3話 イレギュラー ~時に未熟は心を救う~
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僕たちは、自分達が住むトベルの街の北にある森まで出向き、人気のない場所を選んで、プラモの装着テストをしてきた。
僕は、事前にプラモに関する書物を、徹底的に読み込んでいたため、操作については熟知していたつもりだったけど、どうやら、マスタークラスのEQゴーレムというものを軽く考えていたようだった。
EQゴーレム化したプラモは、ほぼ脳内でのイメージによって操作する。
前に進むとか、ジャンプするとか、そういう、普段考えなくても行動に移すことの出来る行為については、普段通りで良いと認識していたけど、結果としては、そういうわけにはいかないようだった。
ちょっと早く進もうとしただけで、遥か彼方の木に激突して木端微塵にするとか、ぶつかったのが、木だから良かったものの、これが人ならおそらく死んでいる。
このEQゴーレムのコントロールをマスターするまでは、人前でおいそれと装着するのは控えた方が良いだろう。
「ねぇトト、これからどうするの?」
「そうだね、試練の塔はまだ早いと思うから、やっぱりミヤビのダンジョンにしておくよ。まずは稼ぐより、慣れることの方が大事だから浅い階層で色々と試してみようと思う。」
「それなら私も行くわ。浅い階層なら危ない事もないし、トトの護衛付きだし、大丈夫よね?」
「一応、ポーションは多めに持ってきてね……。」
僕たちは、ミヤビに直接向かうのではなくて、ムーシルト経由での転移魔法陣の方が若干近いことと、アイラが、どうしてもムーシルトでランチを楽しみたいとのことだったので、そのままムーシルトに向かうことにした。
ムーシルトの街路は石畳が陽光を反射し、冬の空気の中でも柔らかな温もりを感じさせていた。
僕たちが腰を下ろしたのは、広場に面したオープンカフェ。
白いパラソルが並び、木製の丸いテーブルには小さな花瓶が置かれ、淡い色の花が風に揺れている。
アイラは窓際ではなく、通りに面した席を選んだ。
「ここなら街の人たちがよく見えるでしょ?」と笑いながら、彼女は椅子に腰掛ける。
通りを行き交う人々の声や馬車の車輪の音が、カフェのざわめきと混じり合い、
まるで街全体がひとつの音楽を奏でているようだった。
運ばれてきたランチは、香ばしいパンとハーブの効いたスープ。
湯気が立ちのぼり、鼻腔をくすぐる香りに思わず息を深く吸い込む。
アイラはデザートに小さなタルトを頼み、フォークを入れるたびにサクッとした音が響く。
その笑顔は、これからダンジョンに向かうことを一瞬忘れさせるほど、穏やかで楽しげだった。
「こういう時間があるから、冒険も頑張れるのよね。」
アイラがそう呟いた時、僕はただ頷くしかなかった。
この街の陽だまりと、彼女の笑顔が、戦いの緊張をほんの少し和らげてくれるのだ。
僕たちは、ムーシルトのおしゃれなカフェで昼食を済ませた後、ドラッグストアでポーションを多めに購入し、ムーシルトの転移魔法陣からミヤビの西に転移した。
ミヤビダンジョンの浅い階層で雑魚を狩っていた僕とアイラだったが、突如、けたたましい地響きが響き渡り、足元が大きく揺れた。
壁の苔がぱらぱらと落ち、天井から砂が舞い落ちる。
ただの揺れではない、何か巨大なものが近づいている。
低く重い音が洞窟全体に広がり、鼓膜を震わせるというより腹の奥に沈み込む。
石床を伝って足元から振動が這いづり上がり、体そのものが巨大な存在の鼓動に合わせて揺さぶられているようだった。
呼吸は浅く、肺に冷たい圧力がかかる。
「なに……これ……?」
アイラの声は震え、顔は蒼白になり、視線は闇の奥へと釘付けになっていた。
次の瞬間、冷気を纏った風が奥から吹き抜け、湿った土の匂いに混じって鉄のような匂いが漂ってくる。
見えない何かが迫っている、そう確信させるには十分すぎる気配だった。
仄暗いダンジョンの奥から、蹄鉄の音が重く響き渡る。
“それ”が、一歩、歩を進める度に地面が震え、壁の苔が細かく揺れ落ちる。
漆黒の鎧を纏った人馬騎士“エクイノクスナイト”が姿を現す。
周囲の空気そのものが冷え込み、肺に吸い込む息が重くなる。
その眼窩の奥で赤い光が瞬き、視線を浴びただけで背筋が凍りつく。
黒鉄の槍がゆっくりと持ち上げられるたび、周囲の闇がざわめき、まるでダンジョン全体が“エクイノクスナイト”の存在を畏れているかのようだった。
ただ立っているだけで、逃げ場を塞ぐような圧力。
気付くと周囲にいたはずの雑魚魔物が消えている。
浅層に現れるはずのない異常な存在、その威圧感は、呼吸をすることさえ忘れさせる程のものだった。
本来、この、ミヤビダンジョンのボスを守護する魔物、それが人馬騎士“エクイノクスナイト”だ。
「噓でしょ!?こんなのが浅層に出るなんて……。」
僕はアイラを庇う様にエクイノクスナイトとの間に入り、アイラに下がっているように促した。
生身の人間が対峙して良い魔物ではない、もし今ここにいるのが、普通のパーティーだったなら、既に命を落としていたとしても、何の不思議もない。
今、目の前にいるのは、そういう存在なのだ……。
「アイラは逃げる準備をしておいて、アイツはアイラを狙う可能性があるから、僕とエクイノクスナイトが戦闘を始めたら、急いで逃げるんだ。」
トトのEQゴーレム越しに見える、エクイノクスナイトの赤い眼光が闇を裂いた瞬間、アイラの喉は凍りつき、足が地面に縫い付けられたように動かなくなった。
心臓が暴れるように脈打ち、呼吸は浅く、視界が揺れる。
涙と鼻水があふれ、太ももをつたう生暖かい感触。
逃げろと言われても、恐怖が身体を支配して、その場に縛り付けていた。
それでも、トトの背中が目に入る。
シールドを構え、ジャベリンを握るその後姿は、
恐怖を押し返す壁のように彼女の前に立ちはだかっていた。
「……大丈夫。トトがいる。」
震える声、しかし、それでも声に出したその瞬間、アイラの足はようやく後ろへと動き出すことが出来た。
恐怖に押しつぶされそうになりながらも、トトを信じる気持ちが、強張る体を解きほぐしてくれたのだ。
僕はインベントリから、柄の長い武装を選択する。
その名は“ビームジャベリン”。
右手に握った瞬間、槍先が赤熱し、空気を裂くような唸りを上げる。
ジャベリンの灼ける光が、暗いダンジョンの闇を照らし、周囲に蜃気楼を生む。
熱気が頬を撫で、握る手にまで微細な震動が伝わってくる。
エクイノクスナイトの突進。
エクイノクスナイトは僕の右側から、大きく迂回して、後ろで機会を窺っているアイラを狙って突進してきた。
僕は、右に軽くサイドステップで移動しただけで、エクイノクスナイトを射程に捉える。
「迂闊なヤツ!」
黒鉄の槍と、赤熱のジャベリンが交錯する刹那、閃光が走り、辺りが一瞬だけ白に染まった。
次の瞬間、漆黒の鎧は脇腹から貫かれ、
重々しい人馬の躯は、黒い霧となって崩れ落ちる。
残されたのは、脈動する魔核と冷たい黒鉄の鎧だけだった。
なかなかのサイズの魔核と、黒鉄の鎧、これなら少なく見積もっても1万ミルは稼げる。
「これなら、さらに上級のチケットに手が届くかもしれない……。」
「いやいやいやいや、そこじゃないでしょ!」
「え?」
「トト!今一撃で倒したのって、そこらにいる雑魚じゃなくて、最下層に出るヤツだよね?」
「うん、ボスの護衛に出てくるうっとおしいヤツだよ。」
「うん、うっとおしいヤツだよ。じゃないでしょ!私ね、死ぬかと思ったのよ。色々と走馬灯がよぎったし、お母さんとお父さんに別れの言葉とかも考えてたのよ。どうしてくれるのよ!」
「えぇと、う~ん、なんか、ゴメン……。」
「あぁ!ダメっ。近づかないで、私には、今は近づかないで。私は、帰るわ!!!」
「えぇ!?一人じゃ危ないよ!」
「大丈夫だから、ついてこないで!!!」
「あぁ、行っちゃった……。アイラどうして怒っていたんだろう、僕何かしちゃったのかな……。」
僕は、ドロップしたアイテムをマジックバッグにしまいつつ、やはりアイラのことが心配だったので、ダンジョンを出るところまでは見届けようと、遠巻きに後を追うことにした。
しかし、アイラがダンジョンを出るまでは、特にイレギュラーもなく、そのまま外に出て行ったので、僕は再びダンジョンの中に引き返し、最下層を目指すことにした。
「アイラもきっとものすごく怖かったんだろうから、早く良いプラモを手に入れてあげないと。プラモを装着してさえいれば、あんなに怖がることも無かったろうに。そのためにも、まずは上級チケットが買えるように、ドロップアイテムを稼がなくちゃ。でも、1枚2万ミルは高いよ……。」
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