18.高級食材と砦の噂
「「なあんだ」」
現れたのはハイレッドベア――全身に炎をまとった巨大な熊。その特性から直接攻撃がしにくいが、魔法耐性も強いという、どうやって倒せばいいのかわからないシロモノ。
だけど、あらゆるスキルを自由に使える僕らからしたら、グレートフィアスのほうが倒しにくい。
それに、
「「おいしそう……」」
ベア種というのは魔物の中でも肉が上手いと言われている。さらにその格があがっていくほど、美味しくなるらしいのだ。
つまり、目の前にいるのはまぎれもなくご馳走!
はいはい、テンションMAXだよー!?
「「《炎耐性》ぁ!!!」」
叫べばほんの少し体が温かくなる。このスキルは本来は自身の体だけだが、多少融通がきくので、手にもつ剣まで影響を広げる。
そのまま、何の躊躇いもなく、襲いかかってきたハイレッドベアに剣を振り下ろした。
ザシュッ!!
抵抗もなく赤い熊は地面に倒れる。それでも戦おうと体を起こしてきたが、カエデの剣がとどめをさした。
「二足歩行なのがいけないよね」
「狙いやすすぎて困っちゃうよ」
「大丈夫なの、2人とも…?」
「うん、ぜんぜん平気!」
「リアはいる?お肉」
「あー……そうね、せっかくのハイレッドベアだもの、食べなきゃね」
少しつらそうな顔をしていて不安だったけど、リアのための肉を1/3だけ分けた。
「家で仲間たちが待ってるから」
「これだけもらっていいかな?」
「ええ、もちろん。だって実際に倒したの、あなたたちでしょ。
でも安心したわ。あなたたちにもちゃんと仲間っていうのが存在するのね」
僕らは顔を見合わせた。
仲間……うん、砦のみんなは確かに仲間だ。
じゃあ、リアは?仲間……?でもない、よね。時々共闘するだけ。そういうのって多分仲間じゃないよね。
ていか、リアが僕らと仲間だったら、さすがに泣くよ……。
「「うん、ありがと」」
「いえいえ、先輩の余計なお世話だと思っておきなさい」
リアが微笑む。本当に美人さん。惚れちゃいそう。
「へいへい、討伐完了……っと、ベア種倒したのか、あんたたち!?このコアだと、かなりの上位種だろ!?」
受付の兄さんは驚愕の声をあげた。
受付には引退した冒険者とアルバイトがつく。この兄さんはアルバイトみたいだね。
コアとは魔物が心臓のかわりにもつ石だ。宝石のような価値はないけど、個々で色や純度が違うので、討伐完了の印となっている。
上位の魔物ほどコアは透明になる。ベア種の上位であるハイレッドベアはルビーのように赤く透き通ったコアだ。
「そうよ~なんとハイレッドベア!すごいでしょ、この子たち」
「リア、子供扱いは」
「やめてくれないかな?」
「あのさ、頼む」
真剣な顔のアルバイト。いい予感がしない。
「少しでいいから肉を分けてくれ……」
「「ヤダ」」
却下。ただでさえ量が少なくなるのに、どうして分けてあげなきゃいけないわけ?
もちろん、期待にすがる目でみられてもリアだってにっこり微笑むだけ。
まあ、ハイレッドベアが、本来冒険者とは会話ぐらいで、不干渉であるべき受付が頼みこむぐらいの高級食材ってことだ。
「そういえば、アケビとカエデって西のほうに住んでいるんだったわよね?フレアロンティに近いんじゃないの?」
さすがにフレアロンティにいるってことは伝えてないけど、大体の方向は言ってある。怪しまれるしね。
「そうだけど……」
「それがどうしたの?」
「だって、また人間界から攻めてきたらしいじゃないの」
それ、いつの話?何回もありすぎて、どれかわからないんだけど。
1番最近……っていっても1週間も前のことだし。
というか、そもそも襲撃があったなんて知らされてないんじゃないの?
「何で知ってるの?」
「でも、もう1週間ぐらい過ぎてるよ」
「あそこは普段平穏だからね。あれだけ魔力が放たれれば、あたしならわかるよ」
「へえ」
「すごいね」
「でも、西に住んでたらさ」
「襲撃なんて日常だよ」
ただの想像だけど。
「そうなの?そういえば西って人間界に近いし危ないじゃないのって、ふと思ってね……。でも砦があるから大丈夫なのかしら?」
「そうだなあ。あの砦には魔王様が自ら選らばれた精鋭がいるって話だし。噂じゃ、魔王様の血族がいるって」
受付の男も話に加わってきた。
へえ、そんな噂がねえ……。アルバイトとはいえギルドの連中が言ってるなんて、見過ごせないな。
「え、そうなの?あたしは魔王城と砦がつながっていて、攻めてきたときは魔王様が転移なさるって聞いたけど」
「「あははははっ!何それ!いろんな噂があるんだね。おもしろいな~」」
思わず言葉を重ねてしまった。受付の青年の話はいい、まだ。でも魔王様が来るって……僕らが戦ってるんだけど!
「それにさ、冒険者してるのに」
「危ないとか言ってたら話にならないよ」
「それもそうね」
「じゃあね、リア」
「また今度寝ようね~」
「あら、バイバイ。また来てね」
「え?ちょ、いま幻聴が聞こえたような……
肉の入った袋を抱えて、喧騒をあとに《瞬間移動》した。
それにしてもさ、噂にまでのぼってるなんて、ちょっとマズイんじゃない、アメ?




