50.嫌がらせ
お待たせしました。
Side:アレクレイ
間違いなく嫌がらせ、だと思う。
あの魔王は私たち人間のことを、玩具か何かだと思っているに違いない。
終始にこやかに笑っていて、あの少女のように突然殺しにかかってくるかもしれないという不安はなくなった。が、明らかに馬鹿にしている。
まあどうせ、私がはむかったところで、あの魔王には傷ひとつつけられないだろう。それは体が勝手に震えるほどの魔力の差からも明らかだ。隣の金髪の少年や双子は平気そうにしていたから、あれぐらいは魔族にとってどうということもないのかもしれない。
それを考えたら、あの魔王が私たちを動く玩具と考えて楽しそうに見やるのも、そうおかしくない――ともいえる。
こんなことを仲間に言ったら、鼻で笑い飛ばされるだろうが。
「あれ、王子様、食べないの~?」
「仕方ないなあ、僕がとってあげるよ」
両脇に陣取る双子によって、ひょい、と皿が奪い取られる。別にいいと反論しようかとも思ったが、口を開く気力もない。
目の前にはこれでもかと盛られた皿。誰がこんなに食べるのだろうと思っていたが、それの答えはその向こう側を見れば簡単だ。
「ん?おーじさま、あたしがどーかしたの?」
ガツガツという効果音が正しい。双子の呼び名を覚えてしまったらしいが、その舌足らずな発音が子供らしさを強調させる。が、その子供に見える少女の体には、とてつもない量の食事が詰め込まれていく。……あれは、吐いたりしないのだろうか?
じっと見つめていたら、こてん、と首をかしげられた。可愛らしい――犬や猫に向けるような感情。だが、顔から下に目を向ければ、そんなことも思っていられない。
デザイン性のある下着――キャミソールというらしい。とても信じられないが、これは日常的に着ているそうだ。さらに、今は机の下に隠れているが、膝さえも出した短いスカート。こんな扇情的な衣装を当然のように着ている。体のラインを見れば、言動と裏腹に子供ではないのは明らかだ。
そういえば、初めてカエデとアケビと合ったときも、パニエの丈は短かった。魔族はこういう服を着るものなのかもしれない。人間の国同士でも、文化はまったく違っている。同じ形状の服を着ているだけでもマシだろう。
「ほら、王子様、ちゃんと食べてよね!」
「別に太らせてとって喰おうなんて思ってないからさ」
これでもかと食材が詰まれた皿が、私の前に置かれる。
私は下町で食事をすることもあるから、こういう綺麗にセッティングされていない料理というのにも慣れていない。だが、客に出すのに取り方とかいうのも少しは考えるだろう。私だからいいものの、兄上だったら発狂しているぞ。
「おい、そこの皿どかせ。次の持ってきてやったから」
後ろから声がして振り返れば、黒髪の目つきの悪い少年が大皿を2つ手に乗せて立っている。
次の?ということは、まさか。
ハッと前を向けば予想通り、あの山盛りの料理は跡形もなくなっていた。この短時間であれだけ消費したのか、この少女は。
それほど上手いのか――と無理矢理納得させて料理を口に運べば、確かに上手い。がっつくほどではないが。と、食べてから、私は何故自分が食べるのを躊躇していたのかを思い出した。魔族の料理が人間に毒だったら困るからだ!調子は大丈夫そうだからいいものの。
「まあ、上手いな」
宮殿のものほどではないが。という含みが伝わったのか、憮然とした声が返ってきた。
「マズイんだったら食べなくてもいいぜ」
「いや――」
食べないほどではない、と言いかけて、今の台詞に違和感を覚えた。今のは、普通、客に不満を言われた店主の言葉では――?
「もしや、この料理は君が?」
黒髪の少年は、当然のように頷いた。
「見りゃわかんだろ。それ以外何があるってんだよ」
いや、シェフが作っていると思ってました。
とは言えない。よくよく考えれば、メイドも使用人も見当たらない。双子が言うように彼らは戦闘狂であって、他の魔族とは違うらしいので、そんなところにわざわざ使えようとする命知らずもいないのだろう。
だが、彼はない。予想しろと言われたら、普通は最も選ばない奴だと思う。カエデとアケビが作っていると言われたほうがまだマシだ。
「セドはねぇ、意外と料理が上手いんだよ」
「砦のみんなの胃袋を握っちゃった感じ」
「たぶんね、セドが死んだら、ナグサでも泣くよ」
「うん、ナグサはセドの料理好きだからね」
いろいろツッコミどころがありすぎる会話だが――あまり関わりたくないので全力で放置。
助けを求めるように視線を遠くに飛ばせば、金色の瞳と目が合う。だが、すぐにそらされた。
一応常識を持っているように見えた彼が目をそらしたのは、私と同じようにこの状況から逃げたわけではない。その理由は一目瞭然だ。いや、見なくてもわかる。
「……はい」
「ん、うまいな。はい、お返しだ。あーん」
「……」
「うまいか?」
「ん」
どこの新婚カップルだと言いたくなるようなベタ甘の雰囲気。胸焼けがしてくる。
さっきまで人を綺麗な顔で虐殺してきたくせに、「あーん」って何だ!?そんな甘ったるい声で。女のほうもそうだ。無表情でありながら、あれほど好きですとアピールできるのも素晴らしい。
「「あれね、まだ恋人じゃないんだよ」」
両耳でささやかれた私は、絶句した。
「君に泊まってもらう場所なんだがな。ほら、その双子と仲がいいそうじゃないか。素晴らしいな。折角だから、2人の住んでいる砦に泊まったらどうだい?」
あたかも相手のためを考えてますと言った言葉。そのニヤニヤとした笑みと、笑いをこらえた声さえ無ければ。
このカオスな食卓は、あの魔王の嫌がらせに違いない。
魔王は滅茶苦茶ウザいキャラで設定しています。
話にはあまり出さない予定ですので、個人で想像してみてください。




