40.俺と私の戦争
学校生活が始まり忙しくなったので、1日おきの更新になるかもしれません
Side:シン
目の前には数万の軍が広がっている。
「すげえ……」
目に感動をたたえながら、右隣でセドが呟く。その向こうで、じゅるっとナグサが涎を飲み込んだ。
見苦しいからやめろ。
「これから、この戦場では魔法が使えなくなる。ナグサは少し苦労するかもしれないが、我慢しろ」
「ぜんっぜん平気だよ!むしろ楽しいかもッ」
いつもの数十倍はある。しかも、質より量をとったという印象は受けない。そこかしらに精鋭が散らばっているのがわかる。
全勢力をつぎこんだ、という感じだ。
「でも、懐かしいね」
ナグサの言葉に俺は頷いた。
今でこそ1ヶ月に2回という「偵察なのか?」と疑いたくなるような侵攻だが、数年前はちゃんとした戦争だった。まだミミが生きていたころの話だ。
頻度は少なかったが、兵士は多かった。この軍の半分ぐらいだろうか。必死になって戦ってます、と訴えかけるような数だった。
対してこちらは数人だ。今みたいに当番制ではなく、連絡がまわると全員が集合した。囲まれると剣が掠ることも多い。スキル《治癒》持ちがいないときは、生傷が絶えなかった。それは逆に“戦っている”と実感させてくれるから、嫌ではなかったが。
つまり、セドが来てからの戦争は、俺たちにとって生温いのだ。
「一。一般人には手をださないこと」
気がつけば、あの三則が口からもれ出ていた。
「一。砦の仲間は信用すること」
これらを提案したのは俺だったが、考えたのはミミだ。
あの蛆虫野郎共の規則が嫌だったから自分たちで作ろうと言ったら、自分たちが普段から気をつけているのはこんなものじゃないかと、彼女は言った。
つまり、これは実際のところルールでも何でもなく、俺たちの行動方針ってわけだ。
「一。命を惜しまないこと」
死ぬとは思ってはいない。だが、死ぬかもしれない。
怖い?そんなわけがあるか。
戦場にいるときだけは、ミミの言葉が正しいんだとわかる。
俺は、戦場で死にたい。戦場から帰ることが何よりも恐ろしい。
「全員――突撃!」
「《血塗れの戦場》!!」
シンがそう叫ぶのを感知。《さえずる小鳥》の効力を打ち切る。
『其は風――
魔法の詠唱。《風切る弾丸》をその場で発動。
本来、魔法は発動する場所を近くする必要がある。だが私は現在《千里眼》を並行発動。
すなわち、此処と彼処を私は同時に知覚している。
カエデとアケビが日常的にみている情景。
その情報量に脳が破裂しそうになる。此処なのか彼処なのか、間違いそうになる。
奥歯を噛み締めて耐える。これぐらいで私の精神は壊れない。
――《風切る弾丸》』
発動。風の弾丸が対象の体―胸―心臓を打ち抜く。倒れたのを確認。
発動。確認。発動発動発動。
そしてようやく敵陣は、「自分たちは魔法を使えないのに、魔法で殺されている」という異常事態に気づく。
《血塗れの戦場》と私の長距離魔法射撃の組み合わせ。
フィールド内で魔法は使用不可。だがその外ならば可能。
私が外で魔法を発動し、その弾丸を対象空間内の敵へと飛ばす。
対象空間にいる魔法が使えない敵。
抵抗などさせない。
砦に来て人になれた私。
だがこうして立てば、私は武器になる。
魔法を発動するだけの武器。剣と変わらない。
そのことが――この腕が人間の体を貫いているという事実が――私は嬉しい。




