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第24話 黄金の鐘持ち団

 ギルドの扉が、静かに開いた。


 ――それだけで、空気が変わった。


 ざわついていた受付周辺が、

 まるで誰かに喉元を押さえられたように静まる。


 先頭を歩くのは、一人の冒険者。


 軽装。

 武器は地味で、装飾もない。

 だが、握られた柄には無数の擦れ跡があった。


 使い込まれている。

 それだけで、十分だった。


 男は周囲を見渡さない。

 視線を動かさず――ただ、そこに立つ。


 それだけで、

 近くにいた冒険者たちが、無意識に一歩下がった。


 その後ろ。


 重たい足音が続く。


 大柄な体格。

 人間ではない。

 肌の色と骨格が、はっきりと違う。


 典型的なドワーフ種族――

 前線を任される、歴戦の個体だ。


 ベテラン冒険者が、

 思わず息を呑んだ。


(……本物だ)


 そして。


 ――チリン。


 乾いた音が、ひとつ。


 金色の鐘を模した小さな装飾が、

 腰元で揺れていた。


 歩くたび、

 確かに鳴る。


 その音を聞いた瞬間、

 誰かが、喉を鳴らした。


「……黄金の鐘持ち団」


 囁きが、波紋のように広がる。


 ――と。


 当の本人は、まるで気にも留めず。


「いや〜、今回は誰が受付なんだろな〜」

「ローラ♪ ローラ♪ 早く会いたいぜ」


 場違いなほど、軽い声。


 周囲が、固まる。


(……え?)

(あれが?)

(黄金の……?)


 鐘は、まだ鳴っている。


 チリン、と。


 その音に、

 周囲の冒険者たちは無言になった。


 Sランク昇級間近。

 危険地帯専門。

 ――そう呼ばれない日は、ない。


 その噂が、

 今、目の前に立っていた。


 そして――最後に。


 ゆったりとした足取りで、

 一人の女性が入ってくる。


 ハーフエルフ。


 年齢は、分からない。

 若くも見え、そうでないようにも見える。


 妖麗な微笑み。

 周囲の空気が、わずかに甘くなる。


 その瞬間。


「……あら?」


 彼女が、足を止めた。


 視線が、

 ルルカに向く。


「ルルカちゃんじゃない」

「相変わらず……小さくて可愛いわね」


 周囲が、凍りつく。


(殺される)

(あの魔女、絶対に怒る)


 誰もが、そう思った。


 だが。


「あっ、うん」

「ありがとう」


 ルルカは、普通に返した。


 空気が、ひっくり返る。


(え?)

(今の、セーフなの?)


 ガルドの口は大きく空いた。


(あのハーフエルフ……生きてる…… だと⁉︎)


 リリアは、楽しそうに笑った。


 そして、何気なく周囲を見渡し――

 鼻先を、わずかに動かす。


「……ルルカちゃん」

「ここ、何か違う“匂い”が混ざってるわね」


 ルルカの目が、少しだけ輝く。


「さすがだね、リリア」

「すぐに気づくんだもん」


「初めてのタイプ」

「でも……嫌いじゃないわ」


 リリアの視線が、

 一瞬だけ――エリオをかすめた。


「……“あの子”かしら?」


 エリオは、背筋がぞくりとした。


 理由は分からない。

 ただ、見られた気がした。


「ただね」


 ルルカが、少しだけ前に出る。


「わたしがロックオンしてるから」

「横取りは、なしね」


 リリアが、くすりと笑う。


「ルルカちゃんに注目されるなんて」

「幸運な子ね」


 口元を、妖艶に舐める。


 その仕草に、

 周囲の男たちが息を呑む。


(ローラ姉さんもいいけど……)

(この人に遊ばれたい……)


 そんな空気が、確かに流れた。


「……じゃあ」


 リリアが、冗談めかして言う。


「少しだけ、味見しちゃおうかしら?」


「――ダメ」


 即答だった。


「それは、なし」

「この子は……わたしのだから」


 ルルカは、頬を少しだけ膨らませる。


 周囲が、ざわつく。


(今の聞いた?)

(“わたしの”……?)


 リリアは、肩をすくめた。


「冗談よ、ルルカ」

「本気にしないで」


 その笑みは、

 どこか満足そうだった。


 ギルド長が、咳払いをする。


「……集まってもらって感謝する」

「今回の調査対象は、ダンジョン内部で確認された異常現象だ」


 リリアが、ふっと視線を向ける。


「“厄災”ね」


 一瞬。

 場の温度が、下がった。


「匂いが、残ってる」

「しかも……湖に近い」


 ベルクの拳が、きしむ。


「……やっぱりか」


 先頭に立っていた冒険者が、短く言う。


「準備はできている」

「いつ出る?」


 ギルド長は、即答した。


「明朝」

「夜明け前だ」


 リリアが、にっこり笑う。


「久しぶりに、面白い仕事になりそうね」


 ――チリン。


 黄金の鐘が、ひとつ鳴った。


 その音は、

 嵐の前触れのように、

 静かに、深く、響いていた。


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