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砦の日々  作者: 花屋
≪界渡編≫
38/68

33.はい、嘘ですよ?


Side:アレクレイ


「……食われた」


 最悪だ。


 呆けている間に押し倒されて、暴れようにも、無駄な抵抗とばかりに抑え込まれる。

 今さらながら気づいたが、この私を相手にさえさせないとは、やっぱり暗殺者なんじゃないか?


「失礼な。まだ掘ってないでしょ」

「僕は楽しかったけどね」


「私は最悪だ」


 年端もいかない子供――それも男にいいようにされるなんて、恥だ。

 相手は余裕のないときに限って、「僕は女のほうでしょーか、男のほうでしょーか?」なんてゲームを仕掛けてくるし。正直に言うが間違えた。というかわかるはずがない。


「えー、でも」「気持ちよかったでしょ?」


「そういう問題じゃない。

 どうしてそんな紛らわしい格好をしているんだ?」


 私は床に投げ捨てられたパニエに目をやった。


「女役がしたかったのか?……騎士団では珍しくないから、それならできないこともないが」


 結局、男というのは突っ込むところさえあればできる生き物なのだ。私も一度せまられたことがあるが、できなくもないが、したくもない行為だった。


「まさか、有り得ない!僕はネコなんて絶対しないから」

「女装なんかじゃないよ。ただ同じ(、、)格好をしてるだけ」


「同じ格好か……」


 つまり逆もあり得るというわけだ。


「でも、可愛かったでしょ?」

「男の格好するより、女の格好のほうが、僕らには似合うかなって自負してるんだけど」


 問いかけを無視して、私はベッドから降りた。シーツが床へ滑り落ちて、少女と少年の身体を晒す。

 やることはやったが気恥ずかしく、目をそらそうとして――“それ”が目に入った。

 そういえば、最中も触れた指先が、冷たいと思ったことがあった。


「あ、これ?」


 少年――上半身をさらしているから性別がわかる――が私の目線に気づいて微笑んだ。


 白い肌に不似合いな、淡い青色の鱗。少年のほうは右の二の腕に、少女のほうは左の二の腕にそれを持つ。


「混じり物、なのか?」


 そう考えれば、こんなところで男に抱かれて(抱いて)いるのもわかる。

 それしか生きるすべがなかったのだろう。


「やはり金を払おうか?」


「何それ。別にいらないって言ってるじゃん」

「ねえ混じり物って何なの?」


「そうか、君たちのところでは別の名で呼ばれていたのか……つまりその、魔物の血が混じっているんだろう?これまで大変だったな」


 2人は何を思ったのか、真顔で顔を見合わせた。仲良くつながれた手が、逆に痛々しくみえる。


 混じり物。

 魔物の血が入った人間。耳は尾、鱗など、動物の一部を持つ。穢れた血や魔王の眷属とも呼ばれたりする。要するに、「人でない悪の生き物」だと認識されているのだ。

 では実際どうかというと、そんなことは全くない。

 混じり物に生まれたからといって、その心は人間である。いわれもない理由で差別を受け、傷つき、必死の思いで生きていく。この国では奴隷は禁止されているが、他国だと当然のように混じり物を奴隷としているところもある。


 彼女たちは、どれだけの苦労を背負ってきたのだろう。

 いま初めて、この差別をなくしておかなかったことを後悔した。


 永遠にも思える数秒がすぎ、慎重に少年が口を開いた。


「あー……うん、その。大丈夫だよ」

「うん、ぜんぜん平気。えーっと、優しい人がいて、おーじさまが考えてるようなことはなかったから」


「そうか?」


「うん」「そうそう」


 にっこり笑う。


「それならいいが……」


 本当にいいのだろうが。


 私は彼女たちを見殺しにしているのではないだろうか。


 そこまで考えて、私は首を振った。彼女たちは細いが、しっかり筋肉がついている細さだ。決して飢えているようには見えない。

 何より、彼女たちは「大丈夫」と言った。

 救いを拒否する者を救う余裕があるなら、真に救いを求める者を救うべきだ。すべてを助けることなどできないのだから。



 余裕がでてくると、やはりこの双子は暗殺者にしか見えなくなる。混じり物がまともな職につけるとは思えない。もしかすると、冒険者かもしれない。


 やはり、彼女らのことは置いておいても、このような差別がまかり通っている世は正しいとは思えない。 


義姉上あねうえに相談してみるかな…あの人なら兄上も上手く扱いそうだ」


 私の呟きに、互いに助け合いながら服を着た双子が反応した。


「え?本当に王子様なの?」

「じゃあなんでそんな格好してるの?1人で危なくない?」


「私は騎士だからな」


 本当に暗殺者ならば、それぐらい知っているだろうし――いや、民衆ならば、第五王子アレクレイと言えば、わかるんじゃないか?王族というのはいい意味でも悪い意味でも民の注目の的だ。私のことぐらい知っているだろう。


「王子様が騎士してるの?」

「なんか夢が壊れるなぁ」


 双子はあくまでも双子だった。


「私のことは知らないのか?第五王子の――」


「「それ以上は言っちゃ駄目だよ」」


 にっこり笑って、彼女たちは私の台詞をさえぎった。


 自分より一回りも年下で、丸腰の彼女たちだというのに――動けない。反論さえできない、気迫がある。


「いい?これは一夜限りの邂逅なんだよ。名前なんか聞かないほうがいいわけ」

「第五王子なんて言われたらわかっちゃうけどねぇ。でも、そのほうが刹那的で楽しいでしょ?」


「僕らはあとあと、こう思うわけ」

「もしかしたらあの王子様はまるっきりの嘘つきで、ただの酔っ払いだったのかもしれない」


「そのほうが、楽しい?」


「「うん」」


 即答。まるでいっぱしの娼婦のようだ。相手に干渉しない――そして干渉させない。


「つまり、私が君たちの鱗について言ったのはまずかった?」


「そんなことないよ。だって僕らも嘘を言ったかもしれないし。わからないでしょ?」

「王子様も明日か明後日か、考えるに違いないよ。あの双子は嘘だったのかなって」


 絶対ね、と双子は声を合わせて笑った。


読んでくださってありがとうございます。

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