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砦の日々  作者: 花屋
≪日常編≫
15/68

12.町の日常と砦の日常


Side:セド


 愕然とした。


「寄ってけ寄ってけー!串焼き旨いよー!」

「アクセサリーはいかがですかー?あっ、そこのあなた!デートの記念にいかが?」

「おい、そこの坊主!これ1個食ってけ!」

「ねえ、あそこのお店おいしそうじゃない?」

「お姉ちゃん、旅行者でしょ!この飾り紐、おみやげにどう?」


「おい、セド、どうした?」


 砦の向こうと、こちら側。


 向こうではほんの数時間前に戦闘があり、いまだその地は血に染まっているというのに――こちらでは。


「住人には――攻めてきたこと知らせてないのか?」


「どうして知らせる必要がある?今、人間たちと戦争中だなんて、この国の人間なら誰だって知っている。そんなわかりきったことを、わざわざ言うなんて馬鹿のすることだ」


 勇者や軍隊が攻めてきたことに、砦の奴らは特筆すべき反応をしなかった。つまり、これは奴ら――いや、俺らにとって日常だってことだ。

 その一方で、こちら側ではどうやっても否定できない「日常」が繁栄している。


 どっちが非日常なんだ?


「もう、戦えばわかるって思ったけど、セドはやっぱり複雑に考えてる!

 楽しくなかったの?あれだけ楽しめば、細かいことなんてどうでもよくならないかなぁ?」


「誰もがナグサみたいに単純に考えられるわけじゃない。その点ナグサは凄いな」


「え……凄いかなぁ?えへへへ」


「いや、それ褒めてねえだろ」


 くいくい、とアメがシンの袖を引っ張った。視線はすでに市場のむこうを向いてやがる。


「アメはもう我慢できないらしい。行くぞ。――セドは、帰るか?」


 どうすっかなあ……。


 ぐるりと目をまわす。

 体は洗ったはずなのに、血の臭いはこびりついて離れない。すれ違った人を目で追えば、頭はどうやって殺すかを考えている。


 ケーキ。は、好きじゃねえけど。例によって自炊力がねえ奴らが淹れたんじゃねえ、上手いコーヒーが飲みてえな。


 というわけで結論。


「いや、行く」





「おいしぃ~!セドはホントに食べなくてよかったの?」


「ああ、ケーキは昨日のでうんざり」


 言ってから気づく。あ、買ってきたのってコイツだっけ。

 だがまあ、ナグサ自身は気づいていないみたいだから、いいか。


「それにしても、アメちゃんの今日の服、すっごく可愛いよね!」


「そうか?」


 横目でアメの服をみる。……確かに、朝と服は違っているけど、可愛いかときかれるとよくわからん。


「もう、ひどいなぁ、セドは!あー、あたしも新しい服ほしいなあ~」


「ナグサは服じゃなくて食に金を使っているから貯まらないんだろ」


「あの給金を使い切るのか!?」


 砦に行くときに、給金はもらえると聞いた。その額は滅茶苦茶多いとはいえねえけど、新米の兵士とは比べものにならない。小さな料理店の次男坊だった俺からすると、大金だ。

 それを使い切るって、どんな食生活をしてるんだよ。


「うん、なんかねー、別に食べたいとは思わないんだけど、入れようと思えばたくさん入るんだよね」


「……底無し」


 無口なアメまでもが保証するぐらいらしい。


「おや、今日はナグサちゃん、フルコースいかないのかい?」


 マスターが聞いてくるぐらいひどいらしい。


「うーん、じゃあ、ケーキだけ全種(、、)もらいまーす!」



 数分後、10以上のケーキが運ばれてきた。


 数分後、消えた。


 その動きは戦闘と同じくらい速かったとだけ言っておく。


セドは甲斐性なしだという話。


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