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砦の日々  作者: 花屋
≪界渡編≫
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52.大蛇の遊戯


Side:アレクレイ


 あの夕食から、数日が経った。


 いま魔王城には、人間界の各国代表が集まっている。代表、といっても当たり前だが国王ではない。ある程度、地位と能力は高いが、いなくなっても困らない――むしろ嬉しい人材。自分がぴたりと当てはまってしまうのが困る。


 実際、彼らが魔王城に着くまでに、護衛25人要人2人が死んでいる。理由は……「混じり物だ何だとうるせえから」だそうだ。

 私がみたときには、セドと呼ばれた黒髪の少年が、血の海の中に1人たたずんでいた。


 どうやら彼の行動は無断だったらしい。

 だが人間界で差別されている混じり物は、魔界では普通の存在だ。むしろ混じり物でないほうが珍しいらしい。その魔界で堂々と彼らを蔑む言葉を発する……外交官としては最悪だ。

 人間界の国と魔界は未だ同盟も条約も結んでいない。そんな状況で差別的な発言をすれば、どう扱っても文句はいえない……とも言える。セドを罰すれば、人間に屈したような印象を与えるかもしれない。


 黒髪の一兵士を罰するのか、赦すのか。


 その場の感情に任せてしたセドの行動に、魔王が頭を抱える様子は、実をいうと爽快だった。


 だが、もしかすると。

 彼が処罰される可能性もある。いや、処罰される――とあの少女は考えていた。

 何故なのか。彼らが生存していると、魔界に何か問題でもあるのか?


 わからない。





「――で、よろしいかな?」

「何だとッ。馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。これは降伏(、、)ではない。和解(、、)だ」

「私は充分な条件だと思うけどね」


 ギリッと歯を噛む音が聞こえてきそうだ。


 それにしても、片腹が痛い。和解だと?あの戦場を見てから言え。

 私たちの戦争が一方的な虐殺にしかなっていなかったと知らないから、そんなことが言えるのだ。いや、事実としては知っているのかもしれない。だが見ていなければ、どうせ誇張されているのだろうと信じることができない。


 この会合では、そんな奴らが大半だ。

 こんな会合を開く意味があるのだろうか?どうせ魔王の思う通りになるに決まっている。抵抗などさせはしない力が、彼にはあるのだから。

 一体全体、彼は何がしたいのだろう?ごっこ遊びが好きなのか?


「大体、わが国の文官が殺された前の事件にも、何の結論も出されていないではないか。犯人はわかっているのだろう。早く処分を下してくれ。まったく誠意が見られないぞ」


「誠意、ねえ……」


 魔王サマは嫌そうだ。


「君はどうして彼らが殺されたか知っているかい?」

「当たり前だ。下等な生物である混じり物に身の程を知らせてやろうとしたのを、邪魔されたのだろう?」


 ……コイツ馬鹿だ。


「じゃあ、魔界では君たちのいう“混じり物”が“獣人”と呼ばれていて、過半数――いやほとんどが獣人であるっていうことは?君の知り合いたちを殺したのも獣人だっていうことは?」

「なんだと」


 驚いた声をあげる男。どうやら自分の言っていることが理解できたらしい。


「犯人が混じり物であるならば、尚更早く処刑すればいいではないか」


 前言撤回。コイツ大馬鹿だ。


 魔王の額がヒクヒクとひきつっている気がする。



「ふむどうやら――私が獣人ということも、知らないみたいだね?」



 ゾクッ。


 猛烈な殺気に思わず腰に手をのばし――謁見している場で帯剣しているはずがないと思い出す間もなく、固まった。



 大蛇に全身を絞められ、体を持ち上げられた男を見た瞬間に。



 はああああああっ!?とか思わなくもなかった。

 私がみた混じり物、ではなく獣人というのは、頭に耳、尻に尻尾といった感じで、ここまで露骨なものはなかった。一方で、魔王ならばこんな化物であってもおかしくはないとも思った。


 あの秀逸な美貌は微塵も変わりないし、引き締まった体もそのままだ――上半身だけ。腰から下は、柱ほどもある大蛇の体が続いている。鱗は新鮮な血のようなワインレッド。綺麗なのは、あの水色の鱗と相違ない。

 とぐろを巻いた大蛇の尾は長く、この広い広間を一周しても余りあるようだ。ひたひたと私のすぐ横を尾が通っているのが、とてつもなく怖い。


「あが……かはっ」


 馬鹿な男は窒息しかけているらしい。私はあの戦場を見たからには、こんなことで怯えたりはしないが、他の使者の中には狼狽している者もいた。隣の男など、ガタガタと体を震わせている。文官なのかもしれない。

 和解も会合も戦争さえも、魔王の遊びにすぎないと知らなかった者たちが案外多いというわけだ。


 ドサッ。


「ごほっぐほぉッ」


「うるさいな」


 魔王とは理不尽なものである。

 

 床に突き落とした男を一瞥し、彼は微かに笑った。


「別に殺さないよ。私はあの馬鹿たちとは違うからねえ」


 おそらく――“あの馬鹿たち”とは双子やナグサたちを指すのだろう。


「“支配”じゃないと言い張るなら別にいい。まあ私は気にしないよ。君たちが私の国に逆らわないのならね」


 退屈そうに魔王は言った。


「要求は服従。永遠――とはいえないか。人間の寿命は短いからね。すぐに世代が変わってしまうだろう。だから、千年の間、こちらに戦争を仕掛けてこないこと」


 ビタッと蛇の尾が床を叩いた。

 反論できる者がいるはずがない。こんな圧倒的な力をみせつけられて。


「まあどうせ、人間たちは忘れてしまうんだろうけどね。我々と違って国そのものが滅びやすい。

 それから、人間界にいる全魔族の解放。交易の自由化。まあこんなものかね」


 ああそれと、と魔王は私をみて笑ったような気がした。


「勘違いしているようだが、戦争のことを私――いや私以外のほとんどの魔族は(、、、、、、、、)知らなかった(、、、、、、)。フレアロンティの砦にいる魔族が勝手に撃退していた(、、、、、、、、、)んだ。私は遺憾に思っている(、、、、、、、、)よ」


 黙れ!!


 嘘だ――誰が聞いてもわかる。嘘に違いない。王が戦争のことを知らなかった?そんな馬鹿なことがあるか!

 彼はこの戦争のことを流そうとしているのだ。確かにカエデやアケビたちが虐殺を執拗なまでに虐殺を行っていたのは事実だから。


 しかし、何故彼らに罪をかぶせようとしている?

 これではまるで、あの夜に狐耳の少女が言っていたことが、正しいかのようだ――。


 まさか、彼らを殺すために?いやそれこそ馬鹿な話だ。


 私の逡巡を見透かしてか、魔王は薄く笑った。


「その責任が私たちにないとも言い切れない。これからの関係のためにも、砦にいた兵士全員を処刑する」


遅くなりました。待っていたかた(いましたら)申し訳ありません。

2ヶ月以上更新されてません……の言葉、出てませんよね?(汗


一度更新を止めると、なかなか次が書けなくなるってことがわかりました。

夏休みの間は筆を休めず書いていこうと思います。


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