17.敵は黒狼、鎧の毛皮
僕らは木のかげに隠れて、魔物の様子をうかがう。物理攻撃がきかないなんてさ、ちょっと卑怯だよね。
「じゃあ、まずあたしが魔法で先制攻撃。もしそれで倒しきれなくて、グレートフィアスがこっちに気づいたら、2人が時間をかせぐ。その間にあたしは次の魔法の準備ってことでいい?」
「「了解」」
リアは小声で詠唱を始めた。
『其は水 其は火
鋭くとがる刃となりて、いま天から落ちん
《零度の剣》』
詠唱の完成とともに、黒狼の上の十数本の氷柱が現れた。グレートフィアスは野生の本能で避けるけど、数本はその体にあたる。どうせ毛皮が硬いから大丈夫とか楽観視してるんだよね。それが狙い。
毛皮にあたって砕け散る氷柱――ただし、その直撃したところから、グレートフィアスの体は凍っていく。
最初の物理攻撃、そしてその後の凍結魔法。この二段階構想が《零度の剣》の特徴だ。
グレートフィアスは刹那動きをとめたけど、その体をふるわせれば、ほとんどの凍結は解けていた。チッ、手ごわいヤツ。
ただ、左はひきずっている。内側かどこか、凍結を解けきることができなかったに違いない。これなら少し楽になった。
「《絶対防御》」
《絶対防御》は最初は面でしか展開できない。慣れてくると、このように体の表面にあわせて展開することができるようになる。スキルっていうのは日頃どれだけ練習するかで使い勝手が変わってくるのだ。
さらに続けてスキルを使う。
「《召喚》!!」
叫べば手の中に宿る手ごたえ。何があるかわからないから、手を離すわけにはいかない。相手も1人だから、《感覚共有》の利点は意味をなさないし。
グレートフィアスが飛び掛ってくる。それを右に避けて、カエデの左手をふるう。ガキン!――ってこれ、毛皮に当たった音じゃないよね!?
黒狼がカエデの剣に噛み付こうとしたので、慌てて左手を元に戻した。こういう時に、アケビも同じ動作をしそうになって困る。
切りかかる、毛皮で防がれる、噛み付かれる、避ける。それの繰り返し。
僕らの攻撃スタイルは大勢相手に2人で翻弄するんであって、こういう力押しで勝つのは苦手なんだよなあ。セドなら好きそうだけど。ああそうだ、アイツならこの毛皮だって切りそう。
……《灼熱の監獄》!』
「「……ッ!!」」
後ろから聞こえた声に、慌てて《瞬間移動》を使った。何でこんなところで中規模魔法を使うかな……僕らだって巻き込まれるところだったじゃないか。
目の前には炎の檻にとらわれる狼。その檻はしだいにせばまっていき、やがて中の獲物は炎の線によって寸断される。
いくら硬い毛皮だって、炎の前ではどうしようもない。
「はあ、ちょっと焦ったわ……」
無事、「これはどうやっても戻れないだろ…?」という大きさまで解体された肉片ができあがった。
「そうだね」
「無事討伐できたし」
「さっさとコアを探して」
「帰ろ――ッ!?」
うながした直後、森に入ってからずっと発動し続けてきた《索敵》に魔物の反応がでた。しかもかなり強敵だ。
僕らの警戒態勢に、リアに何かが起こっていると知り、ロッドを構えた。
「何なの!?」
「魔物の反応があった……」
「しかもかなり強いよ」
じっと前方をにらむ。
グレートフィアスだった肉片のさらに向こう。森の奥から、大きな赤い獣が姿を現した。
カエデとアケビの冒険者編はもう1話だけ続きます




