31.悪夢のような戦場
Side:アレクレイ
ヴィストンの神聖騎士団の一個師団が壊滅した。
1人として帰還した者はいなかった。
それを聞いた奴は誰だって、作り話だと思うだろう。
あそこは宗教にうつつを抜かす馬鹿な国だとは思うが、騎士団の実力だけは認めざるをえない。その上、魔物――そして魔王に絶大な威力を発揮する聖武器を持った、聖騎士がいたのだ。聖武器はヴィストンの中でも高い実力を持つ数人にしか与えられていない。すなわち、それだけの実力者さえもが殺されたというわけだ。
ヴィストンの教皇は最初、単なる噂話につられた報告だと、まともに取り合わなかったらしい。そしてそれが真実だとわかると、今度は他の国にやられたのだと訴えてきた。
そんな馬鹿なことが起きるはずがない――とはいわない。
世界はいま戦時中、それも魔王に対し1回も勝ったことがないという最悪の状況だというのに、国々は互いの争いをやめようとはしない。
自国の利益を大きくし、他国の利益を少なくする。そんな単純な考えに、仲間を魔王に殺された恨み、次々と味方が死んでいく恐怖、自分は生き残りたいという本能、いろいろな感情が重なって、このろくでもない戦争はいまだに終わらない。
いや、そもそもこれは戦争なのか?
勝手に攻めていって、魔王に全員殺されて、それでも懲りずにまた攻めていく、というこの繰り返しが?
「アレク、お前、戦場に行ってきたんだろ?どうだった?」
親友が問いかけると、馴染みの友達は、みな期待に満ちた顔をこちらに向ける。
騎士団なんて入ったものの、魔王との戦争があるから、他の国に攻めることなどできない。せいぜいが、自国内で起きる争いを沈めるぐらいだ。だから、騎士になった連中は、あの戦場に行くことを目標としている。
貴族だったら死にたくないし、戦場になんて行きたくないって奴もいるが、ここには戦いが好きで己の力に誇りを持つ奴ばかりだ。
戦場にまわされるとなると、大体は左遷だ。どうせ死ぬだろう、と上の人間も思っている。
残念ながら私は側室の子で五男坊だが、王子で、今回はただ視察に行ってきただけだ。戦うことはなかった。
こういうと馬鹿にされるに違いないが、私は戦わずにすんで、ほっとしている。
「そうだな……正直言うと、退屈だった」
「退屈?あっちには花屋もないのか?」
「あるが――本当に退屈だ。どうせ死ぬのだからと、まともに訓練している奴は少ない。
それに、さあ攻めていくぞと思ったらな?実際に戦うところなど見えないし、1日がすぎて、魔法での連絡がないな、終わったのか、おいスキル持ち《千里眼》で確認しろ、と、あっけなく全滅が決定するんだぞ?」
ひどい悪夢をみているような戦場だった。
最期の悲鳴さえ聞くことができず、彼らが死んだ事を受け入れるしかない。
「それも、ヴィストンの神聖騎士団が、だ。スピッドという聖騎士も死んだ」
「スピッドさんが!?」
悲鳴に近い声をあげて、友人が酒の入ったコップ倒した。
「知り合いか?」
「手合わせしてもらったことがある――いい人だった。俺の知ってる中じゃ1番強い」
全員の動きが止まった。
うるさい酒場の中で、私たちのテーブルだけ静まり返っている。
私たちは皆、手柄と戦いを求めていた。だが、それほど強い聖騎士さえもが死ぬ戦場で、私たちは生きて帰れるのだろうか?
「あー、やめだやめ!んなしんみりした空気で酒飲めるかっての!」
「おい、どこに行く?」
隣に座る親友が立ち上がる。
「だから酒なんか飲むよりいいトコだよ」
女好きの彼らしい発想だ。
だが、それが1番いいかもしれない。城に戻ったら、女なんて思うように抱けない。王子だからといって、五男坊の騎士を相手にするのは、相手にするのは下っ端のメイドぐらいだ。そして妊娠のことで騒ぎ立てられるおそれもある。
戦場ではストレスがたまった。それを思い切り発散したいと思う男の本能は、否定できない。
「……行くか」
「アレクが花町に行くなんて珍しいな!」
「そうか?」
「珍しいって!おい、もうみんなで乗り込もうぜ!!」
「いいなー!行くかっ」
そうして、私たちは蝶の町へと繰り出して、
「おにーさん、花を買いに行くの?」
「それなら、僕らの相手しない?おにーさん、顔もいいしね~」
私はその双子に出会った。
戦闘の一部始終を《千里眼》で確認しないのは、スキルが人間にとっては異常に魔力を食うからです。
魔力の多い魔族――アメやカエデ・アケビは余裕ですが。
詳しいことは2話先で説明される予定です。
今日シンのユニークスキルの名称を変更しました。
詳しくは24話を参照してください。




