22話 責任
数ある作品の中から見つけてくださり、ありがとうございます。
楽しんでもらえるように書いてきますので、どうぞ気軽に楽しんでいってください。
僕たちの住む街ムーシルトは、嘗て神が治めた地であるという言い伝えが残る、歴史ある街だ。
そして、そのムーシルトの街の中心には、ムーシルト城という、その昔、王様だか領主様だかがいたころに建てられたお城がある。
しかし、我がムーシルトのお城は、数千年前に建てられたと云われてはいるものの、その外観は、つい数年前に建てられましたと言われても、なんの違和感も持たない程に、劣化の跡が全くと言って良い程に見当たらない。
しかも、他の街にあるお城と違って、形がものすごく独特というか、逆にシンプルというか、とにかく四角いのだ。
城門もお堀もなく、一階のガラス製の回転ドア式玄関から入ると、広いエントランスがあり、その奥には、ムーシルトの街の役人が、各種行政サービスを提供する窓口があり、地下にはムーシルトに住む人ならだれでも利用することの出来る、格安の食堂があり、上の階に上がると、今度は各階に、色々な課が設置されていて、それぞれ専門的な部署に専門家の役人が配置され、ムーシルトの街に住む人達の、様々な問題の解決に尽力してくれている。
「本当にここで間違いない?」
「トトもしつこいわね、さっきから間違いないって言ってるじゃない。この建物の、3階の魔法部魔獣被害対策課って書いてある大きな部屋の奥にある部長室ってところに入っていったのよ。急がないとチッチが全部燃やしちゃうわよ。」
「確かに、チッチならやりかねないから、心配だね……。」
「よし、じゃあ行こうか。こういう場合、かえってこそこそしたりするから見つかった時に言い訳が立たなくなるんだよね。だったら、堂々と、部長さんに呼ばれてますくらいの感じでいった方が、呼び止められても不審に思われ難いだろうし、なんなら、見つかったらダッシュで部屋に駆け込むという手もあるし、普通に入って行こう。」
「私はどのみち、人間からは見えないんだから、どうでもいいわ。」
「そんな、身もふたもない事言わないでよ……。」
僕は、部屋に入ってすぐのカウンターの奥にいる人からは見えないように、少し体勢を低くして、通り過ぎ、その後は、もう見つかっても仕方ないと、普通に歩いて進んだ。
すると、案の定仕事中のおじさんに呼び止められてしまった。
「坊や、こんなところでどうしたんだい?お父さんとかお母さんとはぐれたのかい?」
「い、いえ。お父さんとお母さんは、奥のあの部長室って所にいるので、僕も戻る所です、トイレに行きたくなって……。」
「そうだったのか、そういや確か部長、今日は来客がどうのこうの言ってたもんな。呼び止めてしまってゴメンね。」
思いのほか上手く行った。
そして、僕はそのまま奥の部長室と書いてある部屋に入ると、部屋の主と思われる人が奥の立派な事務机の奥に座っていて、その前に設置されている応接セットのソファには、黒いフードをかぶった男がふんぞり返って座っていた。
チッチはというと、二人の間を行ったり来たりして、せわしなく動き回っていたが、特に意味がある様子でもなかったので、そのままスルーした。
部屋に入って来た僕を見て、部屋の主は「良いという迄入るなと言ってあっただろう!」と怒鳴りかけて、僕の顔を見るととても驚いた顔をして、口籠ってしまい、黒いフードの男も、すぐに認識阻害の魔法をかけたのか、存在が薄くなってはいたけど、見ていたので完全に見失い事はない。
ぼくはチッチとクックに合図して、黒いフードの男の追跡を頼んだ。
部屋の主は、僕が自分の部屋に現れたことに驚いた様子で、口をパクパクさせていたが、ようやく一言声を絞り出した。
「き、君は、どうして、ここに……。」
「僕たちには、あなた方には見えない味方がいるので、その箱を持ち去った人間を、追跡してもらったんですよ。さっきの黒いフードをかぶった人をね。今もまた、部屋から出て行ったようなので、追跡してもらってますよ。」
「な、なんの事を言っているのかわからないな。」
「おじさんが誰だかは知りませんが、目の前に動かぬ証拠があるのに、言い逃れようとしても無駄じゃないですか?」
「こ、この箱の事を言っているのであれば、これが君の物であるという証拠なんて、どこにもないだろう?」
「いいえ、意外とそうでもないんですよ。おじさんは、その箱の中身を見たから安心しているのかもしれないけど、僕だってそう簡単に奪われるような真似はしませんよ。その箱も瓶も確かに市販品ではありますが、その箱の中の緩衝材を剥がしてみてください。」
「な、なに!? はっ!こ、これは……。」
『この箱も瓶の中身も、僕の持ち物で間違いありません。トト・パトラディル』
「パ、パトラディル……。この家名はもしかして……。」
「そんなことより、それが僕の持ち物であることは、これで疑いようがないとわかってもらえましたよね。それで?その薬が必要なのは誰なんですか?それを金目の物として指定するくらいなら、最初から金銭を要求すれば良いんだし、立派な御役人さんが、そんなものの為に将来を棒に振ってまでやることじゃないですよね。」
「む、娘が……。」
「わかりました、じゃあ行きましょう。」
「え?どこへ?」
「決まってるじゃないですか、娘さんのところですよ。」
「待ってくれ、娘は何も知らないんだ。」
「わかってますよ、そんなことぐらい。あなたを見ていても、根っからの悪人である気配なんてしませんし、おおかた誰かに唆されたんですよね。あなたが犯した罪を許すつもりはありませんが、病気で苦しむ娘さんにも、その看病で心が蝕まれていくご家族にも、咎なんてないじゃないですか。最初から僕たちに言ってくれれば良かったんですよ。知ってたんですよね?僕がこの薬を持っているということを。」
「私の娘の治療に当たっている医者が、娘と同じように不治の病と思っていた女性が、奇跡的に回復したと言っていたのを聞いたんだ。そして、その女性はどうやら試練の塔でドロップすると言われている、万能薬を飲んだらしいとも。」
「そして、その薬の持ち主が、僕だということも聞いていたんですね。最初に会った時に、僕の顔を見て驚いたということはそういうことでしょう。」
「君は、なんという……。 い、いや。なんでもない。そうだ、私には、以前からの知り合いで、困った時の汚れ仕事を請け負ってくれている者がいたんだが、その男が、娘の話を聞きつけてきて、格安で誘拐を手引きしてやると持ちかけてきたんだ。実行犯も、段取りも、全部請け負うと言い、私は金を払うだけで良いと……。私は濃縮エリクサーという薬が、どれ程の価値がある物かを知っていた。しかし、君という人間が、これほどまでに誠実な人間だということは知らなかった。藁をもつかむ思いだったんだ……。」
「あなたの娘さんを思う気持ちが理解できない程、僕は幼稚ではありません。ですが、それと家族を傷つけられることとは別の話です。娘さんの病気は僕が治しますが、あなたにはそれ相応の責任を取っていただきます。」
「娘さえ、娘さえ助けてもらえるなら、私なんてどうなってもいい。ありがとう、感謝する……。」
「それもちょっと違うというか、自分の病気のために犯罪を犯す父親というものを、娘さんがどう受け止めるのかを考えたうえでの発言ですか?」
「うぅ……。 返す言葉もない。」
僕は、このおじさんの自宅にうかがって、娘さんに濃縮エリクサーを服用させた。
そのうえで、娘さんには事の経緯をしっかりと伝え、おじさんには自分の行動の責任を取ってもらうつもりだということを話した。
最初は自分のせいだ、自分が悪いんだと言っていた娘さんも、僕が時間をかけて丁寧に説得をすると、理解を示してくれたようだった。
警察署に行って、事の顛末を話したうえで、おじさんは唆されたという点と、実質的には被害と言えるものはトレイシーおばさんとセレーナさんの心の傷くらいで、それについても、本人たちはケロっとしているということも伝え、最大の被害額になりそうな濃縮エリクサーについては、僕が返却してもらったうえで、僕の意思で娘さんに服用してもらったと伝えた。
そして、この事件を企図し、実行に移し、金を受け取っている黒幕が存在することも伝え、おじさんには情状酌量してもらえるように伝えておいた。
社会的な制裁を受けることになるであろうおじさんも、病気が治ったとはいえ、今後は苦しい生活を余儀なくされる娘さんも、しっかりとお互い向き合って生きて行ってほしいと思う。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
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次回は2月17日(火曜日)に更新予定です。
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