌悪感の根底だ。だから前提が崩れると、「あれ、何のために戦ってたの?」ってなる。それだけならいいけど、「あれ、彼らは何のために死んだの?」ともなる。戦争ってことは当然、戦死者が出てるんだから。
「彼らの死は無意味だったの?じゃあ誰が彼らを殺したの?」
これには単純明快な答えがある。
“6人悪魔”。
かつて魔王城と呼ばれた砦に派遣されていた、6人の魔族だ。
残虐な奴らだったらしい。人を殺すのが好き、っていう意味わかんない思考。
彼らは戦争を続け、人を殺し続けたいがために、魔王に報告を怠っていた。
魔族に戦争のことを尋ねると、実際に何をしていたのか知らない者が多い。「…あ、そういえば戦ってたっけ」って言う奴もいるぐらい。
彼らが本当は何がしたかったのかよくわからないけど、6人悪魔はもうこの世界にはいない。魔王は取り押さえようとしたそうだけど、逃げられたらしい。
魔王から逃げられるっていうのはかなり強い。……らしい。魔族から聞いた話だ。「魔王は最強。ていうか勝てる気しねー」
レベルとしては魔族の中で強いほうっていっても、上には上がいる。その6人悪魔だって、きっとミナより強い。
だからたぶん、そういう強い魔族じゃないと、こういうのには勝てない。
そういう風にできてるんだ、世界って。
「なんてね。みーんな倒れちゃったところで、第2ラウンド入りまーす。じゃじゃーん。登場するは女剣士ミナだぁ。たぐいまれなるびぼーで、えーと、えーとなんかすっごい強い。相対するは無敵の魔獣。さあいっちょ前に倒しちゃうよ♪」
馬鹿馬鹿しいのはいいことだ。そんなことは考えるまでもなく当たり前だ。
だからそんな歌を歌おう。
「
カチューシャ ドレス つけて何する?
そんなのダンスに決まってます! と、ッ
あなたとダンス、するの、するの♪
楽しい一夜に決まってます!
あなたとダンス、するの、するの♪
あなたとダンス、するの、す――ッ
危ない危ない。あやうく上半身と下半身がおさらばするところだった。やっぱり油断大敵。
構えを取ろうとして、ゆらりと体が傾く。重心が上手くとれない。今ので左手が動かなくなったせいだ。
歌わなきゃ。馬鹿馬鹿しい歌を。
もう何も怖くなくなる歌。戦いだけに集中できる歌。自らを鼓舞する歌。
「ミナ」
呼ばれて横を見たら同僚のアレクがいた。
「なあに?」
「帰ったら俺も一緒にその歌、歌ってやるよ」
「…うん、約束だよーアレク。無理矢理でも歌わせちゃうからね」
本当は約束って嫌い。だってお堅い感じがする。
もっとこう、笑い飛ばせる感じのほうがいいんだけど。
あ、でも笑ったらアレクの血がどばって出そうだからやめておこう。
再び立ち上がって1人魔獣に向かう。
戦闘が開始してから、どれくらいが立っただろ?ミナはこれでも結構強い、って思ってたんだけど。この魔獣、かなりしぶとい。
あれ、向こうでたいちょーが何か言ってる。
え?1人だけ帰れって?たいちょーだって冗談言えるんだ。
でもなかなか笑えないよ。
グサ。
ああ、なんか。
死ぬ、かもしれない。
なんてね。
いやまだ死にたくないから。
「――」
視界の隅で、誰かが馬鹿馬鹿しいほど軽やかに、こちらに駆けてくるのが見えた。
ミナの主観を尊重したために大分わかりにくかったと思いますが…
説明すると、討伐しにきた魔獣が予想外に強かったせいで、ミナたちは瀕死の目にあっています。
さて、最後に駆け寄ってきたのは誰でしょう?




