37.見解の相違
Side:セド
「これでもう料理は最後だぞ、ナグサ」
「了解ッ!」
返事をしながら、ナグサは夢中で料理を口に入れている。てか絶対わかってねえだろコイツ。
その隣のアネア、キルトは既に酒のみに移行している。
ルウは下戸だから飲まねぇらしい。ナグサの食べっぷりに飽きた子供らと、外で遊んでいる。
「ここからあの城は見えるんだね」
「城じゃねぇって。ただの砦だっつの」
「いや、公爵の屋敷にも匹敵する大きさだよ」
アネアの視線の先には、窓の向こうの町並みの中で存在を主張している砦がある。アネア曰く、こんな小さな町であの砦は不自然らしい。ま、戦線なんだから当然だと思うけど。
「あの砦では精鋭が寝起きしてるんだろ?君は会ったことがあるのかい、その“精鋭”に」
「あるわけねぇって。どんな奴らかさえわかんねぇんだからさ」
と、いうことになっている。そうだ。
一応隠しとかなねぇと、シンのいう「糞野郎の役人共」がうるさいからな。
「へえ、そうか。いろいろ噂は流れているらしいけどね。
なんだったか――王族がいるなんて話もあったかな」
「王族って、魔王の血族ってことか?魔王なんて会ったこともねえんだから、わかるはずねえだろ」
と言いつつも、シンとかなら納得できるとも思う。アイツはドラゴンで、力も強いしな。
「でも、砦の人たちって、軍属なんでしょ?騎士の服とか着た人って見ないから、やっぱり町には来ないのかなあ」
少し残念そうにキルトが言う。のほほんとしているが、その右手からは決して酒のグラスが離れない。
1年も付き合ってると、この酒に飲まれると普段少ないキルトの口数が増えるところも、さすがにわかる。
「騎士の……服?そんなのあんの?」
そんなもの配られた覚えはない。シンは軍人や貴族が嫌いだから、配られてても捨ててる可能性はあるけど。
そういえば前に魔王城に近い町に住んでたときも、そういうゴテゴテした服の奴がいたかも。権力者っぽくて殺したくなるから近寄んなかったし、服も動きにくそうだったから、騎士だなんて考えなかった。
民衆なんて、貴族は偉い奴、ぐらいの認識でいいんだって。
「あるよ~。でも砦の人たちって騎士なのかな?見たことないと、よくわかんないよね。
戦闘が起きてるっていうのも聞こえないし見えないし、これじゃ慣れちゃうのも仕方ないよ」
仕方ないと言いつつ、危機感がないとか人間の危なさがわかってないとかグチグチ言ってる。
そんなに危ない奴らじゃねぇけどな。強くねぇし。
「なあなあアネア姉ちゃん!」
「姉ちゃんはドラゴン狩り行くの~!?」
外で遊んでいたはずのミライとユーゴが飛び込んできた。
ドラゴン狩りって何だよ……すっげー楽しそうな響き!
「どこでそんなことを聞いてきたんだい?私たちは行かないよ。あれは倒せるレベルじゃないからね」
「えー?でもアネア姉ちゃん強いだろ?ドラゴンなんて倒したらカッケーじゃん」
キルトのことが1つも出てこねぇのが、2人の力関係とそれが子供たちに影響を与えていることを、よく表していると思う。
「できねぇのか?俺はアネアとキルトのレベルは、そこそこ高いと思うけど」
普通の奴らの中では、な。
「馬鹿を言うな。私たちはリアみたいな化物とは違う。
確かに、幼体ならばリアを加えれば相手にできるが……今回のは特別だ。
どっかの馬鹿貴族が悪さをしない幼体を殺したらしくてな。それの親が暴れまわっているらしい。理性を失ったドラゴンの相手など無理だ」
「へぇ~すっごく楽しそうだね!」
何だか静かだなと思ったら、1人静かに食物を消費していたらしいナグサが満面の笑みで言う。
アネアとキルトが顔を見合わせて、「この可愛い子は危険性を全く理解してないなぁ……困ったものだ」なんて目で会話している。
ナグサなんて子供が何も考えずに言うから、そんな馬鹿にされるんだよ。
それにしても。
失った子供の恨み。
理性を失ったドラゴン。
いいなあ……メチャクチャ興奮する。
よしッ、シンを誘って倒しに行くか!!
砦に来てから1年、セドは枷が外れて、はっちゃけてます。




