36.昼から飲む酒は美味
Side:ナグサ
セドが砦に来てから、1年が過ぎた。順調に砦に馴染んでる感じがする。
セドの何がすごいって、あの料理の腕だよ!料理店で育ったから、小さいころからやってきたらしいけど、凄すぎるよ。あたしなんて、小さいころは食事なんてパンと水だけだったから、そんな料理なんて見ることさえなかったもん。
「セドーッ!お肉もっとッ!!」
「ええええ!?ナグサ姉ちゃん、まだ食うの!?」
「仕方ないって、あれがナグサ姉ちゃんなんだから」
「あたしが狙ってたお肉とられた……」
「ふむ……やはり、彼の料理は素晴らしいですね。日増しに上手くなっているように思いますよ」
「酒のつまみに何かほしいな」
今日はセドが孤児院で料理をふるまっている。材料費もこっちもちだから、ルウくんも機嫌がいい。子供たちは「週に一度のご馳走~」って喜んでいる。
セドに言わせれば、まだまだ下手だから練習ってことらしいけど。でも充分おいしいと思うよ?
――って、アネアってば、子供たちの前で昼からお酒!?
「お酒?あたしも飲む!!」
「ナグサは飲むな」
料理を持ってきたセドがあたしをにらんだ。ひどいよぉ、まったく。そりゃ確かに、あたしお酒飲んだら、すぐに寝ちゃうけどさあ。
「セドはナグサの兄みたいだね」
「え!?アネア、ひどいよ。どっからどうみても、あたしがお姉ちゃんでしょ!?」
あたしがそう言うと、アネアとキルトが何故か微笑む。
うぅ、そこはかとなく馬鹿にされてる気がするよぉ。
「ねえ、アネアとキルトの仕事のお話、聞かせてよ」
あたしは2人に話題をふった。キルトは苦笑いする。
あたしは魔界では、このフレアロンティから出たことはない。だから、2人の話を聞くのはすっごく楽しい。
魔物を相手にする話だけじゃなくって、冒険者ギルドの支部の話とか、リアが厄介な貴族をからかったときのこととか、いろいろある。それにアネアって、話し上手なんだよね。
理由はわかんないけど、盗賊を始末したとか、そういう話はまだ聞いてないんだけどね。
――あれ、振り返ってみれば確かにそうだ。そういう仕事はやらないのかな?今度聞いてみようっと。
「そう、だな――私たちがまだ冒険者に成り立てだったころに、スモークラピットの討伐依頼があったんだ。思うに、それが私が経験した中で最も大変な仕事だね」
1番大変な仕事?
そんなに強い相手だったの?戦ってみたい!
「スモークラピットって、どんな魔物なの?」
「魔物の名称なんて、冒険者じゃないとわかんないかな。
ちょっと大きめの小動物。草食なんだけど、田畑を荒らすから討伐依頼が来るんだ」
肩幅ぐらいに手を広げるキルト。
おっとりとした口調で冒険者には向いてない感じがするけど、リアの弟だもん。アネアいわく、「油断大敵」らしい。
「焼くと上手いから、自分たちで始末することが多いんだがね。繁殖力が高いのと、すばしっこいので、数が多くなると私たちに仕事が回ってくるんだ」
「ん~ってことは、一般人でも余裕だけど、数が多くて素早いから面倒で、初心者向けってこと?そんなのがどうして、1番大変だったの?数が多かったとか?」
ちょっと高い位置にあるアネアの顔を見上げると、何故か頭を撫でられた。
そういうのはアメちゃんにしてほしいよ。多分照れ屋さんだから、させないと思うけど。
「数が多かったのは確かだ。数えてみたら100近くいてね。だけどそのときはリアもいたから、焼き殺すのに労力はいらなかったんだ。
大変だったのは、そのあと――」
「コアを取り出す仕事かぁ!!」
ひとつひとつさばいてコアを取り出すのって、強い1頭だけなら簡単だけど、それが100にも及んだら大変だ。
「最期には死体を集める係とさばく係に分かれてやったよ。キルトが血の臭いが取れないって騒いでいたな」
どうやら、さばかされたのはキルトだったみたい。
「でも、冒険者の仕事って楽しそう。あたしもしたいなぁ……」
そう言えば、キルトが飲んでいた酒をごふっと噴いた。
――って、酒!?あたしも飲みたいよぅ!
「キルト、あたしにも酒ちょうだい!」
「駄目だから――って、冒険者の仕事も駄目だよ!いろいろ話聞いてわかったでしょ?確かにナグサちゃんは獣人だけど、女の子なんだから。そんな簡単な仕事じゃないんだよ」
「そうですよ、ナグサ。お金に困っているわけでもないでしょう?」
キルトと向かいに座ったルウくんからも諭されてしまった。
そっかぁ……そうだよね。身寄りもない女の子が、そんなに簡単に冒険者の仕事を始めることなんてできないか。
冒険者って粗野な職業だと思ってたけど、意外とお堅いんだね。
「――あれ、アネア、黙りこんでどうしたの?」
「いや、カエデとアケビの例があるだろう。あの2人と知り合いならば、ナグサも……と一瞬思ってしまってな。いや、こんな可愛い子があんな無双をするわけないか。そうだよな、ははは…」
「……」
「はは……………」
なんて会話が隣で繰り広げられていたのを、あたしは知らなかった。
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