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砦の日々  作者: 花屋
≪日常編≫
23/68

19.狼(セド)と香辛料


Side:セド


 カエデとアケビが朝からどこかに行ってきたと思ったら、肉の塊を持って帰ってきた。

 しかもハイレッドベア(高級食材)の。


「これ、どこでとってきたんだよ!?」


「「マリマスで~」」


 シンにきいたところ、カエデとアケビがよく遊びに行く町らしい。かなり遠いよな、と思ったら《瞬間移動テレポート》を使うらしい。ズルイだろ、それ!


「正当な仕事の報酬だよ~」

「でもどうやって食べようかなあ?」


「仕方ないし、どこかの定食屋に持ち込んで、調理してもらうか」


 ん?

 そういえば、いっつもどこかの定食屋で食事してるよな。そりゃ、ここの連中に料理の能はないって思ってたけどさ、肉を焼くことすらできねえのか?


「おい、なんでここで料理しないんだ?肉なら焼くだけだろ?」


「確かに、焼くだけならできるけどさー……」


 できるんじゃねえかよ。


「それじゃあ味ついてなくて全然おいしくないでしょ?」


「は?」


 どうやらコイツらの「肉を焼く」と俺の「肉を焼く」はかなり差があるらしい。


 渋い顔をするシン、うんうんと頷くナグサ、無表情で肉をみつめるアメをみて、


「お前らちょっと待て」


 とりあえずコイツらの知識には香辛料すらないんだと理解した。





「なるほどねっ!そっか、それでお店の肉は少しからいんだ!」


 初めて知ったという顔で頷くナグサに、本気で頭痛がしてきた。真面目な顔して「そうだったのか……」なんて言ってるシンが恥ずかしい。つうか、ナグサとかアメとか。お前ら女だろ。家で家事とかしてこなかったのかよ。


 そういえば、ふてくされた様子でシンが答えた。


「仕方ないだろう。お前は年がいっているほうだ。10と少しの子供が料理なんかできるわけない」


「そうか?俺は親父の手伝いとか、よくさせられたぜ?」


「え?何でお母さんじゃなくてお父さんなの?」


「そりゃ、親父が料理人だったから……」


 ぴたりと全員が動きを止めた。


 珍しくシンがにこやかな笑顔をみせる。


 なんかすげえ嫌な予感がするんだけど。


「おい、ちょっと待てよシン……」


「セド。これは、ここのリーダーとしての命令だ」

「今からお前をこの砦の料理長に任命する。拒否権はあるが行使するか?」


「ふざけんなっ!!」





「とか言って作っちゃうのがセドだよねー……」


「料理が嫌いじゃねえからな。部下もいねえのに料理長とか言ったのがむかついただけで」



 調理場に入って俺は納得した。


 まず調理器具がフライパンとポットしかない。あとは皿が数枚、コップだけが異常にある。

 それから、そもそも食材がない。あるのは水とこれまた異常な量の酒。コップの件がこの酒に結びついた。確かに3日に1回は酒盛りしてるなあ、とは思ったけどさ。

 存在すら知らないのだから覚悟はしていたが、香辛料の類もない。


 町に出たが、今日は市場はやっていなかった。仕方がないから店に行ってみたが、香辛料は定食屋におろしているぐらいで、店頭用は置いていないらしい。チッ。親父に料理を習ったのが裏目に出たな。

 家庭では野菜と一緒に煮込んだり焼いたりすることで味をつけるらしい。代わりに香草をもらっておいた。



 香草を肉にまぶして焼く。それだけの行為なのに、ナグサは尊敬の目で見てきた。


 肉は厚切り。ミディアムレアで。

 もう1つのフライパンでは、オニオンを主柱としたソースをつくる。それほど手はこんでいないが、店で出すんじゃあるまいし、こんな感じでいいだろ。



「はいよ。どうだ?」


 おそるおそると言った感じでナグサが一口食べた。残りの奴らはそれを横目で見ている。

 毒見かよ。料理長と言ったくせに、俺の腕は信用してねえのか!?


「……セド」


「何だよ」


 真剣な目でナグサは俺をみる。

 ちょっと待て。俺、失敗したか?香草もそれほどキツクはねえはずだし。

 じゃあ、中がナマだった?それはマズイか?衛生上も問題があるし……。



「あたし、初めてセドのこと尊敬した」



「馬鹿にしてんのかゴラァ!!」


 ナグサの言葉に安心したかのように、4人がようやくナイフとフォークを手にした。



セド、意外なところで能力を発揮


ナグサの「尊敬する」は本気ですが……

おそらくその8割は高級食材によるものですね


ついでに、シンが「拒否権はある」と言ったのはトラウマのせいです


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