14.つまり軍人の日常
遅れました……
今回もあんまり中身がないです
Side:シン
「うん、あたしのセンスはやっぱりいい!すっごく似合ってるよ!」
「だからって、無理矢理着せるなよな……」
「何それ。あたしのチョイスに不満があるのー?」
「そういうわけじゃねえけど……」
まるで恋人同士みたいだな。
言わないが。
セドも砦に慣れたみたいでよかった。まあ、ナグサがいる限り「浮いてる」なんてことにはならないか。
「……」
くいくい、とアメが俺の服を引っ張る。アメにはこの店は不満らしい。そうだろうな。ここはリーズナブルだがアメの趣味とは合わない。
ナグサが自分の好きな服を買おうと思ったら、ここになるだろうが。
「……」
アメは無言で通りの奥を指差す。
「わかったよ、行くか」
セドに別行動をする旨を伝えようと2人のほうをみると、
「ね、可愛い?」
まだ夏前だというのに(自覚はないだろうが)扇情的に足をさらしたナグサと
「知らん!」
とか言いつつも、赤くなっている店員に敵愾心を燃やしているセド。
何だよアレ。おもしろすぎるだろ……。
「くくくっ」
「おいっ、シンてめえ笑うな!」
「え?何でシン、笑ってるの?」
「……馬鹿」
的確だ。
相手の気持ちに気づかない奴も、自分の気持ちに素直になれない奴も、馬鹿に決まっている。
「……シンは、馬鹿?」
「……」
ここで自分に切り返しが来るとは思ってもみなかった。
だが、そうだな。
馬鹿になりたくはない。
「セド、ナグサ。俺たちは他の店に行く。終わったら、アレスの花で待ってろ」
カエデとアケビが聞いたら「「何それ、娼館ー?」」ってききそうな名前だな。ただの宿屋兼定食屋だが。
アイツらが使ってるのは、フレアロンティから離れた、むしろ王都に近い町の所。スキル使い放題だからって、《瞬間移動》で色々な町に行って遊ぶのは、俺からみてもうらやましい。
「うん、わかったぁ!」
服にうもれてご機嫌なナグサの声を後ろに、俺たちは店を後にした。
「……どう?」
ナグサとは違って、散々悩んだ挙句に試着した2着。ひらひらのティアードワンピに、膝下のパンツ。
どうと言われても、可愛いとしか言いようがない。隣の店員が見とれて仕事にならないくらいな。
「似合ってるよ。せっかくだから俺が買ってやる」
アメは精一杯目を見開いたあと、慌てたようにこくこくと頷いた。こういうところは無表情でも感情が溢れ出ていて、他の女子よりもむしろ可愛い。
あー、これってやっぱり恋人に見えるんだろうな……。
「さっさと買って行くか。ナグサとセドが待ってるだろう」
「……食事してる?」
「ん?ああ、そうだな。ナグサは待ちきれなくて夕食を食べてる可能性もあるな」
買い物というのはどこの世界でも、女の子を幸せにするものらしい。いつもより高調しているアメの頭を撫でれば、幸せそうに目を細める。
平和だ。
初めて戦いの後に町へ行けば、誰だって混乱する。しなかったのは、そもそも心が壊れている――ナグサや双子ぐらいだ。
だがそのうちに、「戦闘狂の自分」と「平和を甘受する自分」が同時に存在するようになる。これはおそらく、人間側の軍人だって同じことだろう。
もし、人間との戦争がなくなり、平和な世界になったら。
俺はどうするのだろう?
「……シン?」
ナグサの声が心配そうな響きに満ちている。ちょっと考え事をしてただけだ、と苦笑した。
アレスの花に入って理解した。
つまり、こういうことだ。
戦争がなくなっても、平和な世界などない。誰かしらが戦っている。
「おい、てめえ!調子に乗ってンじゃねえぞ!!」
「さっさと女置いて帰れ!今なら許してやるぞ!」
こうしてセドとナグサがからまれているように。