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第13話 風が、止まる場所

 風の街は、いつも騒がしい。


 通りには布が揺れ、看板が鳴り、誰かの笑い声が混じる。

 風が吹くたび、街そのものが呼吸しているみたいだった。


「……ここが、風の街だ」


 エリオは、歩きながら辺りを見回した。


 高い建物は少ないが、視界が広い。

 路地は入り組んでいるのに、どこか抜けがある。


「迷いにくい街だろ」


 前を歩くベルクが、ぶっきらぼうに言った。


「風の流れで、だいたい分かる」


「……案内人向きですね」


「皮肉か?」


「いえ、褒めてます」


 ベルクは返事をしなかったが、歩く速度がほんの少しだけ緩んだ。


 しばらく歩いた、そのときだった。


 ――カチリ。


 金属が、かすかに噛み合う音。


 ベルクの足が止まる。


「……チッ」


「使えないからってあんなとこに捨てやがって」


 舌打ち。


 前方の岩場の広場に、いくつかのアーティファクトが転がっていた。

 用途不明の小物、古い制御石、欠けた魔導具。


 その中心に――


 ひとりの少女が、ふらふらと立っていた。


 ぼさぼさの髪が顔を覆い、表情はよく見えない。

 背は低く、服も街の子どもと変わらない。


 ただ――


 その周囲だけ、風の流れが歪んでいた。


「……まずいな」


 ベルクが低く呟く。


 次の瞬間。


 欠けた魔導具が、淡く光った。


「――危ない!」


 ベルクが叫ぶ。


 岩場の上にいた小さな子どもが、足を滑らせた。

 同時に、制御石が暴走し、岩が崩れ落ちる。


 ベルクは即座に駆け出し、子どもを突き飛ばすように抱きかかえた。


 ――ドンッ!!


 岩が地面に叩きつけられる。


だが、終わらなかった。


一つ、また一つと、

周囲のアーティファクトが震え出す。

光が乱れ、

風が荒れ狂う。


「まただ……!」


「“アイツ”のせいだ!」


 周囲から、声が上がる。


「近づくな!」

「アーティファクトが暴走してる!」


 少女は、その場から動かない。


 いや――

 動けないように見えた。


 肩をすくめ、俯いたまま、ただそこに立っている。


 そのとき。


 エリオの胸が、ざわついた。


 ――近い。


 理由は分からない。

 けれど、分かってしまった。


「あの子……」


「おい、待て!」


 ベルクの制止より早く、エリオは歩き出していた。


「近づくな!」

「正気か!」


 罵声が飛ぶ。


 けれど――


 エリオが少女に近づくにつれ、

 アーティファクトの光が、弱まっていく。


 風が、静まる。


「……?」


 誰かが、声を漏らした。


 エリオは、少女の前で立ち止まった。


 近くで見ると、震えているのが分かる。

 小さく、必死に息を殺している。


「……大丈夫?」


 声をかけると、少女がびくりと肩を跳ねた。


 ゆっくりと、顔を上げる。


 隙間から覗いた瞳は――

 怯えと、諦めが混じった色をしていた。


 その瞬間。


 周囲のアーティファクトが、完全に沈黙した。


 風が、止まった。


「……止まってやがる?」


 ベルクが、信じられないものを見るように呟く。


 住民たちも、言葉を失っていた。


「……なんで」

「“アイツ”がいるのに……」


 少女は、まだエリオを見ている。


 逃げない。

 けれど、期待もしない。


 ただ――

 初めて感じる“何も起きない空気”に、戸惑っているようだった。


 エリオは、何も言えなかった。


 ただ、そこに立っているだけ。


 それだけで、十分だと――

 なぜか、分かってしまったから。


 ベルクが、ゆっくりと近づいてくる。


「……お前」


 エリオを見る。


「何者だ」


「……分かりません」


 正直な答えだった。


 ベルクは、少女の方を見た。


 ほんの一瞬だけ、目を細める。


 過去を思い出すような――

 それも、思い出したくない類の目だった。


 「……たしか、リュカだったな」

 「ギルドに報告する。リュカも一緒に来てもらうぞ」


 名前が呼ばれた瞬間、

 少女――リュカの指が、わずかに動いた。


 エリオの袖を、掴みかけて――

 止まる。


 代わりに、小さく頷いた。


 その横顔に、風がそっと触れる。


 不思議と、何も起きなかった。


 エリオは、胸の奥に不安と期待を抱えたまま、歩き出す。


 ――この子には何があるのか


 まだ分からない。


 けれど――


 違う道を歩いてきた二人が、

 今、同じ場所に立とうとしている。


 それが、偶然で終わらないことを――

 エリオは、まだ知らない。


 

 

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