表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砦の日々  作者: 花屋
≪日常編≫
11/68

閑話 忘れられない記憶1 K&A

 カエデは男。1人息子。大事な跡取り。必要な教育。覚えるべきマナー。注ぐべき愛情。消えた自由。


 次期当主という仮面。


 カエデは女。1人娘。いつかは消える子。不必要な教育。なおざりのマナー。与えられない愛情。残された自由。


 いらない存在。



 僕らは混乱した。


 どうしてカエデには親として接してくれるのに、アケビには微笑むことさえしてくれないのだろう?



 《感覚共有セイムセンス》。


 スキルとは自分の意思で発動するもので、常駐発動型など珍しい。《感覚共有セイムセンス》も本来は成長してその存在を知り、使うもので――だからその弊害が起こったことなどなかった。


 生まれたときから《感覚共有セイムセンス》によってすべての感覚を共有していた僕ら。「カエデとアケビ」という1つの人格があり、それが僕らを動かしていた。

 おかしいことだという意識はなかった。カエデはアケビで、アケビはカエデ。体が違うだけ。体、という認識はあった。カエデが怪我をしてもアケビは怪我をしなかったから。


「ねえ、父さん。アケビは叱らないの?どうしてアケビは勉強しなくていいの?」


「ねえ、母さん。カエデはどうして遊べないの?どうしてカエデと一緒に遊んじゃ駄目なの?」


 傍からみれば、互いに嫉妬しているように見えたに違いない――実際は単なる疑問だというのに。


 どうして両親は、僕らを同じように扱わないんだろう?



 成長して、ようやく僕らは別の人間で、感覚を共有しているだけだとわかった。それでも僕らは変わらない。


 そのかわりに、違和感はどんどん大きくなっていった。


 どうしてアケビの髪だけ長いの?どうしてカエデはスカートをはかないの?どうして僕らが一緒にいちゃ駄目なの?ねえ、どうして?おかしいよ。カエデアケビなのに。



 ある日――アケビが母さんに叩かれた。原因は些細なことだったはずだ。


 あれ、何で?どうしてアケビが叩かれているの?どうしてカエデは叩かれていないの?


 いつもなら流せるはずなのに、そのときはどうしても耐えられなかった。


 僕らは初めて声をそろえた。ぴたりと、一寸の狂いもなく。僕らにとっては容易なこと。


「「どうしてアケビだけを怒るの?ねえ、アケビを叱らないでよ。じゃなかったら、カエデも叱ってよ。片方だけ叱るなんて、おかしいでしょ?」」



 母さんは卒倒した。父さんは動転して、夜中に医者を呼びに走らせた。


 その間に、僕らはかねてから考えていたことを実行した。


 アケビの長い髪をきる。カエデと同じような長さまで。カエデが何着か持っていた同じ服を着た。


 そしてやってきた医者に向かって言った。



「「僕らを診にきた?ねえ、どっちがアケビでどっちがカエデかわかるの?それがわかんないと、診るものも診れないよね?」」



 面白かった。今までしかめっ面で威張っていた父さんが、ぽかんと馬鹿みたいな顔をしている。


 いいなあ、これ。面白いし、すごく楽。やっぱり僕らが同じじゃないなんておかしいよね。



 その数週間後、父さんの妾に子供ができていたのをいいことに、僕らは砦へと厄介払いされた。


ということで、カエデとアケビの過去でした


「呪い」というのはこういう意味です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ