25.砦の喧騒(下)
Side:セド
『《零度の剣》!』
廊下の先から声が響いた。宙から数本の氷柱が飛び出す。無詠唱だから威力は弱いし、数も少ないが、当たれば脅威になる。それらはそのまま、俺が寸前までいた場所を貫いた。
危ない、とは思わない。《零度の剣》は発動地点が敵がいる場所じゃねえから、敵の動きを予測して発動しなきゃならない。
さっきまでの戦闘では、俺は本気を出していなかった。だからスピードも全く違う。つまり、今の動きはナグサの予測外なはずだ。氷柱が命中するはずがない。
「ちょ、速いよっ!」
「当たり前だ!」
こっちは本気を出したんだからな!
魔法は対象の地点を目視していないと難しい。それゆえに廊下の先に立っているナグサは、俺の脚力によって、すでに目の前にまでせまっていた。
右手の剣を横一文字に振り切る。
スピードと獣人の腕力が重なって、ナグサは手に持った剣でガードしたものの、そのまま後ろへ吹き飛ばされた。
半ば壁にうまるようにして止まる。ガラガラと壁の土が崩れた。
「いったああ!!」
それで痛いですむってある意味すげえ。
「意外と力が強いね、セド」
俺の一撃を防いだナグサの短剣はひびが入り、構えれば途中で折れた。使い物にならない。
それに焦った様子もなく、ナグサは腰から短剣をまた引き抜いた。どうやら俺が砕いたほうは本命じゃないらしい。ま、あんな簡単に折れるのが得物だったら困るよな。
「セド、ドキドキする?」
「すっげえするに決まってンだろ!」
「だよね!たのしいなぁー!!」
肩から血が垂れている。傷つけられたことで戦闘欲求が高まったらしい。キャハハハッと壊れたみたいに笑って、逆手に短剣を構えた。
『《飛び散る炎の粉》!』
って、見てる場合じゃねえだろ!
上空に浮かぶ大きな炎の塊。そこから小さなボールのような炎球が飛び出してくる。そのつど炎は小さくはずだが、消える様子はまったくない。
あー、無詠唱のくせにやっかいな魔法使いやがって!
「――チッ!」
左に跳んで、床を蹴る。そのまま体を傾けて、壁をつたう。あくまでも魔法は発動者の判断によって発動する。ナグサが俺の動きに反応する前に、俺はナグサの後ろに跳んでいた。
「背中、ガラ空きだぜッ!」
「セドもねッ!」
俺の剣はナグサの左腕を切り裂き、
放たれた炎球は壁をはねて俺の背中へと直撃した。
「いってえええ!!」
前の左腕の時より痛い。何でだ?
「セドって痛みに弱いよね~。火傷って初めて?」
「経験したくなかったけどな!!」
剣をふるえば、キィンと短剣にはじかれる。――っと、何も考えずに攻撃したけど、ここだと《飛び散る炎の粉》の本体があるからマズイな。
「悪いが場所変えるぜ」
「え、ちょっと!」
困ったことに俺が移動するとナグサは立ち止まる。近接戦が得意な俺と違って、ナグサには魔法っつうアドバンテージがあるからな。距離をとったほうが楽ってわけだ。
じゃあ、戦闘の場所を変えるにはどうすればいい?
ナグサを移動させればいい。
剣をふるう。ナグサが避けたすきに、その足に蹴りを叩き込んだ。
文字通り吹っ飛ばされるナグサ。俺は足でその後を追う。
残念ながら地面を蹴る俺よりも、宙を飛ぶナグサのほうが速かった。
立ち止まった先では、先ほどと変わりない様子でナグサが立っている。受け身はとるよな、そりゃ。仕方ねえ。
「ちょっと、あたしもさすがに怒るよー?」
「ハッ、だから何だよ」
剣を構えて、切りかかる。近接だと、スピードはナグサの短剣のほうが速いが、力は俺の剣のほうが強い。スピードなんか動体視力と筋力でおぎなえばいいし、俺のほうがリーチが広いっていう利点がある。
『其は土 其は火
硬い殻、押し込められるは爆発すべき力
弾丸となりて駆け、爆弾となりて壊せ
押し込められた――
「言わせねえよッ!!」
呪文を唱える余裕があるなんて信じられねえ。
それが完成する前に、剣を押し込む。焦って口をつぐみ、たたらを踏むナグサに、さらに一撃を繰り出した。
だが実際に焦っていたのは俺だった。
――キィン!
力を流すようにして、はじかれた剣。その向こうで、きらきらと輝く瞳と目が合った。
――土塊!!』
魔法の完成。
意外にも現れたのは親指の爪ほどの球だった。
危ないと思うのは、高速で俺に向かってきていることか。でも当たったとしても、それほどダメージはない。おそらく、「あ、痛ぇ」ぐらいだ。
いや待て。
「其は火」?どうして土の塊を生み出すだけで、火の属性が必要になる?
ゾク――
寒気がして距離をとろうとしたが、みくびっていたがために、既に間近に迫っている。
せめて避けようと、体を反転させたとき、
「弾けちゃえッ!」
楽しそうなナグサの声がして、親指大の球が、
爆発した。
「うわぁぁあああッ!?」
爆発自体はそれほど大きいものじゃない。
だが完全に不意をつかれた俺は、その向こうから飛来する短剣を防御することすらできなかった。
グサリ。
血が抜けていく。あ、これちょっとヤバイとこ貫いてんじゃねえの?
「たっのしー!ほらね、あたしの勝ちー!!」
それに反論する暇すらなく、俺の意識は闇に沈んだ。
なぜか戦闘シーンが長くなるという謎…
セドが負けてばっかりですが、ほら、新人ですから
閑話で書きますが、もともとは剣すら握ったことのない小僧です




