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第14話 止まらない視線

 岩場を離れ、ギルドへ戻る道。


 風の街は、いつも通り騒がしいはずだった。


 けれど――

 今日は、どこか違う。


 視線が、集まっていた。


 露骨ではない。

 だが、確実に。


 ひそひそと、声が混じる。


「……さっきの、見たか?」

「“アイツ”の近くで……止まったよな?」

「新人が、近づいた瞬間だ」


 エリオは、何も言わず歩いていた。


 隣では、リュカが俯いたまま歩いている。

 視線は地面に落ち、肩は小さくすぼめられていた。


 その距離は、近くも遠くもない。


 ただ――

 エリオだけが、隣にいる。


「……チッ」


 前を歩くベルクが、低く舌打ちした。


「視線がうるせえな」


「……慣れてるんですか?」


「慣れるかよ」


 短く言い捨てる。


「だが、ああなるのは分かってた」


 ベルクは、ちらりと後ろを振り返った。


 リュカは、何も反応しない。

 ただ、歩いている。


 その様子を見て、ベルクは街の方へ視線を戻した。


ひそひそと交わされる声。

避けるように逸らされる目。

そして――観察するように残る視線。


「……扱いが難しい」


低く、独り言のように続ける。


「排除するか」

「様子を見るか」


一拍。


「どっちにしても――」

「本人は、何も言わねえ」


 エリオは、胸の奥に引っかかるものを感じた。


 ――昨日までの自分も、似たような立場だった。



 ギルドが見えてきた。


 先ほどの騒ぎが、すでにギルド中に噂になっているのが分かる。


 ひそひそと、声が止む。


 その手前で、視線を感じる。


 建物の影。


 腕を組み、こちらを睨む男。


 ガルドだった。


 エリオとリュカを見る目は、鋭い。

 苛立ちと――

 それだけではない、何かが混じっている。


「……冗談じゃねえ」


 小さく、吐き捨てるような声。


「なんで……あいつが“平気”なんだ」


 ベルクは、気づいていないふりをして歩いた。


 エリオも、何も言わない。


 ガルドは、それ以上近づかなかった。


 ただ、視線だけが残った。



 ギルド内。


 いつもの喧騒が戻っている。

 だが、空気の芯は、まだ冷えていた。


 ベルクは、エリオとリュカを入口近くで待たせ、

 一人、奥の部屋へ向かった。


 扉の向こう。


 低い声が、かすかに漏れる。


「……止まったのは、事実だな」


 ギルド長の声。


「偶然じゃ、済まねえ」


 ベルクの声が重なる。


「……竜守り人と、

 “あの子”か」


 一瞬、沈黙。


「関係が……あるかもしれん」


「……だとしたら」

「試すしか、ないな」


 低く、静かな声。


「風の街にとって――」

「悪くない風、かもしれん」



 少しして、ベルクが戻ってくる。


「……行くぞ」


「どこへ?」


「中庭だ。人目が少ねえ」


 リュカは、何も言わずついてきた。



 中庭は、静かだった。


 風が、壁に沿って流れている。


 リュカが、立ち止まる。


「……」


 エリオも、足を止めた。


 しばらく、沈黙。


 リュカが、ぽつりと口を開く。


「……近づかない方がいい」


 声は小さく、かすれていた。


「どうして?」


 エリオは、すぐに返した。


 リュカは、少しだけ目を伏せる。


「……いつも」

「壊れるから」


 エリオは、否定しなかった。


 代わりに、静かに言う。


「今日は、壊れなかった」


 リュカの肩が、わずかに揺れた。


 返事はない。


 でも――

 逃げなかった。



 そのとき。


「……話は、聞いた」


 ギルド長が、姿を現す。


 リュカは、びくりと身をすくめた。


「責めるつもりはない」


 ギルド長は、穏やかに言った。


「だが、確かめたいことがある」


 エリオを見る。


「最近、この街の外れに」

「性質の不安定なダンジョンが出た」


「詳細は、まだ分からん」


 一拍。


「……君に、協力してほしい」


 エリオは、即答できなかった。


 だが、隣を見る。


 リュカは、俯いたまま。


 それでも――

 逃げてはいない。


「……分かりました」


 エリオは、そう答えた。


「ありがとう」


 ギルド長は、短く頷く。


「ベルク」


「……ああ」


「同行を頼む」


「仕方ねえな」


 ベルクは、肩をすくめた。


 そのとき――


「待て」


 低い声。


 ガルドだった。


 いつの間にか、近くに立っている。


「俺も行く」


 視線は、リュカに向いている。


「……あいつのせいで」

「仲間を失ったのは、事実だ」


「逃げないように、見張る」

「それだけだ」


 場が、静まる。


 ギルド長は、少し考え――

 頷いた。


「いいだろう」


「だが、暴れるな」


「……分かってる」


 ギルド長は、最後に言った。


「回復役を一人、付ける」

「準備は、明日だ」



 その夜。


 エリオは、風の街の宿で天井を見つめていた。


 隣の部屋には、リュカがいる。


 まだ、何も分からない。


 けれど――


 止まった風。

 重なった違和感。


 そして、動き出した歯車。


 エリオは、静かに目を閉じた。


 この旅が、

 もう“自分一人のもの”ではなくなったことを。


 はっきりと、感じながら。

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