47.魔王のお遊び
Side:アレクレイ
すまない。間違えた。
国に残してきた義姉上に、心の中で詫びた。
残念なのは国に残してきた恋人がいないことだな。私の立場上、それより先に婚約者が出来るしな。貴族において、ほぼ婚約者ノットイコール恋人である。
と、現実逃避できるのはここまでか。
少女は国の為に戦う義勇兵ではなく、ただの狂戦士だったらしい。
手当たり次第に破壊していく、その様子をみると、そこらの魔物より凶悪だと確信する。
「火竜の顋ぉ!」
拙い言葉遣いも、街中でみれば可愛いのだろうが……今は恐ろしいだけだ。
にしても理性を半ば失っているくせに、地味にキツイ魔法使うなこの野郎!
宙に現れた炎が、ドラゴンの形をとって私たちを追いかける。木々が焼けるのもお構い無しだ。
それを避けたら、その先にはナイフを持った悪魔が立っている。
「終戦なんて許さないよぉ?きゃははッ。こんな楽しみ味わえなくなるなんて、ヤダもん!」
人殺しが楽しいか……悪趣味な楽しみだな。
部下も、もう何人か倒れている。死にそうな奴から手遅れな奴まで様々だ。
怒りに任せて攻撃したいが、体から抜けていく血が頭をすっきりさせ、理性を失わさせてくれない。
「きゃははは!逃げるの?ねえ逃げちゃうの?鬼ごっこ?楽しーね!じゃあ殺されたら負けねー!」
おかしいだろう、これは。
知り合いだった青年も、呆然と突っ立って見ているだけだ。
……いや、違う。あいつ、意外に冷静な奴だな。
少女は前に向かってだけ、攻撃している。つまり、その場――少女の背後にいたままの方が安全というわけだ。逆に下手に動いて、注目を引いたら、むしろ危険性が高まるのだ。
さっきまではどう接すればいいかわからなかったが、こうして同じ危機に瀕する(アイツらもキレてる少女に何をされるかわからないだろう)と、仲間意識が湧いてくる。
高見の見物にイラッときたのもあって、口パクで伝えた。
「(何とかしてくれ)」
あの少女と知り合いなんだから。
返ってきたのは……
「(無理)」
畜生、薄情な奴め!
私たちの危機は、少女と同じように、今度は森の奥から突然、金髪の少年が出てくるまで続いた。
Side:シン
俺がそこに到着した時には、ナグサは完全にキレていた。
お得意の甲高い声を上げながら、木々ごと燃やしつくす勢いで魔法を奮っている。
双子め……どうせフィールド外には魔法を使うナグサが出たほうが効率がいいから、そうしたんだろうが……人選ミスだ。
いや、俺以外の誰が行っても人選ミスか。
セドも同じようにキレるだろうしな。
俺がキレずにいられるのは、希望があるからだ。
「おいナグサ、やめろ」
威圧感を持って言えば、不満そうな顔のしつつ、一応手をとめる。これでも俺はリーダーだからな。
「なんでぇ?シンは嫌じゃないの?戦えなくなるんだよ!?」
「魔王城からの命令だ」
ぼろぼろになった人間たちを横目でみる。期待の目ですがられた。
「ナグサがキレてるということは、終戦を持ち掛けたんだろう。正解だったな。
俺はアメから間接的に聞いたんだが……もし人間たちが砦の中を知ったときに、戦争を止めようとするならば、それに乗る。
だが、現実を見ようとせず、判断する能力すらない愚か者だったならば……」
心なしか人間たちの顔が青い。ああ、あれか。流血しているからか。
「人間たちをひとつ残らず殺しつくす。そう魔王サマが言ったらしい。
まあ、あの魔王らしい、単なる賭けだ。どっちの転んでもあの人には害がないからな」
人間を滅ぼすのは簡単だ。魔王なら、その後しばらく魔力が尽きることに目をつれば、魔法ひとつで殲滅できる。
俺は本来は、後者を望んでいた。というかか、もし終戦を持ち掛けられても、嘘の報告をしようと思っていた その可能性にナグサも気づいたらしい。相変わらず不満そうな様子を消さない。
「やっぱりシンの言う通り“クソ役人共”だねぇ。最悪。
でもそれで、どうして殺しちゃ駄目なの?フレアロンティを滅ぼそうとしてました、って言えばいいじゃん。
戦えなくなるなんてヤダよぉッ!!」
しかも若干キレている。
恐ろしい(というかキモイ)が、ナグサの快活な可愛さは損なわれていないのが、凄いと思う。
だが、俺にはアメのほうが可愛いらしいと感じるし、好みだ。
――いや、こんなことを考えている時じゃないか。
「安心しろナグサ……アテがある」
「え……ホント?」
「ああ」
それが無かったら俺だって、魔王に従うなんて馬鹿なことはしない。
おや、待てよ…魔王に喧嘩売るってのも、楽しいんじゃないか?ひとりふたり死ぬかもしれないが問題ないだろう。
考えこむ俺の横で、ナグサが「やったぁ~!」とか飛びはねていて、それに人間の奴らがほっとため息をついていた。
読んでくださってありがとうございます。




