20.戦争の真意
Side:アメ
甘いショートケーキを口に運ぶ。いまはイチゴの季節。その店も力を入れた新作ショートケーキや苺をつかったデザートを出している。
シンのはラズベリーをつかったチョコレートケーキ。食べたい。じっと見つめる――シンが気づいて1口、口に運んでくれる。
意外と苦くない。
シンはケーキを初めとした甘い物が好き。セドは信じられないと言う。彼は甘い物が苦手――苦い物、辛い物を好む。
回想――確かにあのときのステーキはおいしかった。
納得。今度から彼に肉を焼いてもらおう。
「どうだ?おいしいか?」
シンの問いかけ。頷く。甘くてほろ苦い。シン好みの味。
「そうか。よかった」
シンは機嫌がいい。否。機嫌がよく見える。
内心は戦闘本能がたぎっている。私と同じ、変わらない。シンの姿は、平静にみせようとしているだけ。
大丈夫。まだ余裕がある。
《千里眼》で人間界をのぞく。
魔界とそう変わりのない光景。
笑いあう人々。綺麗な町並み。家族の死を嘆く。子の誕生を喜ぶ。魔物に恐れを抱く。戦う。死ぬ。生きる。
その光景を、私とナグサだけが知っている。
小さいころ――《千里眼》を初めて使ったとき。
目の前の光景と遠くの光景の違いがわからなくなる。
違和感。何故その町に獣人がいないのか。後々、それが人間界の光景だと知る。お兄様に言う――そんなことも知らないのかと鼻で笑われる。
愚かな人間共が向かってくるから戦っているだけで、人間と魔族の生活にそう変わりがないことさえ知らないのか。
それは王族だけが知る真相。戦場で死んだ少女たちのことなど、彼には関係がない。
ミミの亡骸を抱いて、それがどれほど残酷なことかを知った。
「敵はいる?」
シンの質問――《千里眼》で見る場所を変更。砦から数km離れた人間の軍が駐留している場所。
各国の軍隊。互いに睨み合いをきかせている――否。1つの中隊が向かってきている。
数は30ほど。精鋭。
――!
「聖騎士がいる」
聖騎士。正しくは魔物浄化の魔法が付与された剣を帯びた騎士。
これで切られると、私たちは傷口をふさぐことができなくなる。スキルを使っても不可能。
ミミもこれで死んだ。
「聖騎士!?そうか……。アメ、頼めるか?」
了解。頷く。
ロッド、本その他は必要ない。要るのはこの体ひとつ。
その体をシンに預ける。私が世界で1番信頼している人。
そして旅立つ。
私は聖騎士の前に立っている。
魔法は本来、自身を中心にしてしか発動できない。ただ、絶対ではない。無意識下で自身が制限しているだけ。
《千里眼》で遠くの地に視点を置き、擬似的にその場所にいるように錯覚させる。これによって、遠くで魔法を発動させることができる。
問題点は、自分の体から意識がぬけるため、無防備になること。
だが体はシンが守ってくれている。
『其は風。
疾風となりて駆けて、すべてを追い抜く。
渦を巻き、小さな果実となりて、すべてを貫く。
《風切る弾丸》』
目立つ火系統は使わない。
この詠唱は彼らには聞こえない。はるか遠くで音となっているから。
風切る弾丸。風の渦でつくられた小さな粒が、刹那、聖騎士の心臓を貫いた。
男は馬の上から落ちる。
「スピッド様!?」
「どうされたのですか!?スピッド様!返事を!」
あっけないほど早い幕引き。
聖騎士さえいなければ問題はない。
意識を体に戻す。
目を開ければ、シンの顔がアップで映っていた。
……格好いい。
頬が火照る。
「おいおい、しっかりしろよ。いきなり意識とばすから、体を支えきれなくなって、倒れそうになったんだぞ?」
「……ごめん」
狙ってた。
とは言わない。
また人を殺した。
お兄様の判断に文句はない。
お兄様は見下している人間と対等にならなくていい。
私は好きなだけ戦える。
利害の一致とも言う。
ミミは?
実の兄よりも慕っていた少女は、仕方ないというように苦笑するだろう。
久しぶりに彼女のコアに触れたいと思った。
体さえ無事なら、アメは抵抗させずに、どれだけでも殺せます
なにげにアメが無敵ですね~
銃を持たせて狙撃させたかったんですが、
魔道具にするにしても、合理的じゃないなって思ったので仕方なく没に…




