38.馬鹿共の叫び声
Side:シン
「グァァアアアアアアアア!!!」
砦ぐらいの大きさがあるんじゃないかという、赤いドラゴンが咆哮をあげると共に。
「キャァッ!楽しそー!!」
「もっと興奮させろよトカゲ野郎!!」
という何とも形容しがたい悲鳴が響く。
セドもなぁ……砦に来たはあんなに常識人だったのに、この1年ですっかり枷が外れてしまった。
砦にいれば思う存分戦えるし、自分を偽らなくていいから楽なんだろう。
砦の3番目のルール――命を惜しまないってのに真っ向から賛成してるわけだから、文句はないけどな。
今回はアメも双子も来ていない。カエデとアケビは普段から冒険者の仕事を受けているんだから、我慢してもらった。
アメにやめてもらったのは、俺がスキルを使うためだ。これが発動すれば、魔法使いたるアメは不要になるからな。
「いくぞ――《血塗れの戦場》!」
見た目には何も変わりがない。
だが俺にははっきりと変化がわかっているし、セドもナグサも体で感じているだろう。
俺は腰の剣を抜き放った。
真っ直ぐ見つめる。ドラゴンの目にすでに理性はない。殺意を浴びて、ゾクゾクするような快感が突き抜けた。
俺はいま間違いなく戦場に立っている。
「はああああッ!」
大地を駆け抜け、思い切り跳ぶ。無防備に宙にさらされた体に、レッドドラゴンが炎のブレスを吹きかけようとして――失敗した。
ドラゴン種は魔法を使う。特にレッドドラゴンはその口から炎を吐き出すから厄介だ。
だからそれを封じさせてもらった。
《血塗れの戦場》。スキル所持者が指定した空間での魔法発動を阻害するユニークスキルだ。
魔法によって燃やし尽くすことも、氷漬けにすることもできない。己の剣と体で戦うのみ。その戦場は血で染まることになる。それゆえの《血塗れの戦場》。
本当は、アメと組み合わせればもっと効果的になるんだがな。こんな狭い空間で戦おうと思ったら、アイツは邪魔になる。
混乱しているらしいドラゴンに顔に、剣を叩きつける。
咆哮をあげるドラゴン。悲鳴、ってヤツか?
感情のままに頭を振られて、俺は剣もろとも吹っ飛んだ。
宙に放り出されるが、間一髪で背中の翼を出せた。さすがに丈夫にできてるとはいえ、3階から地面に叩きつけられるのは御免だ。
痛みに微かな怯えを感じているところに、ナグサとセドが足へ切りかかる。本来ならば皮を削り取るか、跳ね返されるかといったその攻撃は、彼らの獣人の筋力をいかし、肉まで突き刺さった。
そのまますぐに引き抜いて退却。
セドの体ギリギリの地面をドラゴンが尾が叩いた。悲鳴みたいな叫び声をあげて飛びのく。奴の頬を血がつたっていた。
仲間が死ぬかもしれない。自分が死ぬかもしれない。
そんな戦場が楽しいだなんて、やっぱり狂ってるか?
「せやぁ!」
可愛らしい――血塗れの戦場に不似合いな――掛け声とともに、ナグサが剣をふるう。アイツの要は剣と魔法の両立による撹乱であって、剣だけで戦うのは苦手なんだがな。
もっとも、獣人の血が開花してるんだから、苦手というだけだが。
当然のように、その一撃はドラゴンに少なからぬダメージを負わせる。
そこへ俺が追撃。その巨大な体に似合わぬスピードで足が振られ、その爪が俺の服を切り裂き、衝撃を与えたが、それさえも俺を興奮させるだけだ。下に回りこんで、腹を剣で裂く。
「グォォォォォオオオオオ!!」
ドタドタと巨体を揺らし、数歩下がった。
「ハッ、震えちゃってさ。全然おもしろくねーじゃん」
「3人で来たのが間違いだったかな……」
多すぎたかもしれない。
「シン、さっきの大丈夫ぅ?」
「余裕」
チラッとみたときは、裂けた服から金の鱗がのぞいていた。ドラゴンの攻撃を受けるのに、これ以上の防御はないだろう。
「さてと。第二ラウンドいくか?」
「「もちろんッ!!」」
頼もしい声を巨体をはさんできき、俺は剣を握る右手に力を込めた。
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