54.界渡り
題名から予想がついているかもしれませんが……
砦の日々の設定をすっかり忘れている方は、
21話を読んでからのほうが「ああ~」と納得できると思います。
Side:カエデ&アケビ
扉を開けた途端、目に飛び込んできたのは、太く長い大蛇の尾。
うーん……これは面白いけど、計画上戦わないんだろうね。シンのことだから、あのポーカーフェイスの裏で「魔王にぎゃふんと言わせてやりたい」とか考えてそう。
ナグサやセドたちには、これから思う存分戦えると思って、我慢してもらわなきゃ。
……ん?セドって計画のこと知ってたっけ?
あの話のとき、寝てたよね? うん、寝てた。
あれ?じゃあ知らないの?
まあ僕らには関係ないからいいよ。
それもまあそうだね。
「やあ、いらっしゃい。ちょうど君たちの話をしていたんだ。人間諸君、紹介しよう。これらが君たちの同胞を殺し、そして今から死んでいく愚か者たちだ。わざわざこちらへ出向いてくれたようだよ」
初めてみたけど、これが魔王……様?なんだか胡散臭い。小さい女の子におじさんが話しかけるときに、「ほらおじさん怖くないよ~このアメちゃんあげるから、こっちへおいで~」とか言うけど、いや絶対お前危ない奴でしょ!ってツッコミたくなる、そんな感じの胡散臭さ。
シンのほうがまだそれっぽい。
蛇の証が出てるから、強そうだなあってのは思うけど。
「悪いが、俺たちは殺されてやるつもりはない」
「ほお、そうなのか?」
人間たちは、魔王の言ってることが突拍子もないから、反応しきれないって感じ。又は魔王が怖すぎて何も考えられない。
おーじさまが一応止めようと考えてるってのは、ちょっと嬉しいかも。結果的には魔王の尾が怖いから動けてないけどね。
今まで僕らの心配をしてくれたのは、砦の仲間ぐらいだし。その中でもミミは「死んじゃえばいいでしょ。どうして嫌なの?」なんて言うし、ナグサは仲間が死んだって全く平気だし。悲しくなってくる仲間たちだよ。
「今まで自由に戦わせてくれたことには感謝する。だが、そう易々と殺されてやるわけがない。悪いが俺たちにも意思ってものがあるからな。
人間たちが向かってくるから戦う?魔王の遊び?
いずれにしても興味はないな。
俺たちの目的は戦い。そして自由。わかってるだろ?
戦争が終わったなら、もうここでは平和に殺せない。
ならば違うところへ行くしかないな」
尾を打ち鳴らす魔王をまっすぐ見据え、シンが宣言する。
やっぱ格好いいよ、うちのリーダー。今度アメを交えて抱いてあげようか?
「御託はわかった。……では、どこに逃げる?」
魔王は口の端に笑みを浮かべている。僕たちと気が合いそう……って、嫌なこと考えちゃった。
「確かに、この世界に俺らの逃げ場はない。どこへ逃げても、俺らに“戦わない”なんて選択肢はないからな。どこへ逃げても、すぐに見つかるだろう」
「そこまでわかっているなら、なぜ素直に従わない?もしかして私を殺す気なのかな」
「いや。この世界に逃げ場はない――この世界にはな」
魔王が驚愕の表情を浮かべた。
「まさか」
シンが後ろを振り返って、無造作に腕をあげ、
「そのまさかだ」
空を縦一文字に切り裂いた。
「なんだ、あれはっ」「見たこともない術だ…」「あれはまさか、魔物出現の前触れの印では?」
人間たちから困惑の声がもれる。魔王はとみると、さっきまでの余裕ぶった笑みは完全に消え、何も言わず宙にぽっかりと空いた暗い穴をみつめている。
魔物たちが向こうの世界からこちらへと現れるときにできる穴。そこだけ何も無いかのように暗く、奥に何があるのかは全く見えない。まともな人が見れば、恐怖だけが喚起されると思う。
魔物と同じくコアを持つ彼ら。じゃあ、魔物と同じように行き来できないのか?
答えは見ての通り、YES。
「そうか……くくくっ。ますます魔族から離れていくな、お前らは」
「上等だッ」
セドがニヤリと笑って返答し、迷いなく暗闇に飛び込んでいく。
前もって話も聞いてなかったのに、よく躊躇せずできるよね。さすが脳筋。
「2番、あたし行きまぁす!」
ナグサが飛び込む。
……さてと、僕らもこの世界に別れを告げなくちゃね。
アメがうっすらと笑みを浮かべ、父親に向かって手を振るのを横目でみながら、僕らは手をつないで地面を蹴った。
ね、シン。親からも見捨てられた僕らだけどさ、いやだからといえばいいのかな。
魔物の血が開花してない僕らにも、「一緒に来い」って言ってくれたとき、ホントに嬉しかったんだよ。
ありがと。
そしてバイバイ、この世界。
……ふむ。子供が笑顔でいると親も嬉しいというのは、私と娘にも当てはまることだったのか。最後になって初めて知るというのは悲しいな。
これからやらなければならないことがたくさんある。
一度人間たちに言ってしまった「実行者の処分」も撤回せねばならぬし、
歴史や風習の異なる魔族と人間が手を取り合うことは、ただ条約に印を押せばいいということではない。
ああ、それから、どうせ倒されているだろう息子も看にいかねばならぬな。
だが、今だけは。
素直に娘の門出を祝ってやろう。




