5話 黒の竜騎士
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上級チケットでのプラモ召喚から3日が経った。
アイラの希望通り、僕は竜が人化したらこんな感じなんじゃないだろうかというようなシルエットのプラモを仕上げることに成功した。
まぁ、竜の人化自体見たことが無いし、現代に竜が現存するのかも知らないが、過去、千年以上前には、トベルの北にある竜谷という場所に竜が生息していたという記録は残っているので、おそらくいたのだとは思うが、最近では竜谷に竜がいるという観測情報はないし、なんなら竜谷の谷底には、高層の建造物があって、普通に人が生活しているらしいので、竜はもはや過去の遺物なのだろう。
話がそれたが、今回のプラモは、そのまま仕上げたのでは赤い竜に見える。
しかし、アイラも僕も、赤い竜というのには少々違和感を覚えていたので、思い切って、塗装をすることを提案したら、アイラも乗り気で、黒が良いとのことだったので、僕はプラモの表面に施された、細かな細工を生かしつつ、印象を黒にして、なおかつ単調な雰囲気にならないようにはどうしたら良いかと思考を巡らせること半日。
思いついたのが、まずは、全身をゴールドで塗り、その上から、弾力性のある布を、丸く形を整えて縛り、その丸い布に黒の艶がある塗料を含ませて、軽く押し付けながら溝に入っているゴールドまで塗りつぶさないように塗装し、最後に、艶の無い黒を筆に含ませて、一度布で塗料をほぼほぼふき取って乾かしてから、僅かに残った筆の塗料を、部品の凸部分に擦り付ける様に、素早く往復させることで、凸部分にだけ、ほんのりと色が乗るという、不思議な現象が起きる。
これで、基本的には艶のある黒という印象で、奥まった部分や深い溝等には金色のラインが入り、黒に関しても、単調な黒ではなく、所々艶が有ったりなかったりと、表現としてかなり面白いものになっていると思う。
しかも、この塗装という工程は、しなければしなくても良いが、塗装自体がただのデザインやおしゃれ度アップの為なのかというと、そうではない。
まず、塗料の厚みの加減によって、耐久力を上昇させるコーティングになったり、只のバラストになったりと、塗膜の厚みの調整が難しい。(発色と定着を両立させつつ、均一な厚みを保つのがベストだ。慣れないうちは吹付塗装機を使うと、成功確率が上昇すると言われている。今回、僕も金色の塗装にはこの吹付塗装機を使用している。)
そして、色の組み合わせについても、このプラモには、この色とこの色で塗ると強くなるけど、この色を使うとダメとか、種類と色の組み合わせが難しい。
最後に、色を塗ってはならない部品という物が存在する。
正確には、部品によっては、塗料の材質を選ばなくてはならないということだ。
塗料には、数種の分類が存在していて、すごく変な匂いがする物や、独特な匂いの物、まったくと言って良い程に匂いのしないものなど、多岐にわたるが、それらの塗料を、塗って良い物もあればダメなものもあり、塗料同士でも、下に塗った塗料を溶かしてしまうものもあれば、上から何を塗ろうと問題ないものもあるので、塗装という行為は、神の所業が如き“見極める目”が必要となり、その領域に至るまでの塗装をこなせるビルダーは、かなりの上級者と言えるだろう。
ということで、アイラのサーティキャットを黒く染め上げ、本人に手渡すことが出来たので、アイラも装着して一緒に訓練をしようという話になり、僕たちは再びミヤビのダンジョンを訪れたのだった。
「アイラ、装着してみてよ。」
「わかったわ。じゃあ、呪文を唱えるわね。《秘めたる力を開放し、我が身を護る盾となり、敵を穿つ矛となれ。アセンドストライク!》」
暗いダンジョンの中が、一瞬だけ眩しい光に包まれて、サーティキャットのパーツが発光と共に分離し、アイラの身体に吸い込まれていくように装着される。
「凄いわねコレ、なんだか力があふれ出てきそうだわ。」
「武装を切り替えたいと思ったら、インベントリとイメージすると、切り替える武装のリストが出てくるから、そこで使いたいものをイメージするだけで、武装が切り替わるよ。もちろん一つしか使えないってわけじゃないから、二つ武装があって、同時に使いたいなら、そうイメージすれば使えるよ。」
「わかったわ。とりあえず私は、この小さい方の剣と、シールドを使ってみようかしら。」
「多分、自分が剣を振るうイメージとか、盾で防御するイメージとはかけ離れた威力があると思うから、最初は、自分が普段戦う時のイメージを一度リセットして、そっと触れてみるくらいの感覚で丁度いいかもしれないよ。」
「わかったわ。それにしても、このプラモの色、とても素敵ね。気に入ったわ。」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。その色の構成を思いつくのに、半日かかったからね。」
「そうだったのね。そうね、それじゃあ……。トト!」
「ん?何?」
「トトから見て、私は可愛いかしら?」
「き、急に、何を言いだすんだよアイラ。そ、そ、そりゃまぁ、アイラは可愛いとは思うけど……。」
「ありがとう、トト。そうね……。それじゃあ、帰ったら、可愛い私から、特別なご褒美をあげるわ!」
「え!?と、特別???って、な、なにか、な……?」
「来たわね。」
「え!?あ、う、うん……。ス、スライムなら丁度良いね。それじゃあ、アイラ、さっきも言ったように、イメージとしては、自分の身体能力が爆増してる感じだと思うから、まずは、ちょっと速足で近づいて、剣だと威力がありすぎると思うから、シールドで魔物を押しのけるくらいのイメージで攻撃してみて。」
「わかったわ。そっとね、そっと……。」
アイラは軽く腰を落として身構える。
緊張しているのか、身体が固い様にも見える。
あまり良い兆候とは言えない。
下手をすると、壁に激突パターンもありえる……。
僕が、アイラにリラックスするように声をかけようとした次の瞬間。
アイラの身体は、僕がそこにいると認識している場所からは消えていた。
「あ!」
しかし、アイラは僕が想像していたようにはならなかった。
僕が初めてプラモを纏った時と同様に、尋常じゃない速度で魔物に急接近したアイラだったが、魔物の直前でしっかりと急停止し、左腕に構えたシールドを振りぬくのではなく、僕がアドバイスをしたように、そっと押すような動作をした。
しかし、僕の見立てが甘かった……。
アイラがそっと当てたように見えたシールドの打突で、現れたスライムは爆散した……。
なんなら、あのスライム、アイラの接近に気付いてすらいなかったのかもしれない。
現れたスライムは1匹ではなかったが、仲間のスライムが突然爆散したことに驚いているようで、未だにアイラが意識に入っていない様子だった。
すると、すかさずアイラは右手に構えたショートソードで、横薙ぎに払った。
動きの止まっていた2匹のスライムは、まともにアイラの剣戟を食らい、今度はスライムの上半分と下半分がわずかにズレを見せ、次の瞬間には霧散していた。
「何コレ……? 凄いわ!トト、コレ凄ぉ~い!!!」
「という感じなので、移動なんかの、通常の動作には特に気を付けてほしいかな。多分そのプラモを纏っている状態で壁に激突しても、アイラ自身へのダメージはほとんどないのかもしれないけど、動くたびに壁を壊してたんじゃ、ダンジョンならまだしも、塔だと、場合によっては倒壊するかもしれないからね……。」
「そうね、力のセーブにはかなり気を付ける必要がありそうね。」
「それじゃあ、アイラもプラモを装着した感覚が分かったようだし、奥に進もうか。」
僕達二人は、ダンジョンの奥へとどんどん突き進み、あっという間にボスがいるフロアの一つ前、中ボスフロアへと到達した。
残すところ2フロアとなったが、実はこのダンジョン、ラストのダンジョンボスがいるフロアよりも、この中ボスフロアが最大の難関と噂される、厄介なフロアだったのだ……。
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