3.欲求不満
Side:セド
シンの言うとおり、ナグサは善良な奴だった。シンは強いとか言ったけど、こんなので戦えるのか、って思うぐらいだ。今に馬鹿やって殺されそう。
そして俺の目の前には、ナグサと真逆の少女がいる。
「セド」
シンに言われて、不承不承うなずく。
――ってか、ここに来てすぐなのに、どうにもシンにリーダー風ふかされてる気がする。
「瀬怒だ。よろしく」
「……」
返答がない。
思えばさっきのナグサも可愛いと呼ばれる分類だった。俺は興味ねえけど。
けどなんつーか、この女は、冷たい美少女、って感じがする。
「……」
しかも返答がない。
「……天」
いや、あった。
でも、なんだよそれ?アメ、って名前なのか?
困ってシンを振り返ると、彼も苦笑していた。
「あー、アメも驚いてるんだ。まあ、名前を言っただけ頑張ったと思って」
意味わかんねえ。
「アメの戦闘能力も今はセド以上だから。甘くみるなよ?長距離魔法射撃でアメの左に出る奴はいない」
なんだよ、魔法かよ。
「ふうん。じゃあ俺とは関係ねえな」
「関係ないって……言っておくが、戦闘になったら、お前が近接で戦って、アメの後衛射撃をあてにすることがあるかもしれないぞ」
繰り返し女よりも弱いって言われて、その上たよりないって言うのかよ。
「そんなん必要ねえよ」
ぐ、っと腕が掴まれた。予想以上の力だ。
「……私の力、馬鹿にしないで」
アメの目は力強く、それに我に返った。
そういえば、こいつらも俺とそんなに変わらない境遇なんだっけ。
魔族の国――通称魔界に数え切れないくらいいる獣人の意味で、真の意味で魔物の力を受けついでしまった俺たち。
本能が俺たちに命じる。戦えと。
俺はずっと我慢してきた。そんなことできねえって。でも一度やってしまえば、その麻薬のような陶酔に囚われる。足りない足りない足りない。ぜんっぜん、足りない。もっと戦いたい。より強い相手と。
そのために俺は砦へと来た。
軍に捕まった後に。
他の奴らもそう変わりないに違いない。
そう考えると、スッと頭が覚めた。そうだよな。コイツらも戦いを求めてんだ。だったら戦えるに決まってる。
俺は考えを改めた。