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砦の日々  作者: 花屋
≪帰郷編 前編≫
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56.行き倒れは魔族

Side:ミナ


 木の根っこに座ってもさもさと昼食を食べていると、隊長のいる辺りが急に騒がしくなった。“魔族”なんていうことばも聞こえてくる。


「どーしたんですか、たいちょー」


「ああミナ……って、食事しなから来るなッ。吐くぞ!」


 吐くって……そんなにひどい状況?


 人の輪の中を覗きこむと、頭の角を隠しもしない男が、片腕をひきちぎられ、お腹からは内臓がはみだして倒れているのがわかった。


 ……。もぐもぐごっくん。


「僕の恋したあの子、あの子は実は露出狂♪玄関あけたら下着で登場、どっきんどっきん僕どっきんっ」


「ミナ!」


「すみません隊長、はじけすぎました」


 さてと。落ち着いたところでさらに観察してみると、やっぱり魔族だ。


 混じり物に対する偏見が撤回されたとはいえ、まだ民衆たちの中にははびこっている。こんな風に混じり物――じゃなかった獣人の証を堂々と見せ付けるのは、魔族だけだ。

 何より、こんな状態になっても、まだ男は生きている。それこそが強靭な魔族の生命力を証明している。


 こういうのを見ると、やっぱり魔族と人間は違うなって思う。



 姿かたちはそっくりな魔族と人間だけど、中身をみればいろいろと違う。それは休戦してからはっきりとわかった。


 たとえば寿命。

 人間の寿命は60歳くらいで、だいたいみんな同じだ。けど魔族の寿命は魔力量に準ずる。

 力だってそう。魔族の生命力や身体能力は人間の比じゃない。魔力が少なく底辺にいる魔族だって、人間よりは強い力を持っている。病気で死ぬことも少ないし、まったく羨ましい限りだ。


 もっとも、ミナも同じだけの力を持ってるんだけど。ミナは魔族の中でもけっこー強いぐらいのレベルなのだっ。


 考え方だって違う。人間と魔族の溝が埋まらないのはこれが原因だ。

 魔族はよくいえば実力主義。悪くいえば、弱者を切り捨ててる。しかもそれを疑問にも思わない。自分たちは弱いから仕方ない、って。


 人間は逆。自慢はコネだけって奴らが、大臣職とかを独占している。


 どっちがいいかってそんなの決められない。まあどっちかっていうと、魔界?弱者でも一応の生活はできるし。



 で、いま目の前に倒れてるのは魔族。けどそんなに強いっていう印象は受けない。

 だって考えてみてほしい。こんな重体にまで陥るなんて、どんだけ強い敵だって話だ。


「たいちょー、あれですよね?」


「おそらくな。まあ聞いてみればわかる話だ」


 隊長は魔族の体をゆすると(重体の怪我人相手にひどい話だ)、男はゆっくりと目を開けた。紫の瞳が綺麗だ。よくよく見たら、割とイケメンの部類に入る。ってことは貴族?じゃなくて、魔族に貴族はいないから、伝統ある家系?


「おい、しっかりしろ」


「ぅ……ん………」


 うめき声が色っぽい。

 右腕がちぎられた状態で考えることじゃないけど。


「何があった?魔獣か?お前、魔族だろう?1人でこの森まで入ってきたのか?右腕はどうした?」


 隊長、そんな矢継ぎ早に尋ねても答えられないと思うけど。


「君は……?」


 ようやく、魔族の目が焦点を結ぶ。隊長相手に君って…ちょっと笑える。髭モジャのおじさんなんか、お前でいいのに。


 隊長が今度は落ち着いて事情をきくと、まあ予想通りだとわかった。


 この魔族は家族と旅行に来たが、その家族の中で最弱。魔族の実力主義に則って、ヒエラルキーの底辺にいる彼は、「散策に行かない…?」と提案したところ「1人で行ってこい!」と追い出された。薄情なのかこれが魔族の普通なのか微妙なところだ。

 さて森の中に入った彼は、予想外の事態に遭遇。聞いていたはずの魔獣のレベルなら彼1人で対処できたはずが(人間2,3で倒せるレベルの魔獣だ)異常に強い魔獣が現れたのだ。慌てて逃げようとしたところで右腕とわき腹を損傷。無我夢中で走ってきて、気がついたらここに行き倒れていたそうだ。


 要約すると、「あんな強い魔獣がいるとは聞いてないぞ!」

 でも逃げ切れてよかったと思う。だって右腕は元には戻らないだろうけど、魔族なら命は取り留めるだろうし。


 隊長も深く頷いて言った。


「安心してくれ。その魔獣を殺すために、我々が派遣されたんだ」


 騎士団だからね。

 国の狗なんて言って顔をしかめる奴らもいるけど、そういうのはただのやっかみだ。だって、ミナたち下っ端連中は、こうして民衆のために色々してる。


「君たちが……?」


 そういう魔族の顔はしっかりミナに固定されてる。失礼な。隊長もお腹を抱えるな!


「これでもミナ、実力はあるんだから!」


 魔族は笑えばいいのだろうかといった困った顔で、ミナたちを見ていた。


読んでくださってありがとうございます。

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