55.元勇者は天衣無縫
お待たせしました。お久しぶりです。
魔法科って凄いですよね。昔は同じ土俵に立ってたってのが信じられませんね。
≪帰郷編 前編≫ということで、話は少しセドたちから離れます。
Side:ミナ
唐突だけど、ミナは異世界人だ。
どちらかというと人間に含まれる。どちらかというとっていうのは、私がこの世界の理に当てはまらないからだ。魔力は多いし身体能力も魔族並みだけど、寿命な人間と同じくらいなのだ。
カンドルさんは、こんなミナを「レフリシティアは一夜にして散る」と形容した。レフリシティアはたぶん百合みたいな花。だけどミナが思ったのは「ラフレシアみたいな名前だな、ヤだな。あたしそんなのじゃないし」ってことだった。
この世界に来てから6年が過ぎ去った。
ミナはいろいろと変わった。
自分のことを“あたし”じゃなくて“ミナ”って呼ぶようになった。退行した気がしないでもないが、黙りやがれだ。
来たばかりは泣いてばかりだったのが、平気で魔獣も殺せるようになった。
魔法だって上手く扱えるようになった。
この世界もいろいろと変わった。
ミナは日本からこの世界に召喚された。勇者として。でもそれは期待違いも甚だしかった。何故って、ミナはそのとき10歳だったのだ。実はミナ自身はあんまり覚えてないけど、そんな子供に戦場に出ろって言われても、泣いてるだけだったのだ。さすがにこれは失敗だろうってことで、ミナは兵士として教育されることになった。
けど、ミナが戦場に出る前に戦争は終わってしまった。
魔族は敵じゃなくなった。
いろいろ教えてくれたカンドルさんももういない。
「わたしとあなたで踊りましょ。不機嫌なワルツ、足踏めばエンド。そしたら黒猫でてきて、みんな喰われてそしたらハッピー♪」
「ミナ……その阿呆みたいな歌はやめろ。萎える。第一即興だろう。“そしたら”が2回重なっているぞ」
隊長がわざわざ振り向いて言った。
「阿呆みたいなんじゃありません。馬鹿馬鹿しいんです」
「違いがわからないな」
馬鹿馬鹿しいのはいいことだ。けど誰もわかってくれない。
「ていうかたいちょー、ほんとにここでいいんですか?」
「そのたいちょーっていうのもやめろ。馬鹿にされてる気分になる」
だから、馬鹿馬鹿しいのはいいことなのに。
それにミナはわざわざ、こんな上下関係とか、戦場にいるってことで無駄にピリピリするのとか、よく考えもせずに上の命令に従うのは、馬鹿馬鹿しいことじゃなくてそれこそただの阿呆だって教えてあげようとしてるのに。
「ミナたち、死地に向かってるんじゃないですか?命令だからってそんなのに従うのって、馬鹿だと思うんですけど」
「滅多なことを言うなッ!」
士気や不敬罪とかそんなこと考えてるのかな。でもこれぐらいのこと、誰でも頭の中で思ってる。それを口に出したところで、なにか問題があるんだろうか。だって仲間しかいないのに。任務中だから?そうなのかもしれない。
ミナは元の世界のことをあんまり覚えていない。けど、あんまりこの世界では生きてる感じがしない。危機感が薄いってカンドルさんにも何度も言われたけど、こればっかりはどうしようもない。夢の中で死ぬかも、怖い、なんて考えることなんてないんだから。それと同じ。
戦争だって終結して、奴隷も解放されて、むしろ善の魔王のおかげで、自由と平等の世界へと向かってるっていうのに。なんで人間たちは身分とかそういうのに、未だにとらわれてるんだろう。ミナはうろ覚えだけど、元の世界では身分なんか関係なくてみんな平等だった。同じ人間なのに、どうして世界が違うだけでこんなにかけ離れているんだろ?
「ここで一度休憩にする!」
ある程度開けた場所に出たとき、隊長が叫んだ。
森の中をずっと歩いてきたけど、ミナはそれほど疲れてはいない。最初にも言ったけど、ミナは人間よりは身体能力が高いから。
それでも休憩は必要だから、ミナはそこらへんの木の根っこに腰をおろした。




