12話 片鱗
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。
「嘗てあの塔に挑んで死んだ人間なんて、掃いて捨てる程にいるんじゃないかしら。特に、21階以降は明確に先に進むなと強く警告していたはずよ。あの塔を攻略した人間なんて、後に神化した、塔を作った張本人くらいで、その他の人間はまず、20階のラウンジにたどり着けないというのが世の中の常識よ。」
「試練の塔は、今じゃプラモを纏って攻略するのが一般的で、それこそトップの人達は、50階を越えているらしいから、僕たちも、まずは50階を目標にしているんだよね。」
「試練の塔?あなたたちは、あそこを試練の塔と呼んでいるの?」
「うん、ていうか、現代では、あの塔を試練の塔と呼ぶのがあたりまえだけど、以前は違ったの?」
「作った張本人は、確か、なんとかカリン塔と呼んでいたと聞いたわよ。」
「あの塔って神様が作ったんでしょ?」
「正確には、神になった人が、人間だった頃に、迷宮核を使ってダンジョンを塔に作り替えたというのが正しいわね。」
「ずいぶん詳しいけど、チッチとクックは、その神になった人の事知っているの?」
「直接面識がある訳じゃないけど、当時は私たち妖精の間ではちょっとした有名人だったからね。《全属性契約者の再来!》とか言って。」
「全属性契約者?」
「この間も少し話したと思うけど、昔は精霊との契約というのが、魔法を使う上での大前提だったのよ。でも、契約にはそれなりの魔力量が必要だから、普通は一つ契約出来たら大したもの、二つの契約をしたなんて人がいたら、大騒ぎになるレベルだったのよ。ところが、今から2000年以上前に、その方も神になった方で、異世界からの転生者だったようなんだけど、この世界に転生してすぐに、当時最強と恐れられていた竜を討伐しちゃうくらい凄い方だったわ。その方がやっぱりこの世界に転生して間もなく、全ての属性の精霊と契約を交わし、自ら魔法を創造するという偉業を成し遂げられ、この世界のそれまでの常識を覆したのよ。当時はそれはもう妖精界では大騒ぎになった方なんだけど、その偉大な方の再来と言われたのが、このカリン塔の製作者よ。」
「へぇ~。って、ちょっと待った、今、カリン塔って言った?」
「えぇ、そうよ。あの塔は確かね、そうそう、煉獄カリン塔って名前だったはずよ。」
「カリン塔って、試練の塔のあるカリンダの街の名前とそっくりだけど、あの街の名前の由来って、もしかしてその塔の正式名称に関係してるんじゃないかな。」
「「あんなところに街が出来たの?」」
「出来たも何も、僕たちが生まれるずっと前からあるよ。」
「あそこは、魔物こそ迷宮核で封じられこそしたけど、外には沢山の魔獣がいたはずだったわよね、クック。」
「そうそう、魔物よりも寧ろ魔獣の数の方が多かったはずよね、チッチ。」
「魔獣は、いるにはいるけど、カリンダの周りが特に多いとかはなかったと思うよ。世界中どこでも魔獣は出るし、出たところで、みんながみんな襲ってくるものでもないしね。普通の動物との違いで言うなら、魔力の有無だけでしょ?危ないのはあいつくらいじゃない?泣くと燃えるヤツ。」
「フェニッコケね。」
「うんうん、鶏冠の炎が、鳴くと全身に燃え移って、周りを火事にしちゃうヤツ。アレは見かけたら駆除しないと、街が大変なことになるからね。」
「赤い鶏のようなフェニックスの事よねクック。」
「そうよ、あなたの所の精霊が力の与え方を誤ったヤツでしょ、チッチ。」
「クック、それは言わない約束よ……。」
「あはははは、精霊様でも間違うこともあるんだね。」
「あははじゃないわよトト、そんなミスで街が燃やされてしまったら、間違っちゃいましたごめんなさいで済む話ではないわ。それより、今日はこれからどうするの?」
「どうしようね、今から塔に入っても、帰りの時間が遅くなるだろうし、とりあえず、カリンダのギルドに行って、要らない物を買い取ってもらおうか。」
「そうね、それじゃ出かけるとしましょうか。」
「「私たちも行くわ!」」
「よし、じゃあ皆で出かけようか。何か必要なものがあれば、ついでだから、帰りに買ってこようか。」
僕たちは、拠点を出て、真っすぐ転移魔法陣へと向かい、カリンダの街へと移動すると、そのまま冒険者ギルドに向かうことにした。
ギルドへ向かう街道は、夕暮れの光が長く伸びて、どこか心細さを誘う。
人通りもまばらになり、僕は肩に掛けた荷物を握り直した。
「なんか、静かだね。」
「そうだね、みんな日が落ちる前に帰っちゃったのかな。」
僕がそう言った瞬間だった。
「おい、そこのガキども。ちょっとお兄さんたちとお話しようか。」
背後から、ガラの悪いざらついた声。
振り返ると、三人の男がいて、正面に向き直ると、そこにもさらに三人の男が道を塞いでいた。
刃物をちらつかせ、舌なめずりをする男たち。目は完全に獲物を見る目。
「ガキがギルドに来るってことは、何か持ってんだろ? 全部置いてけ。命だけは助けてやる。嬢ちゃんは……まぁ、ちょっと借りるぜ。……ククッ。」
今はプラモを拠点に置いてきている、これと言った武器もスクロールも持ってきてはいない……。
アイラは怯えるように一歩後ろに下がり、震える声で僕の袖を掴んだ。
「トト……どうしよう……。」
僕は不安がるアイラを落ち着かせる言葉もかけられず、どうしようかと辺りを見回すが、周囲を完全に塞がれていて、逃げ道はない。
男たちはじりじりと距離を詰めてくる。
そのとき……。
「どうしたのよ、だらしない。こんなチンピラごときに。」
「そうは言っても、大人がこの人数で囲んでるんだから、子供のトトとアイラが怯えるのも仕方ないでしょ。」
耳元で、チッチとクックの声が重なった。
次の瞬間。
『ゴッ』と鈍い音をたてて、盗賊の一人が前のめりに勢いよく転んだ。
「なっ……なんだ?足が勝手に……。風か!?」
クックが小さく息を吹く。
見えない突風が男の足元をすくい、砂埃が舞い上がる。
「視界が……っ、なんだこれ!」
もう一人が投げたナイフは、風に弾かれ、全く違う方向へ飛んでいった。
「おい、お前ら何やってんだ! どこに……熱っ!?」
チッチが指を鳴らすと、男の持つ短剣が赤く発光すると、悲鳴とともに地面に落ちる。
「ちょ、ちょっと待て、なんなんだこれ?魔法使いか!? ガキのくせに、どこかに仲間でも隠れてやがるのか?」
「隠れてなんかないわよ。あなたたちが見えていないだけでしょ、さぁ、行くわよクック。」
チッチの声は、盗賊には届かない。
しかし、チッチが出した小さな火球が男たちの足元に届くと、今度はクックが息を吹きかけるようなしぐさをしたとたん、足元の火球は大きな火柱となって、盗賊たちに襲い掛かった。
「ひっ……!退散だぁ!相手が悪ぃ!」
六人の盗賊たちは互いに押し合いながら、来た道を転がるように逃げていった。
通りに静寂が戻る。
「い、今の……全部、チッチとクックが……?」
僕は思わず呟くと、チッチは胸を張った。
「仲間なんだから、守るのは当然よ!」
「そうよ。あんなの、火種とそよ風で十分だったわよね、チッチ。」
「私達が本気を出したら、今頃ここには炭になったあいつらの死骸が転がっていたでしょうね、クック。」
「それはいくら何でもやりすぎよ。チッチ。」
「なによ、あなたに合わせて言ったのに!」
アイラは胸に手を当て、ほっと息をつきながら言った。
「ありがとう。二人がいてくれて、本当に良かった」
僕はゆっくりと街の外にそびえる塔を見上げる。
夕陽に照らされた巨大な影が、まるで空を貫く矛のように伸びていた。
「行こう、アイラ。僕たちなら、きっと行ける。チッチとクックもいるし」
「うん。行こう」
「任せてちょうだい」
「風と火で、全部吹き飛ばしてあげるわ」
四人は、塔へと続く道の先にあるものを見据えた。
ここから、本当の冒険が始まる……。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回で完結扱いとさせていただきますが、感覚としては、第1巻が終わりましたという感じで受けてもらえると幸いです。
よければ次からのお話も読んでいただけるとありがたいです。(次回更新は1月13日木曜日となります。)
どうぞよろしくお願いいたします。
このお話が面白いと思っていただけたなら、評価やコメントなどいただけるとありがたいです。




