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第15話 魔女見習い、同行する

 翌朝。


 ギルドの中庭は、少し騒がしかった。


「……で、本当に行くんだな」


 ベルクが腕を組み、面倒そうに言う。


「ああ」


 ギルド長は短く頷いた。


「初動の異変は確認できた。次は内部だ」


 エリオの隣で、リュカは相変わらずうつむいている。

 だが、昨日よりは――

 ほんの少しだけ、肩の力が抜けていた。


「回復役は?」


 ガルドが訊く。


「まさか、ベルク一人でどうにかなるとは思ってねえぞ」


「分かっている」


 ギルド長は、視線を奥へ向けた。


「だから――」


「呼ばれた気がしたんだけど」


 間の抜けた声が、上から降ってきた。


「……?」


 全員が見上げる。


 そこには。


 中庭の壁に腰掛けた、小さな影。


 とんがり帽子。

 外套は少し大きめ。

 足はぶらぶらと宙に浮いている。


「……子ども?」


 ガルドが、思わず口にした。


その瞬間。


 子どもは、ぴたりと動きを止めた。


 じっと、ガルドを見る。


 無言。


 そして――


 ぷいっと顔を背け、

 意味不明な踊りを始めた。


「……無視された?」


 ガルドが眉をひそめる。


 次の瞬間。


「エ・リ・オ・くん」


 影が、ぴょんと飛び降りた。


 目の前に立ったのは――

 どう見ても、子どもだった。


 金色の髪を二つに結び、

 眠そうな目でこちらを見上げている。


「私を見て、今」

「“子どもだ”って思ったでしょ」


「……え?」


「口に出したら」


 一拍。


「――つぶすよ」


 にこっと笑った。


 空気が、凍った。


「……」


 ガルドが、そっと一歩引く。


「……ギルド長」


 ガルドが低く言った。


「何考えてんだよ」

「この子供魔女、やべえだろ」


「ガ・ル・ド・くん?」


 魔女が、ゆっくり首を傾げた。


「……あ」


 ガルドの顔色が変わる。


「い、いや……」

「つい……」


 次の瞬間。


 ――ゴンッ!!


「ぐあっ!?」


 何が起きたのか分からないうちに、

 ガルドは近くのゴミ箱に頭から突っ込まれていた。


 中から、くぐもった声がする。


「……すいません……」


「素直でよろしい」


 魔女は満足そうに頷いた。


 そして、改めて胸を張る。


「魔女見習いのルルカ」

「回復、補助、呪い解除、あと非常時の後始末担当」


 帽子のつばをつまみ、ぴしっと。


「卒業試験のために各地を回ってるの」

「風の街には、もう三年いるわ」


 エリオは、思わず聞いた。


「……見習い、なんですか?」


「失礼ね」


 ルルカはむっとする。


「“見習い”だけど」

「回復できない魔女はいないの」


「むしろ、できなかったら死んでる」


「……」


 説得力が、重かった。


 ギルド長が咳払いをする。


「ルルカ」

「今回のダンジョンだが――」


「行くでしょ」


 即答だった。


「卒業試験にも使えるし」

「それに……」


 ちらり、とエリオを見る。


「面白そうなのが混じってる」


 エリオは、何も言えなかった。


「というわけで」


 ルルカは、くるっと背を向ける。


「回復役、確保」

「文句ある人?」


 誰も、口を開かなかった。


「よし」


 満足そうに頷く。


「じゃあ、改めて」


 エリオの前に立つ。


「エリオくん」

「あなた、たぶん」


 一拍。


「“普通じゃない”わね」


 リュカが、びくりと反応する。


 だが、ルルカは続けなかった。


「まあいいや」


 軽く笑う。


「詳しい話は、ダンジョンの中で」


 ベルクが、ため息をついた。


「……やれやれだ」


「安心しなさい」


 ルルカは肩をすくめる。


「死なせないのが、私の仕事だもの」


 エリオは、胸の奥で何かが動くのを感じた。


 新しい仲間。

 新しい役割。

 そして――


 初めてのダンジョン。


 風の街の外れで、

 何かが待っている。


 それが、危険でも。


 逃げ道ではなく――

 “進む道”だと、分かっていた。


 エリオは、静かに息を整えた。


 物語は、

 次の扉の前に立っていた。

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