51.真夜中の邂逅
Side:アレクレイ
真っ黒な空に、点々と無数の星が浮かぶ。こうして夜空を見上げることなど久しぶりだ。高い城に上っているからか、いつもより星に近い気がする。
だが、この夜空は向こうもこちらも変わりない。
空は繋がっている。当たり前のことだが、そんなことにも気づかなかったなど、私は馬鹿だな。
「……」
ふと気がつけば、隣に狐の耳を持った少女がいた。
あのナグサという少女を可愛いと形容したならば、このアメという少女は“綺麗”だ。
無表情がミステリアスな印象を与えている。成長すれば美少女から美女になるに違いない。
といったことを口にだせば、ベタベタあまあましていた、あの金髪男に殺されるだろうが。
「私に何か用か?」
単に外を見にきたとは考えにくいが。
「……父が」
父?彼女の父親からの伝言か?知り合い…では無いと思うんだが。
彼女はどことなく高貴な印象をたたえている。少なくともナグサよりは。
「お父上が?」
問いかける――返答を待つ。
「……」
待つ。
「……」
待つ。
「……」
待……てるわけないだろう!さっさと話せ!!もしかして「父が」で終わりなのか?そんなはずないだろう!?
「おい、」
「迷惑を」
一言発したきり話さないのは、確かに迷惑だが……と考えて、それは違うとわかった。先の台詞とつなげるわけだ。
「父が、迷惑を」――確かに、親が空いてと知り合いだった場合の、一般的な挨拶に相当する。だが、私には彼女の父に迷惑をかけられた記憶がない。そもそも、道中で出会った魔族が冷たかったが礼儀に駆欠けるということはなく、不快に思うような態度を取られたことはなかった。
いや――1人だけ、「こいつだけは気に喰わない」と思った奴がいたが。まさか、そんなはずが。
「……」
「……」
え?本当にそうなのか?本当に魔王の娘なのか?なら、何故こんな所にいる?どうして前線へ出て、人間と戦っている?
「……」
「……」
それとも、魔王が親というのは私の勘違いか?ただ単に私が彼女の父親と言葉を交わしただけなのを、「迷惑」と形容したのか?
「……」
「……」
いや――人間とは価値観が違うから、権力者の子供が実戦に出るのは当たり前なのか?
「……」
「……」
何とか言ってくれ!
「……父は」
「オチチウエが?」
うっ、声が裏返った。魔王魔王と考えているからだ。
「神みたいな人、だから」
「神?」
「……気まぐれ」
神が気まぐれ?魔族独特の発想だろうか。
そもそも魔族の信仰する神と、我々の神が同じなのか?
「でも人間は助かる」
「助かる?本当にそうか!?」
魔王は人間と停戦する(というか、そもそも防戦するだけで、余力があっても攻めてはこなかったのだが)と言っていた。だがそれは、同情に近いものだ。しかも、か弱い女性に対してではない。年端のいかない子供が大人ぶるのを、微笑ましい目でみるようなものだ。子供、仔犬しかり。
逆にいえば、飽きてしまえば、もしくは痛々しくて見ていられなくなったら、簡単に消されてしまう。
これっぽっちも対等な停戦ではない。
「変なこと……しなければ」
その“変なこと”の範囲が広すぎるんだ!もっと具体的に、どうしたらどうなると教えてくれ。
「もう…用なし………だけど」
「用なし?誰がだ?」
尋ねてから、簡単なことだとわかった。
つまり、彼女たちがだ。
だが、これほどまでに強力な力を有し、今まで戦場で戦ってきた彼女らを、それほど簡単に切り捨てるのだろうか?たとえもう人間側と戦争がないとはいえ、人間から守ってきたことで、英雄となっているんじゃないのか?それを切り捨てれば、民意が離れるのでは……。
この少女の杞憂なのではないか?
気がつけば、隣に少女はいなくなっていた。言いたいことだけ言って去っていったらしい。
まったく、魔族の考えることはわからない。
そういえば――流してしまったが、結局、彼女は魔王の娘なんだよな?




