5.殺していいんだよな?
Side:セド
「へえ……世界って広かったんだな」
砦は横に長い形をしていて、魔界側・人間界側の両方に窓がある。こんなに高いところにのぼったのが初めてで、目の前に広がる大地に驚いた。
魔界は砦のすぐそばから広がっているけど、人間の住む町と砦は、かなり離れている。
窓から眺めをじっと見つめていると、ふと点――丸?がこちらへ向かって移動しているのが見えた。
「ん?おい、シン。あれ何だよ」
「どうした、セド――ああ、勇者が攻めてきたな。さて、誰を出すか」
勇者?
「勇者って――あの、人間がよこす?開戦宣言とかしねえのかよ」
「戦争は今も続いているぞ?戦闘がないってだけでな。確かに、いつ攻めてくるかわからないから、1人は砦に残らないといけないってのがつらいな。でも敵にそんなこと言っていられないだろう?」
理解はできる。けどなんとなく納得できない。
……いや、待てよ。勇者ってことはつまり、
殺していいんだよな?
「俺行ってくる!」
背中に背負った剣を抜きながら、窓から飛び降りた。今いたのは3階だ。だけどこれぐらいなら、魔法も使わずに飛び降りたって余裕。獣人なめんな。
くるくるっと体をまるめて回転させる。地面に近づいたときに体勢をもとに戻しておりたった。かなり決まったと思う。
さあ。
「行くぜ!」
獣人ってのは、魔人の中でも身体能力が秀でている。さらにその血が開花している俺。
さっき点に見えたところまでを数秒で駆け抜ける。左右の景色が一瞬で後ろへ流れていって、世界中に俺だけみたいだ。息切れ?んなもんするかよ。
人間の可視スピードより速く“勇者”とやらの目の前におどりでる。俺はスキルを持ってねえけど、《瞬間移動》みたいに見えただろうな。
目の前には、10人の人間。……攻めてくるには少ないんじゃねえの?
「――なッ!子供!?」
は?子供だと?
「抜かせっ!!」
一言で沸点まで急上昇した。抜き放った剣を無造作に左から右へ振る。小さな手ごたえ――骨を断つ。
「子供」とか言った男が、胸から鮮血を噴き出して倒れた。
ハッ。弱ぇよ。
「ハディッシュ!くそっ、貴様、魔族か!」
「当たり前だろうが!ここまで来て何言ってんだよ」
味方が死んだのに動揺した男が、剣を抜いて切りかかってきた。あ、コイツはまあまあいける。俺の筋力とスピード(手加減はしてるけど)についてきてるしな。
右から切りかかってはじかれたら、次は左。その次は上から。――ッと、危ねえ!
「はあっ!」
槍を持った男が俺の腹をめがけて突いてきた。慌てて避けたけど、掠った。
小さな傷なのに、かなり痛ぇ。
【―世界に願う。我、いま炎を操らんと】
「――ッ!!」
5人がかりで魔法の詠唱って、ズルイだろ!どんだけ魔法使いがいるんだよ。
襲い掛かってくる炎を、風の盾で防ぐ。
【―世界に願う。我、いま風により我が身を守らんと】
巨大な炎は、風の渦にぶつかって――やぶられた!?
畜生、俺は魔法は苦手なんだよ!
風で防御するか――いや、間に合わねえし、また破られるかもしれねえ。避ける――?
考えているうちに、炎は俺の目の前まで迫っていた。
ぶつかる――!?
油断大敵ってことですね