33.はい、嘘ですよ?
Side:アレクレイ
「……食われた」
最悪だ。
呆けている間に押し倒されて、暴れようにも、無駄な抵抗とばかりに抑え込まれる。
今さらながら気づいたが、この私を相手にさえさせないとは、やっぱり暗殺者なんじゃないか?
「失礼な。まだ掘ってないでしょ」
「僕は楽しかったけどね」
「私は最悪だ」
年端もいかない子供――それも男にいいようにされるなんて、恥だ。
相手は余裕のないときに限って、「僕は女のほうでしょーか、男のほうでしょーか?」なんてゲームを仕掛けてくるし。正直に言うが間違えた。というかわかるはずがない。
「えー、でも」「気持ちよかったでしょ?」
「そういう問題じゃない。
どうしてそんな紛らわしい格好をしているんだ?」
私は床に投げ捨てられたパニエに目をやった。
「女役がしたかったのか?……騎士団では珍しくないから、それならできないこともないが」
結局、男というのは突っ込むところさえあればできる生き物なのだ。私も一度せまられたことがあるが、できなくもないが、したくもない行為だった。
「まさか、有り得ない!僕はネコなんて絶対しないから」
「女装なんかじゃないよ。ただ同じ格好をしてるだけ」
「同じ格好か……」
つまり逆もあり得るというわけだ。
「でも、可愛かったでしょ?」
「男の格好するより、女の格好のほうが、僕らには似合うかなって自負してるんだけど」
問いかけを無視して、私はベッドから降りた。シーツが床へ滑り落ちて、少女と少年の身体を晒す。
やることはやったが気恥ずかしく、目をそらそうとして――“それ”が目に入った。
そういえば、最中も触れた指先が、冷たいと思ったことがあった。
「あ、これ?」
少年――上半身をさらしているから性別がわかる――が私の目線に気づいて微笑んだ。
白い肌に不似合いな、淡い青色の鱗。少年のほうは右の二の腕に、少女のほうは左の二の腕にそれを持つ。
「混じり物、なのか?」
そう考えれば、こんなところで男に抱かれて(抱いて)いるのもわかる。
それしか生きるすべがなかったのだろう。
「やはり金を払おうか?」
「何それ。別にいらないって言ってるじゃん」
「ねえ混じり物って何なの?」
「そうか、君たちのところでは別の名で呼ばれていたのか……つまりその、魔物の血が混じっているんだろう?これまで大変だったな」
2人は何を思ったのか、真顔で顔を見合わせた。仲良くつながれた手が、逆に痛々しくみえる。
混じり物。
魔物の血が入った人間。耳は尾、鱗など、動物の一部を持つ。穢れた血や魔王の眷属とも呼ばれたりする。要するに、「人でない悪の生き物」だと認識されているのだ。
では実際どうかというと、そんなことは全くない。
混じり物に生まれたからといって、その心は人間である。いわれもない理由で差別を受け、傷つき、必死の思いで生きていく。この国では奴隷は禁止されているが、他国だと当然のように混じり物を奴隷としているところもある。
彼女たちは、どれだけの苦労を背負ってきたのだろう。
いま初めて、この差別をなくしておかなかったことを後悔した。
永遠にも思える数秒がすぎ、慎重に少年が口を開いた。
「あー……うん、その。大丈夫だよ」
「うん、ぜんぜん平気。えーっと、優しい人がいて、おーじさまが考えてるようなことはなかったから」
「そうか?」
「うん」「そうそう」
にっこり笑う。
「それならいいが……」
本当にいいのだろうが。
私は彼女たちを見殺しにしているのではないだろうか。
そこまで考えて、私は首を振った。彼女たちは細いが、しっかり筋肉がついている細さだ。決して飢えているようには見えない。
何より、彼女たちは「大丈夫」と言った。
救いを拒否する者を救う余裕があるなら、真に救いを求める者を救うべきだ。すべてを助けることなどできないのだから。
余裕がでてくると、やはりこの双子は暗殺者にしか見えなくなる。混じり物がまともな職につけるとは思えない。もしかすると、冒険者かもしれない。
やはり、彼女らのことは置いておいても、このような差別がまかり通っている世は正しいとは思えない。
「義姉上に相談してみるかな…あの人なら兄上も上手く扱いそうだ」
私の呟きに、互いに助け合いながら服を着た双子が反応した。
「え?本当に王子様なの?」
「じゃあなんでそんな格好してるの?1人で危なくない?」
「私は騎士だからな」
本当に暗殺者ならば、それぐらい知っているだろうし――いや、民衆ならば、第五王子アレクレイと言えば、わかるんじゃないか?王族というのはいい意味でも悪い意味でも民の注目の的だ。私のことぐらい知っているだろう。
「王子様が騎士してるの?」
「なんか夢が壊れるなぁ」
双子はあくまでも双子だった。
「私のことは知らないのか?第五王子の――」
「「それ以上は言っちゃ駄目だよ」」
にっこり笑って、彼女たちは私の台詞をさえぎった。
自分より一回りも年下で、丸腰の彼女たちだというのに――動けない。反論さえできない、気迫がある。
「いい?これは一夜限りの邂逅なんだよ。名前なんか聞かないほうがいいわけ」
「第五王子なんて言われたらわかっちゃうけどねぇ。でも、そのほうが刹那的で楽しいでしょ?」
「僕らはあとあと、こう思うわけ」
「もしかしたらあの王子様はまるっきりの嘘つきで、ただの酔っ払いだったのかもしれない」
「そのほうが、楽しい?」
「「うん」」
即答。まるでいっぱしの娼婦のようだ。相手に干渉しない――そして干渉させない。
「つまり、私が君たちの鱗について言ったのはまずかった?」
「そんなことないよ。だって僕らも嘘を言ったかもしれないし。わからないでしょ?」
「王子様も明日か明後日か、考えるに違いないよ。あの双子は嘘だったのかなって」
絶対ね、と双子は声を合わせて笑った。
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