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砦の日々  作者: 花屋
≪日常編≫
18/68

15.下種はどこでも同じ

今回はなぜか長いです…


Side:セド


 アレスの花はこじんまりとした宿屋だった。食事も出しているようで、小さな店だが繁盛している。


 俺はナグサに言われるままに柑橘系のジュースを頼んだ。店員には酒を勧められけど、今朝の高潮をひきずったまま酒を飲めば、町を破壊しかねねえし。


「ね、どう?可愛い?」


「可愛いんじゃねえの?」


 ナグサはさっきから、髪に結んだリボンばかりをいじっている。ナグサの髪は短いんだから、そんなにさわったらとれそうな気がするけど。

 そのリボンは、ここまで来るまでに市場で適当に選んで買ってやったヤツだ。本当に偶然目にとまったそれが、ナグサの茶髪に合いそうで、値段も手ごろだったから買っただけなんだが。それほど喜ばれたら逆に罪悪感がある。


 ……あ、はずれた。


「また取れたぁ……。ね、セド結んで~」


「自分で結べよ」


「ええ、ひどぃよぉ」


 ナグサはふてくされて机につっぷした。ナグサは手先も不器用らしい。リボンも調子に乗った露天の男が結んでやっていた。コイツに料理を作ったらおぞましい物ができそうだ。


 ただ、へこんでいるその様子は、可愛らしく見えるらしい。その姿をみて、またうぬぼれた男どもが調子づく。


 例えば、こんなふうに。


「おいおい、ひでえ彼氏だな」

「俺たちが結んでやろうか?」

「ついでにそんな彼氏捨てて俺らと仲良くしようぜ」

「ま、リボンなんてどうせすぐに取っちゃうけどな」


 しかもこの後にげへへへなどと効果音がつく。明らかに ゲ ス だ。既に脳内ピンク色に違いねえ。


 奴らは剣をさしている。おそらく冒険者たちだ。砦の内側に人間たちは攻めてこないが、世界中どこにだって魔物は現れる。それを退治して金をもらうのが冒険者。ぶっちゃけ消耗品で誰でもなれるらしい。

 ゲス共は武装していることで俺たちは強いという妄想が生まれているようだ。確かにこっちは丸腰だが、ナグサだっててめえらより強いっての。


「えー、仲良くするのはいいけど、リボン結ぶのはヤダ」


 はあ?コイツ何言ってんだよ。店の奴らだってギョっとした目で見てんじゃんか。

 どうせナグサのことだから、意味なんかねえんだろ。「みんな仲良くするのはいいよね」とか本心から言いそうだ。


「あ?まあいいけどさ、ヤんなら――」


「だって、あたしあなたたちのこと、なんか嫌いだもん」


 言い切った。


 狭い店内が静寂に満ちる。呆然とした店員や他の客、何よりもこの馬鹿共の「え、マジ?」という顔がヤバイ。面白すぎる。


「あはははっ。お前、マジやべえってソレ。ほら、信じられないって顔してるだろ。馬鹿じゃねえの。てめえらなんか弱え奴、俺らが相手にするわけねえだろ」


「なッ!?馬鹿にしてんのかてめえ!」


「だから馬鹿って言ってるだろ」


 今の俺は最高に気分がいい。


 まず、朝から思う存分殺して戦うことができた。

 それから別に気にしてたわけじゃねえが、一日中ナグサの機嫌がよかった。

 さらに、ナグサが最高に面白いジョークを見せてくれた。


 気分がいい。


 だから、すぐに切れて殺さないでやれている。


「おい、てめえ!調子に乗ってンじゃねえぞ!!」

「さっさと女置いて帰れ!今なら許してやるぞ!」


「はあ?誰が誰を許すって?」


 ここは砦の外じゃなくて内側、フレアロンティだ。そういう点では俺の忍耐力に拍手を送ってやりたい。


 正当防衛ってあるだろ?やられたら、殺さない限り何したっていいってことだろ?

 つまり、手を出されるまで待てばいいってことだ。


「おりゃあぁ!」


 ほら、さっそく獲物が飛び込んできてくれた。


 立ち上がりざま、無造作に足を振れば、殴りかかってきた男が吹き飛んだ。……あー、少し強すぎたか。戦場じゃねえと手加減しにくいな。

 何が嬉しいのか顔を真っ赤にした男たちが一斉に俺を囲んでくる。やっぱり馬鹿じゃねえか。俺との力量差もわかんねえんだからさ。

 ポケットに手をつっこんだまま、殴りかかってきた腕はよけて、ちょっと足を払ってやれば、すぐにひっくり返る。弱い。殺すのよりは戦うほうが好きだけどさ、相手が弱いんじゃ戦いにならねえだろ。

 つまんねーの。

 俺は最後に倒れた男の上から足を踏みおろした。ボキッとか変な音がしたけど気にしねえ。

 これでまあ、少しはすっきりしたか。



 パチパチパチ。

 静まりかえった店内に拍手の音だけが響く。ナグサと……シン?来てたんなら手伝えよ。一応リーダーなんだろ?

 拍手の音をスイッチにして、店内にいつもどおりの喧騒が戻った。


「おい、おめえ強ぇじゃんか!酒飲まなかったときはどこの坊ちゃんかと思ったが」

「ありがとうねえ。店員に手を出そうとするなんて、あんなの客じゃないよ」

「おい聞いたか!?お前ミリ狙ってんだろ?気をつけろよ!」

「おいアンタ、さっさと仲間連れて消えな!!」

「なかなか綺麗な動きだったな。どんな唐変木かと思っていたが、ナグサに手を出そうとしたのを守るとはなかなかやるな」

「ありがとー、セド。ちょっとすっきりしたかな?ああいう人たち、なんか嫌いなの」


 にこにこと、ナグサは何も変わらない笑顔をみせている。コイツ、アイツらの誘いの意味わかってんのかよ?


「ああいう人がいるっていうのは、人間も魔族もそんなに変わらないねぇ。違うのは、敵か味方かってこと。殺していいかってことかなあ」


 ぎょっとしたが、ナグサの声は喧騒に紛れて、他の客には聞こえなかったみたいだ。


「お前、人間界に行ったことがあるのか?」


「あれ?言ってなかったっけ?あたし、人間界出身なんだよ」


 何でもないことのようにナグサは言って、結んでー、と俺にリボンを差し出した。


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