20.5.セドの左腕
割り込みするかどうか迷いましたが、
この話は閑話に近いものとして読んでください
Side:セド
目を開けば、目の前には頭を失って混乱している軍隊。
30人ぐらいか…?量は少ない。問題は質だな。
「ナグサ、いっきまーす!」
隣でナグサは大声をあげる。
「うるせえっての!てめえは黙って剣を振ってろ!」
そういや、ナグサの力量はこうやって戦いで見たけど、実際に手合わせしたことはねえな。これが終わったら戦うか。
やっべえ、テンション上がる。なんだよ、けっこう生きるのって楽しいじゃねえか。
――ガキン!
なんて考えてたら敵の剣と俺の剣が交わる。意外と強いな。抵抗できるレベルってのはいい。俺のスピードについてこれず、剣を持ち上げることすらできないのよりは、いい。
力押しで剣を弾き飛ばして、胴をなぐ。チッ、これ妙な魔法がかかってやがる。硬化か?邪魔なもん、つくるなっての。こっちは身体1つで来てんだからさ。
いったん引くと、剣を失った男と俺の間に、他の奴が割り込んでくる。
何だよ、今度はお前が相手?いいな、それも。ローテーションってヤツ?
振り下ろされた剣をよける。耳元で風切り音がした。命の危機に、どうしようもなく心が躍る。ついでに、コイツを殺したいとも思う。
お前さ、俺に何してくれちゃってんの?
足に力をこめて、跳躍。
「――な!?」
軽々と男の上を飛び越える。同時に回転。防御なんてしようがない、その無防備な首に、剣を叩き込んだ。
くるりと猫のように着地。まあ、狼なんだけどさ。
そのまま、邪魔されて殺せなかった男も、頭と身体におさらばしてもらう。
噴き出す血。呆然と見ている、周りの男たち。
濃密な臭いが、いま俺は戦場にいるんだと自覚させる。
最高だ。
「きさまぁぁぁああああああ!!!!!!!」
悲鳴にも聞こえる叫び声をあげて、他の奴が切りかかってきた。
……ん?何だコイツ。女かよ。さっきのが恋人だったとか?
でもさっきの奴らより強いじゃねえか。
俺だって、魔物の血は開花してるし、獣人だ。
とはいっても、戦闘訓練を受けてるわけじゃない。ほとんど本能で力任せに戦っている。
つまり、かなり強い奴だと、俺だって危ないな、と感じることはあるわけだ。
……と、いま知った。
しかたねえだろ!今まで戦ったことだって少ねえんだからさ。
速い。
力押しの俺と違うそのスピードに、体がついていかない。この女、きっと理性じゃなく感情に任せて動いてやがる。そうじゃねえと、獣人のスピードを上回るなんてできるはずねえだろ。
髪が数本とばされる。頬をつたう血。やっべえ、殺られるかも。
すげえドキドキする。これって、つまり、こういう感情だろ?
楽しい。
「動くなああっ!!」
力強い声。一瞬だけ俺の体がかたまる。
動くな?ふざけんてんじゃねえぞ、っての。
構わず右手を動かす。お互いの最高の力がこめられた剣が交錯し――女の胸から血が噴き出した。
ほら見ろ。俺の勝ち。
勝利に酔い、隙ができたその刹那、
背後からの殺気。
「――チッ」
無理矢理、体を反転させる。相手の剣は、無防備になっていた左半身に振り下ろされた。
「セドッ!!」
鮮血。宙を飛ぶ俺の左腕。
遠くから悲鳴のような声が聞こえる。
「よし!」
「やった!」
血がぬけて、頭がだんだんと冴えてくる。
いってえ。
なのに俺の頭に浮かぶのは、恐怖は怒りじゃなくて、猛烈な歓喜。
「ぁぁぁぁああああああっっっ!!!」
戦いたい。もっと強い敵と。俺を殺すくらいの。誰と?いるじゃねえか、前に。俺の腕をとばした奴がさ。コイツを殺したら、もっと楽しいんだろうな。
すげえ奇跡に乾杯。
満面の笑み――男たちが後ずさる。
「おい……」
「コイツ、やべえって……」
おいおい、これぐらいの狂気に怯えてたら話にならねえだろ?
もっと俺を楽しませろよ。
片腕で剣を持ち上げて、地面を蹴った。
人生ってくだらねえと思ってたけど、生きるのってけっこう楽しいじゃねえか。
「セド、ちゃんと最初から本気で戦ってよ~……」
「「セド、大丈夫~?」」
戦闘が終わると、双子が《瞬間移動》してきた。話をきけば、アメが魔法で頼んできたらしい。
「腕をとばされるってさ……」
「スキル使えば直るけど、ちゃんと動くかわからないよ?」
「いや、動かす」
「出たよー、脳筋発言」
「まあ、セドならたぶん動くと思うけどね」
「「《再生》」」
双子がスキルを使えば、みるみるうちに、とばされた左腕が復元されていく。
いろいろ制限が多いスキルだが、肉体を戻すなんて、まさに神業だ。
過程はかなりグロイけどな。
「すごーい。あたしこれ、初めてみたんだよね~。《治癒》なら何度もみたけど」
そりゃ当然だ。《再生》はかなりユニークスキルに近いノーマルスキルなんだからさ。
スキルが使える人間なんて、すごく限られている。魔力だって、かなり食うわけだし。
それをこんなに頻繁にみられるなんて、やっぱりここに来てよかったな。
「んー……なんか違和感があるんだが、この腕」
「そりゃあ、仕方ないよ。完璧に戻るなんて思わないでね」
「日常生活に支障はないと思うけど。とりあえず毎日手合わせして、慣らすんだよ?」
「了解」
双子が真面目な顔をしてるのは違和感があって怖かったので、頷いておいた。




