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砦の日々  作者: 花屋
≪界渡編≫
39/68

34.微笑と紅茶(上)


Side:アレクレイ


 双子の言うとおりになった。


「んで?どうなんったんだよ。あの双子。お前が何も言わないってことは、暗殺者じゃなかったんだろ?楽しめたか?」


 翌日、親友にそう訪ねられるまで、私は昨日の夜がすべて夢だったのではないかと自問自答するしかなかった。

 少女にしか見えない双子たち。その可憐な美貌。王子という地位を馬鹿にしたかのような対話。神秘的な水色の鱗。

 それの証拠を、私は持っていなかった。


「やはり、夢ではなかったか……」


「ん?」


「いや、何でもない。そうだな……よかったぞ」


 これは確かだ。下手ではなかった。

 男として大事なものをいろいろ失った気がするが。エキサイティングな夜だったことは否定できない。


「へえ?いいな、俺にも今度紹介しろよ」


「無理だ。名前さえ聞いていなからな。もう会えないだろう」


「そうなのか?つまんねーの」


 片方が男だったと知れば、そんなことは言えないだろう。

 私は苦笑いで返した。






「……それで?」


「ですから、混じり物に対する差別をなくしていただきたく……」


「わたくしに言うというのは、多数の貴族に受け入れられないとわかってらっしゃるからでしょうけれど……」


 子の我侭をなだめるように、彼女はその美しい顔に小さな苦笑いを浮かべた。そして優雅に紅茶を口に含む。


 彼女の名はメルリーノ・クジャン・カダリア。この国の第一王子の妻である。


 多数の貴族のうちに、彼女の夫が入っていることは言うまでもない。

 父上も彼の傲慢さには辟易していた。貴族の頂点に立つ者として自尊は必要だが、過剰な侮蔑は逆に冷静な判断を奪う。だからこそ、父上は彼を選ばなかったのだ。側室の子――母は私とは違うが――ではあるが、一番年上なのだから、王太子となる可能性もあったというのに。


「そうですねぇ。わたくしは嫌ですわ。差別をなくすなど」


「なッ……!?」


 カッと頭に血がのぼる。温和なメルリーノがそのような台詞を吐くなど信じられなかった。


 にらむより、信じられなくて彼女をみつめる私に、彼女はゆっくりと口を開く。


「混ざり物たちが特殊能力を持ったただの人間であると、わたくしも知っていますわ。でもねぇ、王子アレク。混ざり物たちが国に反旗をひるがえすことができる力を持っているのも、また確かですわ。

 そして、この国は混ざり物への差別という犠牲の上に成り立っているのですのよ?それを理解してらっしゃらないのねぇ」


 のんびりとした口調。王宮で生き馬の目を抜くよりも、孤児院で子供たちを相手にしていたほうが似合うような、優しい微笑み。

 だが、それらは決して、メルリーノという叡智を現してはいないのだ。


「犠牲……?」


「そうですわ。混ざり物という自分たちより下の者たちがいるからこそ、民たちは圧政を強いられても文句を言いません。多少は我慢ができるのです。

 あら、不満そうな顔ですねぇ、王子アレク。

 いいですか?民たちは決して満足することなどないのです。わたくしたちがどれほど頑張ろうと、いずれはより豊かな生活を求め、不満が出てくるのですわ。その不満をぶつける相手が、平和には必要なのです」


 間違ったことを言っているとは、思わない。

 だが納得できないのも事実だ。


「じゃあ、逆の考えかたをしましょうか。

 差別をなくすために、あなたは何をします?」


「それは……まず、混ざり物たちも平等に職につけるようにし――」


「平等に職につけるなんてことは、この国ではありえませんわ」


 聖女のような微笑みで、私の提案を足蹴にする。


「では、混ざり物への差別をなくすように、触れを――」


「それですわ」


 何が言いたいのかわからず、私は彼女の顔を凝視する。


「触れを出したところで、民たちは差別をやめませんわ。当然のことを何故してはいけないのかと、逆に反発が起こります。貴族たちからはさらに強い反感をかうに違いありませんわ。何よりも、わたくしがなめられますの。

 この国で、混ざり物の数は1万人に1人。他の国――ヴィストンならばもっと多いでしょうか。あの国は奴隷がありますからね。それだけのために、わたくしはこの国の安定を失いたくありませんの」


「それは……犠牲の上の平和など意味がありません」


「あなたは戦争を甘くみるのですか?」


 これもそれも、そう変わりませんよと、メルリーノは微笑した。


「もっとも、あなたが差別を変えたいと思うのならば自由ですわ。1人ずつ、あなたの言葉で説得してらっしゃい。賛同してくださるかたもいるでしょうしねぇ。そうなれば、わたくしもあなたのお手伝いをせざるおえませんね」


 むしろそうなって欲しいというように、彼女は語る。


 私の脳裏に、あの水色が浮かぶ。

 単なる思いつきでしかなかった。それは確かだ。私が少し動くことで、救われる命があるならばと、そう思っただけだ。だが実際は、彼女は考えに考えぬいて、彼らを切り捨てている。


 私は重大な決断を迫られている気がした。


注)この文書はフィクションであり

  差別や未成年の不純異性交遊を勧めるものではありません(笑)


メルリーノに対する批判がありそうですが……

実際に政治をするときに「10のために1を捨てるなどできません」などと言うことはできないと思います

特にこの国は貴族もあり、教育もまだ充実していません

さらにメルリーノは王女ではなく王子の妻であるだけです

あまり政治に口出しすることはできません


……などという理由があります

メルリーノは決して悪意や面倒で言っているわけではありません



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